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あやかし斎王  ~斎宮女御はお飾りの妃となって、おいしいものを食べて暮らしたい~  作者: 菱沼あゆ
第四章 平安カプチーノと魅惑のマリトッツォ
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洗って乾かします


 鷹子は、たんぽぽの根を洗ったりする作業も自分でやりたかったのだが、そういうわけにもいかない。


 みんなに洗ってもらって、干してもらった。


 これしばらく干しているうちに、酒粕の方もいい感じになるかな、と鷹子はその日数を計算する。




 翌日、帝のお召しがあったので、鷹子が清涼殿に向かっていると、ぼんやりとした人影が庭先に見えた。


 あの人影。


 いつか晴明が連れてきた人型のあやかしでは……と思ったとき、その人影がなにかを指差しているのに気がついた。


 指しているのは地面のようだ。


 一体、なにが……と鷹子は身構える。


 命婦が鷹子が足を止めたのに気づき、

「女御様、どうかされましたか?」

と訊いてきた。


 その人影が指差しているのは、庭の隅にある小さな岩陰のようだった。


「あそこになにかあるのかしら?」


 一点を見据えるような鷹子の目を見て、命婦が、


 またなにが見えてんですかっ、と怯える。


 もしかしたら、あれ、高貴な霊か。


 高貴な者にゆかりのある霊かもしれない。


 その人が清涼殿の庭先を指差すなんて、なにか深い意味があるのでは……。


 緊張する鷹子の頭の中では、人知れず謀殺された者のしゃれこうべがそこに埋まっていた。


「あそこになにがあるのか確かめきて」

と鷹子が言うと、命婦が嫌そうにだが、伊予に命じ。


 その伊予は近くにいた下働きの男に頼んでいた。


 下働きの男が戻ってきて、また伝言ゲームのように、鷹子に答えが伝わってくる。


「特になにもないそうです。

 たんぽぽが生えてるだけで」


「え、たんぽぽ……?」


 鷹子は小首を傾げたあとで、

「じゃあ、とってきて、たんぽぽ」

と今度は直接、伊予に言う。


 伊予は、ええーっ? と下っ端の女房にあるまじき顔をした。


 だが、伊予のこういうハッキリとしたところは嫌いではない。


 いつもなら、

「わかりました~」

と身軽に動いてくれる伊予だが。


 清涼殿に付いて行くのに着飾っている衣を汚したくないらしく、今日は自分では下りずに、男に命じていた。


 男が持ってきてくれたたんぽぽが、伊予に手渡され、命婦に渡り、鷹子の許にやってくる。


 伊予が言ってくれたらしく、根っこごと引き抜かれたその可愛らしい黄色い花を見ながら鷹子は言った。


「もしかして、昨日、此処で、みんなが楽しげにたんぽぽとってたのを見て、参加したくなったのかしら?」


「別に楽しくとってたわけでもないんですけど」

と伊予は言うが。


 うっかり清涼殿の辺りまで来てしまったり、是頼にも気づかなかったりするくらい熱中していたようなのだが。


 もしかしたら、あの霊、昨日も見つけたたんぽぽを指差してくれていたのかもしれないが。


 霊が見える者がいなかったので、誰にも伝えられなかったのかもしれない。


 ありがとうございます、と鷹子がその人型のあやかしに深々と頭を下げると、人影は消えた。


「コーヒーできたら、あの方にも運んであげてね」

と歩き出しながら鷹子が言うと、命婦が、


「あの方ってどの方ですかっ?

 何処に人がいるのですかっ?」

とさっきの場所を振り返り騒ぐ。


 ははは、と苦笑いして、さらに進むと、また地面を指差している霊に出会った。


 東宮だった。


 彼が指差す縁の下にも、たんぽぽがあるようだ。


「あ、ありがとうございます」


 東宮様にもご馳走しなければな、と鷹子は苦笑いする。





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