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あやかし斎王  ~斎宮女御はお飾りの妃となって、おいしいものを食べて暮らしたい~  作者: 菱沼あゆ
第五章 あやかしビールと簡易ふわふわケーキ

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ヤバイ、ひねりがない……

 

「なにが籠の鳥だ。

 籠の中から命じては、周りを自由に動かしているではないか」


 夜。

 来るように言われて尋ねた清涼殿で、鷹子は吉房にそんなことを言われる。


「その、びーる、というのは、酒の一種なのか」


 それはちょっと呑んでみたいな、と吉房は言った。


「帝、ビールと聞いて、なにか思い浮かぶことはありますか?」

と鷹子は訊いてみた。


「枝豆とか、野球とか、扇風機とか。

 クーラーとか、提灯がいっぱい下がったビアガーデンとか」


「一気に不思議な言葉を言うな」

と吉房は眉をひそめた。


 プリンのときのように、吉房には、なにかの情景が思い浮かぶかと思ったが、浮かばないようだった。


 あれはたまたまだったのか。


 それとも、この人があちらの世界では、まだ子どもで、ビールを呑んだことがなく。


 晴明のように、

「とりあえず、ビールとか言う感性が許せない」

とか、めんどくさいことを言う大人ではなかっただけなのか。


 まあ、ともかく、吉房もビールを呑んでみたいようだった。


「帝、協力してくださいますか?」


「まあ、しないこともないが……」

と言いかけ、吉房は気づいたように言う。


「ほら、お前は私さえも手足のように使おうとするではないか」


 そんな恨み言はスルーして鷹子は言った。


「とりあえず、野生のホップを探してるんですけどね」


「ほっぷ?」


「ビールに必要なのは、麦芽、水、酵母、そして、ホップです。


 ホップというのは植物なんですが。


 ビールに苦味と香りを与えてくれ。

 殺菌効果もあり、泡を長持ちさせてくれたりもするので。


 ビール作りに必要な万能薬なんですが……」


 鷹子はそこで眉をひそめた。


「たぶん、求めているようなホップは、今、この国にはないんですよね」


 探せば何処かにあるかもしれないが。


 そう簡単には見つからないだろう。


 涼しいところに生えるものなので、鷹子の時代でも、栽培されていたのは、北海道や東北だ。


「ホップに似た物なら、たぶん、あるんですけどね。


 ホップは別名、セイヨウカラハナソウ。

 でも、日本のカラハナソウならあると思うんですよ。


 それも、そこそこ寒いとこにしかないかもしれませんが」


「カラハナソウか。

 聞いたことはあるが、見たことはないな」


「そうですね~。

 カラハナソウに似た、カナムグラはよく生い茂ってたりしますけどね」


「カナムグラ?」


「えーと、よく歌に詠まれるヤエムグラのことです」


 この時代のヤエムグラは、鷹子の時代のヤエムグラとは違う。


 どうやら、カナムグラをヤエムグラと呼んでいたようなのだ。


「なるほど、ヤエムグラか。


 そうだ。

 お前もひとつ、ヤエムグラで詠んでみよ。


 上手く詠めたら、ホップとやらを探すの、手伝ってやろう」


 そんなことを吉房は言ってくる。


 心地よい夜風が吹き、辺りに吉房が焚きしめている良い香りが漂う。


 そんな風情ある夏の夜――。


 鷹子は歌を詠んでみた。


「や、八重葎(やえむぐら)……


 ああ、八重葎、八重葎」


 しまった。

 月草のときと同じになってしまった……、

と思う鷹子の目の前を、帝が出してくれた菓子を手に、とととととと、と神様が横切っていった。




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