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あやかし斎王  ~斎宮女御はお飾りの妃となって、おいしいものを食べて暮らしたい~  作者: 菱沼あゆ
第五章 あやかしビールと簡易ふわふわケーキ

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この世界でなら呑めます

 

 鷹子の居室も夏のしつらいになって、かなり経つ頃。


 訪ねてきた晴明と几帳ごしに向かい合い、鷹子は呟く。


「暑いですね」

「夏ですからね」


「……クーラー」

「手に入らないものを口に出すのはやめたらどうですか」


 確かに。

 扇風機くらいなら、オーパーツになってしまいそうだが、作れそうなんだが。


 クーラーはさすがに無理かな、と思いながら、鷹子は言った。


「そういえば、そもそも、私、クーラー好きじゃなかったんですよね」


「じゃあ、いいじゃないですか」


 だが、この世界のこの時代。


 温暖化はしていないが。


 中世温暖期と言われる時期で、かなり暑い。


 そのうえ、ここではTシャツ、短パン、ワンピースなどで過ごすこともできない。


 でもまあ、あなたの方が暑そうですよね、と鷹子は思いながら、いつもピシリと服装の乱れのない晴明を見る。


「うちの貯蔵庫にいらっしゃったら、いかがですか?

 少しは涼しいですよ」

と晴明が誘ってくれる。


 ……そうですね。

 食べ物と一緒に冷やされましょうか。


 それとも、あやかしに冷やしてもらいましょうか。


「そういえば、もうすぐ、賜氷節(しひょうせつ)の儀ですね。

 まあ、年がら年中、氷を好きに使っているあなたには、あまり意味のない行事かもしれませんが」

とそこで嫌味をかまされた。


 賜氷節の儀とは、旧暦六月一日に氷室から運ばれた氷を臣下にも分け与える儀式だ。


 そんな晴明から視線をそらしながら鷹子は言う。


「こんなときには、あれですね」


 どれですか? と晴明は鷹子を見る。


「よく冷えたビールが美味しいらしいですね」


 お前、高校生だったろ、という顔をしながら晴明は言った。


「私は嫌いです」

「え?」


「私はビールは嫌いです」

「そんな大人いるんですか?」


「大抵の人は、蒸し暑い日、ビアガーデンや呑み屋に行ったら、こう言います。


 『とりあえずビールで』


 私は、この『とりあえず』で『ビール』という感性が嫌いなのです。


 何故、とりあえず、ビールなのですか?」


 ……めんどくさい人だな。


 この人、現代でも、めんどくさい人だったに違いない。


 ふだんの生活っぷりは知らないけど、と思いながら、鷹子は元世界史の教諭、安倍晴明に訴えてみた。


「でも、私はその、とりあえずなビールを呑まないまま、この世界に来てしまったんですけど。

 ここでは、お酒を呑んでもいい人間なので、ぜひ、呑んでみたいです」


 当時の法律は今、ここにはない。


 それに、私はこの世界では立派な大人だ。


 晴明は溜息をつき、

「まあ、そっちに集中して、他の騒ぎを起こさないのなら、それもいいかもしれませんね」

と言ったあとで、立ち上がる。


「協力はいたしますよ、女御様。


 ……ところで、また私に対して敬語になってますよ」


 では、と頭を下げて晴明はいなくなる。


 いやだって、なんだかんだで先生だったからな、と思いながら、鷹子は、かなり夏っぽくなってきた庭を見た。




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