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あやかし斎王  ~斎宮女御はお飾りの妃となって、おいしいものを食べて暮らしたい~  作者: 菱沼あゆ
第四章 平安カプチーノと魅惑のマリトッツォ

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いよいよ、焼きますっ

 

「じゃあ、そっちとその火鉢にも火を入れてくれる?」


 鷹子にそう命じられた命婦は、また火鉢か、と渋い顔をする。


 一体、何個火鉢を使う気だ。


 まあ、此処は天下の斎宮女御様のお住まい。


 火鉢の数が足らないなどということはありえませんけどね、と誇りを持って思う。


 だが、この季節にガンガン火鉢で火を焚いていると、さすがに暑いし。


 周囲に知れたら、うちの女御様が奇人扱いされるのでは、と命婦は今更手遅れな心配をしていた。


 だが、斎宮女御の忠実なる部下である命婦は、なんだかんだで女御に従う。


「新しい炭を……」

と命婦が女房たちに言いかけたとき、消えていた青龍が現れた。


 子どもの方だ。


 手には、ちょうどいい感じに熾火(おきび)となった炭の入った桶を持っている。


 命婦に手渡してくる愛らしい青龍に、


「あら、ありがとう」

と微笑んだ。


 照れた様子の青龍を見ながら、命婦は思う。


 子どもの姿も可愛らしくていいわね。


 まあ、美しい殿方の姿のときの方がもっといいけど……。


 晴明が青龍になにか耳打ちすると、青龍は、こくりと頷き、また出ていった。


 鷹子は土器や使い込まれた鉄の鍋にパン生地を入れ、上から皿などで蓋をしている。


 だが、そこで渋い顔をした。


「上からも温めたいんだけど。

 この上に炭置いて大丈夫かな。


 ダッチオーブンじゃないしな~」


 そんなまた謎な言葉を呟いて、鷹子は青龍が用意してくれた炭を見る。


 そのとき、青龍が戻ってきた。


 また桶を手にしている。


 中には幾つもの石が入っていた。


 これは……と手を伸ばしかけた命婦に晴明が言う。


「命婦殿、お気をつけを。

 それは温めてある石です」


 命婦は慌てて伸ばしかけた手を引いた。


「女御様、これを」

と晴明に言われた鷹子は、


「ありがとう、晴明」

と礼を言ったあと、まず、火鉢の中に壺や鍋を入れる。


 灰で熱さを調節した炭の真ん中が開けてあり、そこに置いたようだった。


 それから鷹子は、銀の火箸で壺や鍋の蓋の上に石を置く。


 うーん、と鷹子は唸った。


「やっぱり、下にも炭を置いた方がいいかな。

 鉄輪(かなわ)を使って壺や鍋との距離を出したら、焦げないかな?」


 すると、晴明が言う。


「蓋の上の石はもうちょっと多くてもいいと思います」


 鷹子と晴明が話し合っていているのを、話題に入れない吉房が寂しそうに眺めている。


 庭では若い女房たちが青龍を褒めそやしていた。


「すごいわね。

 いつの間に、炭や石を温めてたの?


 偉いわねー」


 そう伊予が言うと、青龍は笑顔で、


「はい、今、裏山でボーッとやってきました」

と答えている。


 ボーッと……。


「幾つか石が爆発しましたけど、距離があったので大丈夫でした」


 そんな言葉が耳に入ったらしい鷹子は苦笑いしながら、女房たちに頭を撫でられている青龍を見ていた。


「火にくべると爆発する石もあるものね。

 まあ、青龍なら距離を持って焼けるから」


 あの姿になって、ボーッと口から炎を出して焼いたのだろうな……。


 鷹子が吉房を振り向き言った。


「帝、では、火力が強くなりすぎないか。

 見ていていただけますか?


 是頼、帝が火が強くなりすぎていると言ったら、灰を炭にかけて調節して」


 いや、なに帝に頼んでんですか、と思ったが。


 吉房は、尻尾を振る犬の如く喜んで。


「わかった。

 これを見ておればよいのだなっ」

と言う。


 輪の中に入りたかったようだ……。


 帝、なんだかんだで女御様の手のひらで転がされてますね。


 まあ、これはこれでいい夫婦なのかな、と思いながら、命婦は、ウキウキしながら火鉢の前にいる吉房を眺めていた。

 



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