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20◇モネに借りを返す

 



「ちがいますっ。それに、先生は探索者にとって重要な人脈? についても紹介してくださいました」


「へぇ、確かに重要よね。装備整えたり、情報買ったり、アイテム売ったりする相手というのは、探索者人生を掛けて培っていくものだわ。このあたりを疎かにしている者は長続きしないわね」


「先生は一部の限られたかたに、探索才覚(ギフト)を使用して描いた地図を販売なさっています」


 ディルの能力はそういうふうにも利用できる。


 探索才覚(ギフト)で安全なルートを表示し、それを地図に描くわけだ。

 ややコツのいる作業だが、経験を積んだからこそ出来る匠の技と言えるだろう。


「あたしも買ってるわよ。ダンジョン内は安定と無縁だから、『比較的安全なルート』が分かるだけで大助かりなのよね。それに……いえ、いいわ」


 ディルが途中でモネを睨んだので、彼女は肩を竦めて話を中断した。


「……? 先生は大切な地図をわたしに預け、大事なお客さまのところまで届ける役目を任せてくださいました」


 えっへんとばかりに、アレテーは平坦な胸を張る。


「自分で行くのが面倒くさくなっただけよ絶対」


 正解である。


「ちっ、ちがいますっ! せ、先生はわたしに、将来頼るべき信頼できるお仕事相手を紹介してくださったんです……!」


「と、言いくるめられたのね」


「うぅ……。モネ教官は、先生を信じていないんですか?」


「信じているわよ。けどねレティ。信頼というのはゼロか百かではないの。ダンジョンで命を預けられるくらい信じていても、女の子の扱いは信じられなかったりするものなのよ」


「先生は、優しいです、よ?」


 ――なんでちょっと疑問形で言うんだ。こういう時は断言しないと怪しまれるだろうが。


「……ふぅん。あなたには優しいのかもね」


 信じたのか信じてないのか、どちらかは分からないが、モネの機嫌が悪くなったのがディルには分かった。


「お前にも優しいだろ。というか、俺は誰にでも優しい」


 モネはジト目でディルを見つめた。

 ディルは目を逸らさず、彼女を見つめ返す。


 今回根負けしたのは、モネの方だった。


「……はぁ。じゃあ、話を戻すわね。お優しいディルセンセイにお願いがあるのよ」


「優しいから、聞くだけ聞いてやる。引き受けるかはまた別だが」


 一人で静かに過ごす休日は既に完膚なきまでに破壊されたので、ディルは投げやりに言った。


「あたしが支援してる施設でね、今日食事会が開催されるのよ。元はなんだったかしら……どこかの種族の祭事だったかと思うけど、自分たちでとれる一番良いお肉を、その年に成人する子たちにお腹いっぱい食べさせる、という行事なのよ」


「狼の獣人あたりで、そういうのがあったな。我が子の成人を祝うやつだ」


「あら、詳しいのね。うちではお肉食べ放題の日って認識で、大人気なのよね……」


 元々は親が狩った獲物を振る舞い、お前もこれを出来るようになるのだぞ、と親として最後の教導をする日でもあった筈。


 プルガトリウムには様々な種族が入り混じっているので、年中様々な祭り事がそこかしこで行われている。


 自分の種族にとって伝統的な催しのみ参加する者もいれば、節操なく騒げるならなんでも参加する者もいる。


「既に嫌な予感がするんだが、当日になって肉の調達を手伝えとか言わないよな?」


 モネは、珍しく甘えるような顔をした。


「……お願いっ」


 ディルは反応に困った。

 沈黙が場を支配し、モネが徐々に顔を赤くする。


「な、何か言いなさいよ」


「可愛い後輩の媚びた仕草を見れて、居た堪れない気持ちだよ」


「こ、この男……っ。人が下手(したて)に出たらこれなんだから!」


「俺はいつもこうだ」


「そうだったわね!」


「あ、あのー、モネ教官?」


「こほんっ。何かしら、レティ?」


 まだ顔は赤いが、気品漂う年上のお姉さんの仮面を即座に被るモネ。


「もうお昼ですけど、お肉の用意は当日にするものなのでしょうか? やはり、新鮮な方が……?」


「いえ、自前の冷蔵室があるからそこは問題ないわ。実はその……昨日の内にダンジョン第一階層で確保していたのだけど……」


「待て待て。お前、暴食領域の肉を振る舞うつもりだったのか?」


「だって、あたしがとれる一番良いお肉だもの」


 支援している施設というのは孤児院だろう。

 運営資金を提供するばかりか、ダンジョン由来の肉まで振る舞うとは、さすがは『聖女』と呼ばれるだけはある。


「で? 盗みでも入ったか?」


 モネは悲しげに目を伏せた。


「そういうこと。管理を任せてた人が勝手にお金に換えて、姿を消したのよ」


 誰もが、善意の行動に賛同してくれるわけではない。

 孤児が肉を食って喜ぶ姿よりも、自分ひとりに大金が舞い込む方が幸せという者も多いだろう。


「ひどいですっ……!」


 他人事だというのに、まるで自分の家族が被害に遭ったみたいに、アレテーは怒っている。


「これまでは真面目に働いてくれていたから、驚いたわ……」


「そいつを探し出して締め上げればいいのか?」


「いえ、制裁とか報復とか、そういうことに興味はないのよ。一応届け出はしたけど、望み薄でしょうね」


「まぁ捕まえて金を取り戻しても、同じだけの肉は買えないしな」


 当然肉屋も商売なのだから、仕入れ値よりも売値の方が高くなる。

 肉を買った方を探し出して取り戻す……というのも難しいだろう。


 子どもたちのために今とるべき手段があるとすれば――。


「……狩りに付き合えってか」


「そ。もちろん強制じゃないわ。その時は一人で行くから」


「せ、先生……」


 アレテーが潤んだ瞳でディルを見つめる。

 手伝ってやるべきだとか思っているのだろう。


「あー……くそ。俺は無関係なガキ共の飯がどうなろうが興味ないんだよ」


 だが、とディルは続ける。


「借りは返さないとな」




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― 新着の感想 ―
[良い点] 更新ありがとうございます。 [一言] ダメ人間なわりに借りは返す人はダメ人間だけどいい人だよ!
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