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あやかし斎王  ~斎宮女御はお飾りの妃となって、おいしいものを食べて暮らしたい~  作者: 菱沼あゆ
第四章 平安カプチーノと魅惑のマリトッツォ

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焼きたてパンはいかがですか?

 

 うーむ。

 ほんとうは陰陽寮から行ける怪しい山辺りに釜でも作って焼くのがいいんだろうが。


 火鉢の中の壺を見ながら、鷹子は呟く。


「……なんか、さつまいもを焼いてるみたい」


 何処かのお店で、大きな壺でさつまいもを焼いていたのを思い出していた。


 いや、さつまいも、まだ日本になかったな、この時代。


 まあ此処、平安時代っぽい異世界だから、あるのかもしれないが。


 吉房が丁寧に火の番をしてくれたおかげか。

 やがて、いい香りがしてきた。


「まあ、嗅いだこともないような香ばしい香りがっ」

と女房たちがざわめく。


 うん。

 匂いはいいけど、焼き上がりはどうかな……。


 心配した通り、硬かったり、パサついていたり。

 どれもちょっといまいちだったが。


 匂いはパンだし。

 温かい間はなんか勢いで食べられそうな気がするっ、と鷹子は思った。


「よし、とりあえず、みんなで食べてみましょうっ」

と鷹子が言うと、


「マリトッツォにするのではなかったのですか?」

と晴明が訊いてくる。


「……生クリームというか、カイマクを入れる前に少し冷ました方がいい気がするんだけど。

 これ、冷えたら、美味しくなさそうだから……」


 鷹子は苦笑いして、そう言った。


 まあ、そうですね、と晴明も同意し、みんなで少しずつ、パンを千切って食べてみる。


 口に入れた途端、みな、衝撃を受けた顔をしていた。


「ふわふわしてますわっ」


 まあ、温かいうちは……。


「噛みごたえがあって、味がありますわっ」


 それはちょっと失敗作かな~。


「ともかく、今まで食べたこともないような食べ物ですわっ」


 まあ、いろいろあったが、そこそこ好評だった。


 吉房も、

「うむ。

 これは美味いな。


 ぜひ、普段の食事に取り入れたい」

と頷き、彼の頭の上に乗って、一口サイズのパンを食べている神様もご機嫌だった。


 青龍は女房たちと庭で食べ。

 晴明はパンのあとに、たんぽぽコーヒーを飲んで、表情には出さないが、やはり機嫌が良さそうだった。



「ハーブ系の酵母で作ると、爽やかないい香りがするかもね」


 次の日、鷹子はそう言った。


 陰陽寮に置いていた酒粕酵母も持ってきてもらい、それでパン生地を作りながら。


 さらに第二弾の酵母を仕込もうと計画していたのだ。


 分量と焼き時間を変えながら、何度か焼いているうちに、パンもそれっぽくなるだろう。


 マリトッツォにできそうなパンもできるかもしれない、と思う鷹子に、


「ハーブとはどんなものございますか?」

と命婦が訊いてくる。


「うーん。

 いい香りのする草かな。


 いろいろ薬効もあったりして。


 バタフライピー……チョウマメなんかもそうね」


 日本でも昔から、ハーブは大活躍だ。


 紫蘇(しそ)や、波加(はか)つまり現代で言うハッカ。


 飴に使った胡荽(こすい)、パクチーもある。


 うん。

 いろいろあるな、こうして考えると。


「とりあえず、やってみましょう」

と鷹子はそれらで天然酵母を作ってみることにした。



「中宮様、中宮様。

 お元気ですか? いい物お持ちしましたよ」


 鷹子が命婦たちと中宮の住まいを訪れ呼びかけると、あのあやかしの女房がすぐに通してくれた。


 奥に居た中宮寿子が、

「お前はいつも突然やってくるな」

と文句を言う。


「いやあ、文のやりとりとかめんどくさいかなあと思いまして」


 マリトッツォをお持ちしましたよ、と鷹子は微笑む。



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