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15◇適性を見る

 



 探索者志望は二種類に分けられる。

 上手くモンスターを倒せる者と、そうでない者だ。


 額に一本角を生やした、巨大なイノシシ型モンスターがいる。

 教官の一人が四肢を凍らせて身動きを封じているので、生徒はただ能力を当てるだけでいい。


 今ディルたちがいる一角は、複数の教習所のために頑丈な柵で囲われたエリアだ。

 その都度教官陣が必要なモンスターを捕らえて、中に入れる。


 それ以外の方法でモンスターが入ってくることはほとんどないので、ダンジョン内でも比較的安全と言える。


 今、ミノタウロスのタミルが地面から出現させた無数の蔦でモンスターを包み込み、縛り上げて絶命させたところだった。

 タミルはどうやら、モンスターを倒せる者らしい。


「おぉ! 彼はいいですね! 肉を傷つけず第一階層のモンスターを倒せるとは」


「能力の精度を上げれば、素早く首を折って効率よく狩りが出来るようになるかもしれませんね。工夫すれば荷物運びにも使えそう」


「懸念があるとすれば、発動までの時間や本人の反応速度でしょうか。動いてる敵を自力で捕まえられるようになれば、一層ではかなり有用な能力となるでしょうな」


 ディルとモネを除く三人の教官が、そんな話をしている。

 それぞれ、年若い熱血オーガ、人妻アルラウネ、老ドラゴニュートである。


 氷結能力はオーガ教官のものだ。


「ねぇ、センパイ?」


「どうでもいいが、お前その呼び方気に入ったのか?」


 授業中はセンセイ、普段はディル、職務中はセンパイと忙しいやつだ。


「なんで、センパイだけ他の教官と距離を置かれているの?」


「お前がいるじゃないか」


 ディルは軽口のつもりで言ったのだが、モネは顔を赤くした。


「あ、あたしは別として。なんだか心理的な距離を感じるのよね。何かあった?」


「いや、俺が嫌われてるだけだろ」


 不真面目な勤務態度に加え、所長から給料の前借りをしまくっているのだ。

 印象が良いわけがない。


「心当たりはある?」


「ふむ。そうだな、聞いてくれるか? あいつらったら酷いんだよ」


 モネが真面目な顔になった。


「不当な扱いでもされた? あたしでよければ力になるわよ」


「あいつらな、寄ってたかって俺に……真面目に働けって言うんだ」


 モネが真顔になった。


「センパイ」


「なんだ後輩」


「真面目に働いてください」


「お前までそんなことを言うのか」


「もう、心配して損したじゃない」


「心配せんでも、職場環境はそこまで悪くねぇよ。説教も小言もノーダメージだからな」


「周囲のストレスが心配になってきたわ……」


 と、二人でくだらない話をしている間にアレテーの番がやってきた。


「ではアレテーさん、どうぞ」


「びゃい! あ、アレテーでしゅ!」


 ガッチガチに緊張している。


「ダメだありゃ」


「ちょっとセンパイ。あなたが何も言わないなら、あたしが行くけど?」


「是非そうしたいところだが……」


 一応は自分の生徒だ。


「おい子うさぎ」


「はいっ、先生!」


 ――返事だけはいいんだよなぁ。


 しかし顔はまだ青い。


「これは実戦じゃない。だから何度失敗してもいいんだ。笑われるようなミスをしてもいい。どうせ死にやしないんだから。むしろ全力で失敗しろ」


「失敗しても……いい?」


「そうだ。失敗して、その理由を理解して、本番でミスしないように訓練する。ダンジョンスクールではそれが出来る。分かったか?」


 ディルはアレテーを正面から見つめた。

 アレテーは何度か深呼吸すると、大きく頷いた。


「は、はい。分かりました、先生っ。わたし、頑張ります!」


「おう」


 アレテーの瞳が輝く。


「頑張って失敗します!」


「ん?」


 アレテーはモンスターの方へ向かって行った。


「……良いこと言いますね、センパイ」


 モネが僅かに尊敬を滲ませて言う。


「リギルの受け売りだ」


「……ま、まぁ良い言葉には変わりないし」


 フォローなのか、モネはそんなことを言う。


「能力は当たりなんだ。よほどのことがなければ大丈夫だろう」


「でも、センパイは能力に関係なく生徒を不合格にするわよね」


「すぐ死ぬと分かってて合格にしたら、寝覚めが悪いだろ」


「あの子は大丈夫だと思う? ……随分と懐かれているようだけど」


 なんとなく、言葉に棘を感じる。


「お前と同じで、俺が深淵に行ったと信じてるらしい」


「……行ったんでしょ?」


「どうでもいいことだ」


「またそうやって誤魔化す……」


 不満そうにぷくりと片頬を膨らませるモネ。

 ディルはそれを指でつついて空気を抜く。


 二人がそんなやりとりをしている間に、アレテーは覚悟を決めていた。


「で、ではっ。いきますっ! え、えいっ!」


 空中に水球が生み出される。それは地面に落ち、スライムのように形を変え、そして――子うさぎになった。


「……」


 誰もが沈黙した。


「う、うさぎさん。あの、イノシシさんを倒したりとか……」


 子うさぎはぴょん、ぴょんっとイノシシに近づいてき。

 バクッと頭から食われてしまう。


「あっ、そんなぁ……」


 能力が解け、イノシシに食われた子うさぎはただの水となって口からこぼれ出る。


「し、失敗は誰にでもある! 次はもう少し、強い動物を生み出すのはどうかな!」


「えぇと……召喚したものを使役する能力の場合、命令は明確にした方が失敗は少ないわね。『倒せ』よりも『首に噛み付いて絶命させろ』とか具体的にしていくの」


「折角良い能力に恵まれたのだ。状況に応じて最適な動物をイメージし、的確な命令を下さねばね。君は今回、うさぎでどうやってモンスターを倒そうとしたのだろう?」


 教官陣がなんとかアドバイスを捻り出す。

 どれも意見としては正しいが、問題の根本はそこではない。


「……優しすぎるわね」


 モネがぼそりと呟いた。

 アレテーの問題点は、そこに尽きる。


 ディルが口を開く。




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