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あやかし斎王  ~斎宮女御はお飾りの妃となって、おいしいものを食べて暮らしたい~  作者: 菱沼あゆ
第五章 あやかしビールと簡易ふわふわケーキ

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ビールの材料を集めたいんですが


「『八重葎茂れる宿のさびしきに人こそ見えね秋は来にけり』とありましたね、百人一首で」


 翌日、訪ねてきた晴明がそんな話をする。


 そうだったな、と思いながら、鷹子が晴明の後ろの庭を眺めていると、伊予が籠にカナムグラを入れて持ってきた。


「この草、襲ってきますよ~」

と伊予は顔をしかめて、引っ掻いたらしい手の甲を見ている。


 茎がトゲトゲしているからだろう。


 カナムグラはあちこちで見られる雑草だが。


 そのトゲトゲで他の草に巻きつくツル性植物なのだ。


 上手くとらないと手や衣服を傷つけてしまう。


「大丈夫?

 誰か手当てを――」

と鷹子は言いかけたが、伊予は、


「大丈夫です。

 こんなの舐めときゃ治ります」

と言う。


 その点、注意しておこうと思ったのに、伊予は話の途中で、

「じゃあ、それ、とってきたら、また美味しいものができるんですねっ」

と叫び、急ぎ足で出て行ってしまったのだ。


 まだ庭にいる伊予の手から籠を受け取った晴明が、別の若い女房に渡し、その女房が命婦に渡し。


 ようやく鷹子の許にカナムグラがやってきた。


 ……ベルトコンベヤか、と思いながら、鷹子は草の生育具合を見てみたが。


 案の定、まだ花はついていない。


「ありがとう。

 でも、もうちょっと待って、また収穫しましょうか」


 花の時期は真夏。


 まだ早い。


「もうちょっと待ったら、これでその、びーるとやらが作れるんですか?」

と期待に満ちた目で伊予は身を乗り出してくる。


「いや~、これでは作れないみたいなのよ。

 でも、雌花がホップに似てるらしいから。


 揚げて食べると、サクサク、カリカリして美味しいとか書いてあったわ」


 書いてあったって、なににですか、という顔で命婦が見る。


 いや、その工場見学のときに、理科の先生が配ったプリントですよ。


 ホップやそれに似た種類の植物のことが書いてありましたよ、確か、と鷹子は思う。


「楽しみですっ」

と伊予は喜んでいたが、鷹子は、そうだ、と思い出して言う。


「カナムグラは花粉症の原因のひとつでもある草なんで。

 花粉症の人はやめておいた方がいいみたいなんだけど。


 ……花粉症、あるのかしらね? この時代」

と前も思ったことをまた思う。


 晴明が、

「あるにはあるでしょう。

 でも、そんなに多くはいないと思いますけどね」

と言う。


 せっかく採ってきたものが食べられず、残念そうな伊予が可哀想だったので、鷹子は言った。


「じゃあ、六月なんで、水無月っぽいものでも作ってみましょうか?」


「水無月?」

と伊予が訊き返してくる。




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