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14◇探索才覚、覚醒

 



 ダンジョンは異空間だ。

 入り口の大穴の下にある、実際の地下空間を探索しているわけではない。


 どういうわけかあの大穴が、異なる世界とも言うべきこのダンジョンに繋がっているだけ。

 異空間ゆえに、地上とは異なる理で回っている。


「まず、お前らは既に探索才覚(ギフト)に目覚めてる。気持ち悪いだろうが、頭の中にどんな能力でどう使うかが入ってる筈だ。まるで四肢を動かすくらい、当たり前の感覚として体に馴染んでるだろう」


 ディルの説明で、生徒たちは初めて自覚したとばかりに動揺し出す。

 指摘されないと気づけないくらいに、彼ら彼女らにとって探索才覚(ギフト)は当然のものとなっているのだ。


「それを俺に申告しろ。全員の探索才覚(ギフト)を確認したら、試し打ちさせてやる」


 生徒たちが急いでディルの元へ駆け寄ってくる。

 我が物となった異能の力を使いたくてウズウズしているのだろう。


 ミノタウロスのタミルは、植物を操る怠惰型。

 猫の亜人のフィールは、水の嫉妬型。

 ネズミ耳の少年は光の傲慢型で、サハギンは雷の憤怒型。


 その後も生徒たちの能力を把握していき、最後はアレテーだった。


「わたしはその……お水を生み出して、動物さんの形で動かせる力、です」


 探索才覚(ギフト)は属性だけでなく、その能力の詳細まで決まっている。


 『水で動物を模したモンスターを生み出し、使役する』という能力に目覚めたのなら、それしか出来ない。


 たとえばフィールは『圧縮した水の刃を生み出す』という能力。

 アレテーとフィールは同じ属性ではあるが、能力は別物。互いの能力を模倣することも出来ない。


「嫉妬型だな。動物に制限はありそうか?」


「いえ、わたしの想像力次第、だと思います」


「数は? 一体か?」


「えっと、わたしが何をするか伝えないといけないので、沢山は難しいかもしれません」


「明確な制限はないってことか?」


「分かりません……」


「有効範囲は? 離れすぎると能力が解除されるだろ」


「? ……ご、ごめんなさい、分かりません」


 困惑した様子の彼女に、ディルの目が険しくなる。


「分からない? それは本当か?」


「はい……」


 アレテーは元気なさげだ。


 ――深淵目指してるから、深淵型が欲しかったとかそんな感じか?


「……本当に分からないなら、お前の能力には数の制限も距離的な制限もないのかもな。だとしたら……かなりの当たり能力だぞ」


「そ、そうなのでしょうか……」


「お前、俺が生徒を励ますために適当なことを言うやつに見えるか?」


「先生はお優しいですから……」


「お前に人を見る目がないことを忘れてたよ」


 ともかく、アレテーの能力は破格と言えた。


 出現させる動物は自分次第。数も自分次第。距離制限なく操れる。

 冒険譚で言うところの、テイマー職に似ている。


 アレテーの場合は彼女次第でどんな動物でも好きに生み出し操れる――しかも水で出来ているので死なない――というのだから、優れた万能能力と言えるだろう。


 自分の身を守らせることも、敵を攻撃することも、偵察させることも出来る。

 自分では届かない場所にあるものをとってこさせることも、自分を運ばせることも出来るだろう。


 能力の可能性は無限大だ。

 問題があるとすれば――。


「わ、わたしに上手くできるでしょうか……」


 ――この性格だな……。


「何回も言ってるが、無理そうなら――」


「不安になる気持ちは分かるわ! けど大丈夫よ! そのための教官だもの!」


 モネが割り込んできた。

「も、モネ教官……」


「あなた、名前は?」


「あ、アレテーです! 親しい人はレティと呼びます」


「ではレティ」


 ぱぁ、とアレテーの表情が明るくなる。


「はいっ、モネ教官!」


「あなたの能力は間違いなく素晴らしいものよ。それがちゃんと使えるように、あたしたちが指導するから安心してね」


「あ、ありがとうございます! 頑張ります!」


 モネがふふんっと胸を張り、アレテーがこちらをちらっちらっと見てくる。

 励ましてほしいのだろうか。


 ディルは他の生徒に向き直った。

 視界の端でアレテーがしょぼん……と落ち込んでいる姿が見えた気がするが、構っていられない。


「まずは基本だ。教習所の姫くん、ダンジョンで『上』へ行くにはどうする」


「まずはその呼び方やめてもらえます?」


「他に用意してるのは腹黒ネコ、ネコミミ――」


「ちっ、もういいです。上の階層へ行くには『蜘蛛の垂れ糸』に触れる必要があります」


「そうだ。あれが実物だな、よく覚えとくように」


 ディルが指差した先には、白く輝く一本の糸が、空から垂らされている。

 上を見るとどこまでも伸びているように感じられるが、実際にどこからかぶら下がっているわけではなさそうだ。


「ちなみに、筆記のマルバツ問題で『「蜘蛛の垂れ糸」に触れることで上の階層に転移することが出来る』とある場合、答えはバツだから注意しろ」


「えっ、どうしてでしょう?」


 アレテーが混乱している。


「今見たように第一階層にも『蜘蛛の垂れ糸』は存在し、それに触れることで転移出来るのは『上の階層』ではなく『地上』だからだと思われる」


 タミルが説明した。


「えと、えと……? でも、上の階層に行けるという説明は合っているような?」


 アレテーの疑問はもっともだが、ディルは適当にあしらう。


「知らん。問題考えたやつが性格悪いんだろ。とにかく筆記には引っ掛け問題もあるから気をつけろ」


「『蜘蛛の垂れ糸』は触れた瞬間に上の階層に飛ばしてくれるわ。モンスターは使用できないから、危険を感じたら駆け込みましょう」


 モネの説明に、生徒たちが「はーい」と応じる。


「下の階層に行く『黒い丸穴』もそうだが、各階層に幾つもある。教習所が免許取得者にやれるのは、第一階層の約三割が記された地図だけだ。あとは自分たちでなんとかしろ」


 ダンジョン内の情報は高値で取り引きされる。

 互いにライバルなので、使える情報はタダでは渡さないというわけだ。


 教習所が生徒に与えるのは、比較的安全に探索が可能とされる部分の地図だけ。

 そこから先は、責任を負うことが出来ない。


 自力で探索するか情報を買うかして進んでもらうしかない。


「今日のところは、ここから少し歩いたところにあるエリアで能力を使わせてやる。俺たちの監督下でモンスターを倒してもらうから、覚悟するように」


 ここである程度、精神的な適性を判断するのだ。

 モンスターといえど、生きた敵。

 みんながみんな、それを殺せるわけではない。




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― 新着の感想 ―
[一言] 際限がないってだけで応用性が半端ない。 ディルの発言的に、能力は望んだ階層のものが芽生えるのかな? いや、でも出ない人もいるってことは……深層的に意識している階層?
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