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19◇名探偵モネ




「一回居留守使おうとしたでしょ」


「まぁな」


「わ、悪びれもしない……っ」


 ぷるぷる体を震わせていたモネだが、すぐに溜息を溢した。


「いいわ。あなたの人嫌いなんて分かっていたことだし」


「お優しいことで」


「それで……よければ、一度中に入れてくれる? レディを玄関に立たせておくのが趣味でなければ、だけど」


「実はレディを玄関に立たせておくのが趣味なんだ」


 ディルの冗談はウケなかった。


「別の趣味探した方がいいわよ」


「俺もそう思うよ」


 ぐいっ、と体を割り込ませるようにして、モネはディルの部屋に入ってくる。

 ディルは追い返すのを諦めた。


「あら、変わったのは本当なのね。部屋、すごく綺麗じゃない」


「そうか? 前と大差ないだろ」


「どういう謙遜……? 廃屋と新居くらい変わってるでしょ」


「あんまキョロキョロ見るなよ。それで、何の用だ?」


「その……頼み事があって」


「嫌だが?」


「…………」


 じぃ、と見つめられる。

 十秒くらい経ったか。

 ディルは諦めた。


「まぁ、お前には借りがあるしな。一応、話くらいは聞いてやろう」


 ディルの言う借りとは、探索才覚(ギフト)発動を隠すため、モンスター討伐をモネの功績にした件だ。


「あぁ、あれ。本来、人の功績をかすめ取るような行いは大嫌いなのに……。でもあなたが望んだから、あたしがやったということにしたのよ? 微妙に射程外だったから、他の教官がたは気づいてるかもしれないけど」


探索才覚(ギフト)の詳細を明かさないなんてみんなやってるだろ。お前の射程が申告よりも長かったと思ってくれるさ」


 実力を広く知られるというのは、良いことばかりではない。

 対策を講じる余地が出来てしまう、ということでもあるからだ。


 探索者同士は競合相手であることや、ダンジョン内の無法地帯ぶりを考えると、実力の全てが知られるのは好ましくない。

 いざという時に敵の裏を掻ける手段は多いに越したことはないのだ。


 特に、探索才覚(ギフト)が非戦闘系のディルのような者にとっては。

 モネもそれを理解して、ディルの意思を尊重してくれたのだろう。


「程度があるでしょ。あなた、能力を隠しすぎて雑魚だと思われてるのよ?」


「それでいいんだよ」


「むぅ」


 モネは不満そうな顔をしていたが、ある時、食卓に視線を移す。


「椅子、増えたわね。前は自分一人だから一つで充分とか言ってたのに」


「……部屋を綺麗にするついでに、客用も買っただけだ」


 モネがキッチンに移動する。


「食器も増えてるわ」


「そういうこともあるだろ」


「ねぇ、ディルまさかあなた……」


 モネが深刻そうな顔になる。


「か、かのっ、彼女……とか、できたわけ?」


「恋人が出来て変わる的なやつが、俺に当てはまると思うか?」


「そ、そうよね! もし出来たらあたしが気づくはずだし!」


 深く安堵したように胸を押さえたあと、大げさに騒ぐモネ。


「そ、それでね、ディル。あなたの言葉を信じた上で、答えて欲しいことがあるのよ」


「なんだよ」


 モネがニッコリと微笑んだ。


「寝室に隠れてる子、誰?」


 ――気づいてたかー……。


 ディルは逃げ出したくなった。


「ひゃうっ……!?」


 扉に耳でもくっつけていたのか、驚いたアレテーが寝室の扉から転がり出てくる。

 モネとディルの会話が気になったのかもしれない。


「……あなた、レティ?」


「こ、こんにちはです、モネ教官」


「ディル。説明してくれるわよね?」


「俺は被害者なんだ」


「そ、そんなぁ……!」


 ディルがキリッとした顔で言い、アレテーが困りきったような声を出す。


 その後、かくかくしかじかという具合に説明を済ませると……。


「はぁ? リギル所長の指示で?」


「お前の気持ち分かるぞ。あいつほんと何考えてんだろうな」


「……あたし的には、あなたが引き受けたことの方が驚きだけど」


「断ったら、来月から家賃を払えとか言うんだ。酷いと思わないか?」


「むしろ今まで払ってなかったわけ?」


「そこは気にするな」


 アレテーはというと、何故かモネに抱きしめられている。


 故郷を出て深淵を目指すべくこの街に来たが、受講料を除けば無一文という状況でリギルに助け舟を出してもらった……という話を聞いたモネが涙を流し同情したからだ。


「大丈夫? 変なことされてない?」


「だ、大丈夫ですっ。先生のこと、信じていますので」


「あなた一人くらい、あたしのとこで面倒見てあげるわ。無理しなくていいのよ」


「い、いえっ。先生のお近くにいることで学べることもあると思うのでっ!」


「真面目で良い子ね……! でも、普段のディルから学べることなんてあるかしら?」


「お前失礼だな」


「はいっ。ディル先生は日々の生活を通して、様々なことを教えてくださいます」


 ――あ、まずい。


「……ふぅん? たとえば?」


「お料理はわたしの担当なのですが、先生からのリクエストがあった際は市場を回って指定の食材を買って帰るんです。先生はそのあと、わたしが買ったものを見て良い品の見分け方を教えてくださいます」


「パシらせた上に文句つけてるだけじゃないのそれ」


「違います! 探索者は体が資本。普段口にするものが己の肉体を形作る糧となるのです。また同じ食事ばかりでは飽きが来ます。先生はわたしが知らない料理を教えてくださると共に、いずれ独り立ちした際に、わたしが何をどこで買えばいいか迷うことがないようにとのお考えなんですっ!」


「と、言いくるめられたのね」


 正解である。




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― 新着の感想 ―
[一言] ディル、お前……。 あー、ついにバレたかー。
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