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あやかし斎王  ~斎宮女御はお飾りの妃となって、おいしいものを食べて暮らしたい~  作者: 菱沼あゆ
第四章 平安カプチーノと魅惑のマリトッツォ
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マリトッツォができました

 

「ほう。

 マリトッツォか。


 いや、どんなものなのかは知らぬのだが」


 そう言う寿子に、鷹子は、


 中宮様がご存知なのは、コッペパンみたいでしたもんね、

と思いながら、透けるような和紙を敷いた赤い塗りの器を渡すよう、伊予に支持する。


 だが、形の上でだけはマリトッツォっぽいものの載ったその器を持つ伊予の手は震えていた。


「どうした、娘よ。

 毒でも盛ったのか」


 もはや生きてはいないので、毒が効くわけもない寿子が他人事(ひとごと)のように言う。


「そっ、そんなわけございませんっ」


 伊予は寿子の父である左大臣の手の者なので、寿子を狙うわけもないのだが。

 もちろん、みんなそのことを知らない。


「でも、これをお渡ししたら、中宮様がお亡くなりになってしまわれるかもしれませんっ」


 動揺しているらしい伊予はそんな縁起でもない言葉を口にする。


「何故、毒も入ってないのに、中宮様がお亡くなりに?」

と鷹子が訊くと、


「だって、フラグが回収されてしまいますっ」

と伊予は言い出す。


 ……フラグ。


「死亡フラグですわっ」


 あれ? この人もしかして、同じ世界の人?

と鷹子は思ったが、どうも伊予は自分でもよくわからないまま口走っているらしい。


「中宮様が『これが食べたかったのよ、ありがとう……』などとおっしゃられて亡くなられたらどうするんですかっ」


(わらわ)は別に、そこまでマリトッツォを所望してはおらぬのだが」


「あの……満足して、死亡フラグが回収されるほど、立派な出来じゃないから、そのマリトッツォ」


 寿子と鷹子は同時にそう言った。



「ほう。

 カイマクの間に挟まっている一比古(いちびこ)が可愛らしいの」


 なんだかんだあったが、とりあえず、寿子はマリトッツォを食べてくれるようだった。


 白いクリームの間に点々と赤い野苺が入っているのを見た寿子はそう言い、少し微笑む。


「こちらは、粉末にしたお茶をカイマクに混ぜてみました」

と鷹子は茶色いクリームの入ったマリトッツォを見せる。


 この時代、まだお抹茶がないし。


 お茶の色も茶色い。


 なんかほうじ茶っぽい色合いになってしまったが、味的には雰囲気が出ている気がする。


「このカプチーノとともにお召し上がりください」

と晴明には、

「どの辺がカプチーノなんですか」

と渋い顔をされたカプチーノを持ってこさせる。


 味はともかく、お椀状の陶器に入った見た目は小洒落たカフェで出てくるそれっぽい。


「ほう。

 ふわふわとした白い泡で覆われておるな」


「その泡が大変だったんですよね……」

と鷹子は語り出す。


 濃いめのたんぽぽコーヒーの上にミルクフォームっぽいものをのせようと思ったのだが。


 なにせ、ミルクフォーマーもなければ、泡立て器もない。


 せめて、茶筅(ちゃせん)があればと思ったが。


 お抹茶がない世界に、茶筅があるはずもなかった。


 そこで、とりあえず、細く切ってもらった竹をまとめて縛り、茶筅っぽくした。


 まあ、見た目、茶筅というより、焦げ落としに使う(ささら)っぽかったのだが。


 ミルクを温めて、泡立ちやすくし。


 みんなで交代で必死に泡立てた。


 すぐに泡が消えることはないと思うが、つい、

「急いでお召し上がりください」

と身を乗り出してしまう。


 余裕があれば、ラテアートなどもやってみたかったのだが。


 なにも余裕なんてなかった。


 ともかく、早く飲んでください、と急かされた寿子はカプチーノもどきの飲み物を一口飲み、ちょっとパサパサするマリトッツォを食べてくれた。


「うむ。

 変わった味がする。


 悪くない」

と寿子は笑う。


 美味しい、とは言わなかったが……。




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