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あやかし斎王  ~斎宮女御はお飾りの妃となって、おいしいものを食べて暮らしたい~  作者: 菱沼あゆ
第四章 平安カプチーノと魅惑のマリトッツォ
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コーヒーを淹れてみました

 

布知奈(ふちな)の根が乾いたと伺いまして」


 数日後、そう言い晴明が訪ねてきた。


 子どもに戻った青龍も来ていたが、命婦も伊予も残念そうだった。


「今、焙煎してるわ」


 庭先で下男や若い女房たちが刻んだたんぽぽの根を鍋で煎っている。


 香ばしい良い香りがしていた。


「あとは粉砕したら終わりかな」


「粉砕ですか」

と呟いた晴明は、


「今回、たいしてお手伝いもできていないので、協力しましょう」

と言い出す。


「まあ、晴明様自ら粉砕なさるのですか?」


 女房たちは一緒に作業したいとざわめいたが、晴明がパチンと指鳴らすと。

 庭に薬研(やげん)とすり鉢が現れた。


 薬研とは漢方薬などを粉にする器具で。


 細い舟形の器の中央がくぼんでおり。

 そこに入れたものを左右に軸がついた車輪でゴリゴリやるものだ。


「そこに入れてください」

と晴明に指示され、伊予たちが焙煎したたんぽぽの根を入れると、勝手にゴリゴリと車輪が動きはじめる。


「電動っ?」

 鷹子はついそう叫んで、阿呆ですか、という目で晴明に見られてしまった。


「薬研の付喪神とすり鉢の付喪神です」


 一度にたくさん粉砕することはできないが、付喪神なので、疲れ知らずでゴリゴリやってくれるようだった。


 そこそこ粉砕できたところで、晴明が言う。


「そろそろコーヒーを淹れてみられますか?」


「そうですね。

 でも、そういえば、私、自分で淹れたこと、あまりないんですが」


 晴明は、ふう、と溜息をついて、

「では、私が淹れましょう」

と言う。


 晴明は鷹子が用意させていた目の細かいザルに麻を敷いて、酒を温めるのに使う銚子(ちょうし)から、ゆっくりと湯を注いだ。


「あ、いい香りがしてきましたね。

 焦げ臭いような……いい香り、ですね」


 ちょっと焙煎しすぎたかな、という気もしたが、そのせいで、よりコーヒーっぽくなっているような気もする。


 晴はが陶器の丸い器に入ったコーヒーをまじまじと眺めていた。


「まあ、見た目はコーヒーっぽいですね。

 色だけは完全にコーヒーです」


 そう報告してくる晴明に、

「ちょっと飲んでみて、晴明」

と頼む。


 あまり飲んだことのない自分ではよくわからないからだ。


 晴明はその黒く熱い液体を飲んでみていた。


「これはっ」

と晴明は息を呑んだ。


「コーヒーではないっ」


 ……そりゃそうですよね~。


「でも、それっぽくはあるでしょ?」


「まあ、雰囲気は味わえますけどね。

 これをカプチーノにするんですか?」

と晴明は眉をひそめる。


 これでカプチーノ作って、それっぽくなるのか疑問に思っているようだった。


「まあ、それも雰囲気ってことで。

 でも、カフェインが入ってないから、子どもや妊婦さんでも飲めるんでしょ? たんぽぽコーヒー」


「……私、妊婦じゃないんで」


 コーヒーにはうるさいな、この人、と思いながら、鷹子も飲んでみたが、やはり、よくわからない。


 子どもも飲める、と鷹子が言ったせいか、みんな青龍にも与えてみていた。


 だが、青龍は苦そうな顔をして、すぐに器から口を離す。


 その仕草に、かわいい~と言う女房たちの後ろで、伊予が訴えていた。


「晴明様はなんだかんだで飲んでらっしゃるわっ。

 青龍も大人になったら飲めるのではないかしらっ」


 鷹子の近くに控えていた命婦も身を乗り出して言う。


「そうですよっ。

 大人になったら、飲めるのではないですかっ?」


「……させませんよ、此処で大人に変化(へんげ)


 青龍の変化に前のめりな二人に、鷹子は釘を刺しておいた。




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