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あやかし斎王  ~斎宮女御はお飾りの妃となって、おいしいものを食べて暮らしたい~  作者: 菱沼あゆ
第四章 平安カプチーノと魅惑のマリトッツォ
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孵った卵


「そもそも青龍は拾ったとき卵だったんですよね」


 青龍の卵から離れた位置で晴明が言う。


「こんなんじゃない。

 ちっちゃな卵だったんですよ。


 孵ったら人間の子どもになりましたけどね」


「……赤ちゃんだったの?」


「いいえ。

 最初からあの大きさだったですね」


 生まれてすぐしゃべるようになりました、と言う晴明に、

「青龍はなんなの?」

と訊いてみた。


「さあ、知りません」


「そもそも何処で拾ったのよ」


「禁足地です」


 ……何故そこで拾う。


「そりゃ、確かになにが出てくるかわからないわね」

と言った鷹子は、晴明より卵に近い位置に居たので、ぽん、とその卵を叩いて言った。


「ほら、早く出てこないとご主人様が気味悪がって近寄ってこないわよ」


 うわ、生温かっ、と思いながら、鷹子はもう一度、卵に触れてみた。


 なにかが中で脈打っている感じがする。


「別に薄気味悪いから離れているわけではないですよ」


 後ろからそんな晴明の声がした。


「……ほんとうになにが出てくるかわからないので。

 青龍、早く出てこないと、その人がお前を割って、パンにしてしまうぞ」


 いや、幾らなんでも知り合いの卵で作りませんって、と思った瞬間、パキ、と音がして、手に振動が走った。


 え? と卵を見た瞬間、晴明が、

「失礼」

と鷹子の腰に手をやり、自分の方に引っ張った。


 卵の殻が砕け、中から巨大な生き物が姿を現す。


「いやちょっと待ってっ。

 幾ら大きな卵だからって、このサイズの物入ってるわけないじゃないっ」


 晴明にそこから遠ざけられながら鷹子は叫んだ。


「だから、なにが出てくるかわからないから、距離をとってたんですよ」

と林の木々より大きなそれを見上げ、晴明が言う。


 鷹子の目の前に龍がいた。


 ……龍、違うな。


 髭があって、牙があって……


 羽根があるようなんだが。


 髭が生えそうで、青龍はずっと頬をかいていたのだろうか。


 生えるのなら、中高生みたいに顎髭程度にして欲しかった、と思う鷹子の前で青龍は咆哮を上げた。


 天を向いたその大きな口から、炎がほとばしる。


 わーっ、と命婦たちが逃げ惑った。


「……晴明」


「はい」


「これ……ドラゴンじゃない?」


「そのようですね」


 卵から孵った青龍は、日本の神、あるいは神の使いである龍でなく。


 異国のドラゴンだった。


「龍っぽいな~と思って、青龍と名付けたんですが、ドラゴンでしたね」


 ちょっとした間違い、のように晴明は言うが、いや、ずいぶんな違いだ。


 ぼおっ、と林が焼けないようにか、天に向かって火を吐く青龍を見ながら鷹子は言った。


「いい火力ね」


「いや、なに考えてるんですか……」



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― 新着の感想 ―
[一言] まさか、オーブン代わり? パンを焼くにはいいかもしれないけれど。
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