17◇外れ能力の反面教師?
「ちょっと誰か! なんとかしなさいよ!」
フィールが叫んだ。
モネとオーガが助けに入ろうとするが、パニックになって逃げ惑う他の生徒達にルートを塞がれて三人組に近づけない。
フィールは腰が抜けてしまったらしく、その場から動けない。
アルラウネとドラゴニュートの教官二名は他の生徒を呼び集めていたので、距離がある。
「熱血くん、そこからでも氷結すればいいだろ」
「ぐっ……オレの探索才覚は射程距離が短いんです!」
「あはは、知ってる」
「こんな時になんですか!!」
状況確認である。
「ネズミ少年とサカナ少年、こういう時に姫を守ってこそ騎士ではないかね」
「い、い、いわれなくても!」
ネズミ耳の少年が自分の背後に光の剣を出現させた。
それは少年が腕を振るうのに合わせ、射出される。
「見ろ二人とも。お前らと違ってネズミ少年は射程距離が長いようだぞ」
モネと熱血教官に言う。
「少し黙っていただけます!?」
ディルはモネに怒られてしまった。
光の剣はそもそも狙いが間違っていたのだろう、イノシシにかすりもしない。
「う、うぉおおお!」
サハギンは雷の槍を生み出し、自分の手で握った。
そして――。
「やっぱ無理……!」
フィールを置いて逃げ出した。
「はぁっ!? あんた何してんのよ! あぁもう!」
ようやく覚悟を決めたのか、フィールが圧縮された水の刃を放つが、こちらも狙いがそれて当たらない。
「なんでよ!?」
――このあたりでいいか。
ディルは腰に収めたショートソードの柄に手をかける。
――探索才覚発動。
――経路表示。
視界に、自分がなぞるべき道が示される。
朧気な幻像。
あとは、その通りに動くだけ。
一秒も、経っていない。
ディルは全ての行動を終え、行動前に立っていた場所まで戻っていた。
剣を鞘に収める音と、外套の揺らめきだけが、ディルが動いていたことを証明する。
「え?」
イノシシの首がごとりと落ち、疾走の勢いを殺しきれず血を撒き散らしながら転がる。
それをいくらか浴びながら、フィールは呆然としていた。
「さすがは『閃光のモネ』! 目にも留まらぬ救出劇だったな!」
ディルは大げさに叫んだ。
「はぁ? 今のはあたしじゃ――」
「教官としては新米でありながら、生徒の危機にいち早く駆けつけるとはさすが『聖女』とまで言われることはある。実に素晴らしい!」
モネが半目になってディルを睨んだ。
『そういうことにしておけってことね?』と視線で確認してから、彼女は溜息を溢す。
「みんな、もう大丈夫よ。ごめんなさい、あたしたちの不手際だわ」
続々と生徒たちからモネへの称賛の声が上がる。
一部、危険に晒されたことへの不満の声も出たが、そう大きくはない。
ダンジョン探索では、モンスターがいつどこから自分に襲いかかってくるか分からないのだ。
それが常。
そんな中で、冷静に対処せねばならない。
探索才覚を得て調子づいていた彼ら彼女らは、先程の騒動で自覚することになった。
まだ自分たちには、その心構えが出来ていないのだと。
ディルは数少ない、慌てていなかった者へ声を掛けた。
「おい子うさぎ、何落ち込んでる」
「あっ、ディル先生……あの、ごめんなさい。わたしの所為で」
「言ったろ、教官陣の責任だ。で、さっき何考えてた」
「さっき、ですか……?」
「お前、あの三人を助けようとしてたろ」
そう。
クラスで一番探索者に向いてないとバカにされているアレテーだけが、あの状況に適応しようとしていた。
ディルには、モンスターの逃走を敢えて見過ごし、生徒たちの対応を見る目的があった。
ダンジョンスクールが用意する訓練で危機感を覚えさせるのは難しい。
生徒の安全を確保した上で、予行練習をさせるのが目的だからだ。
しかし本当に探索の訓練をさせたいのなら、いつ何が起こるか分からない状況を体験させるのが一番だ。
そこでの対応こそ、探索者にとって最も重要な能力だからだ。
「クマさんは間に合わないと思ったんです。最初はわたしの近くで作り出さないといけないから……」
「それで?」
「そのあと、迷ってしまったんです。速い動物さんで追いついたとしても、どうやってイノシシさんを止めよう。それとも、三人を運べる動物さんを考えた方がいいのかな、とか」
生成にかかる時間と、最初は自分の近くに出現させねばならないという制約、そして対象までの距離を考慮に入れた上で、悩んだわけだ。
「結局、わたし、何もできなくて……!」
アレテーは悔しそうに手をぎゅっと握りしめた。
「……なんで助けようと思った。別に親しくもないだろ」
「同じクラスの仲間ではないですか……!」
「――――そう、か」
彼女にとっては、それだけで助ける理由になるらしい。
「アレテー」
「はい……。……………………えっ!? 先生、今、えっ」
名前を呼ばれて驚くアレテーを無視して、ディルは続ける。
「お前は、探索者には向いていない」
「……うぅ」
「だが、もしかすると、良い探索者になるかもしれん」
「えっ?」
ぽかんとするアレテーを置いて、ディルはモネを称賛する生徒たちに混ざる。
「さすが聖女! 天才! 髪キレイ! 超美人! えぇと、肌ツヤツヤ!」
「褒め方が雑! ほぼほぼ能力関係ないし!」
能力の真価を隠しておきたいディルの意思を汲んでくれたのだ、ディルなりの感謝の気持ちだったのだが……。
怒鳴りつつ、満更でもない様子のモネだったが、ディルはそれに気づかなかった。
ここまでお読みくださりありがとうございます!
ここまでで二章となります。
ヒロイン(?)のアレテーとモネ、
サポート特化との評価を受けながら、どうやら自身で戦う術を持っているらしいディル。
三人をメインに、今回のエピソードは進んでいきます。
作品を「面白い」「続きが気になる」と感じられたかたおりましたら、
画面下部より評価していただけますと、作者の執筆意欲がグンと増します。
よろしくお願いいたします。




