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あやかし斎王  ~斎宮女御はお飾りの妃となって、おいしいものを食べて暮らしたい~  作者: 菱沼あゆ
第四章 平安カプチーノと魅惑のマリトッツォ
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そのセリフにこそ怯えてください

 

「小麦粉で作った生地を膨らませるのには、三つの方法があるらしいのよ」


 次の日の昼、ようやくカラッと空も晴れ。


 少ししっとりとした庭の草木がとてもいい感じだった。


 そんな中、鷹子は晴明や女房たちを前にパン、というものの作り方について語っていた。


 晴明以外、みんな、それがどんなものかもわからないだろうに。


 ぱかっと割ると、白くてふかふかでほんのり甘いというその食べ物を待ち焦がれているようで、かなり身を乗り出して聞いていた。


「薄い生地を直接火にあてて、内部に満遍なく水蒸気を行き渡らせる方法。


 乳酸菌で生地を発酵させる方法。


 酵母で発酵させる方法」


 指を折りながら説明する鷹子は簀子縁に座る晴明の几帳越しの視線に緊張していた。


 あの、完全に駄目な生徒を見守る教師の目なんですけど。


 そういえば、この話、脱線が多い世界史の時間にあなたに聞いた話だったかもですね、と鷹子は言い間違えないよう、ビクビク語る。


「えーと、パンを焼くには、生地を器に入れて。

 あたたかい場所に置き、周りを熾火(おきび)で囲んでおけば、ふっくらとしたパンが焼ける……」


 ……んでしたよね、先生っ?

と晴明を見たが、晴明は相変わらず無表情だし。


 今の彼は白い狩衣姿の陰陽師なので、そんなことを聞くのもおかしい気がした。


 ……あまり気にしないようにしよう。


 私ほど過去の記憶はないようだし、と鷹子は思いながら話す。


 まあ、それより気になるのがさっきから、


「そうして生地が膨らんだら」とか、


「パンが焼けたら」とか。


 もし、~したら、のような言葉を自分がしゃべるたびに、ちょっと押しが強そうだが、なかなか可愛らしい新米女房の伊予が、目を見張り、なにかを言いかけることだった。


 実は、彼女は、

「もし、~したら、~するんだ」

は死亡フラグですっ、と心の中で叫んでいたのだが、もちろん、鷹子はそんなことは知らなかった。


 知っていたとしても、

「待って。

 普段でも、もし、~したらって使うからっ。


 っていうか、パン生地が膨らんだり、パンが焼けたりするだけで、死亡フラグとかっ。


 どうやって死亡するつもりなのっ。

 パンが爆発するとかっ?」

と叫んでいたことだろうが。


 ……それにしても。

 相変わらず卵が使えないんだけど。


 でも、そういえば、家庭科で卵を使わないパン、作った気がするな~、と一生懸命鷹子は思い出そうとする。


「あ~、もし、卵が使えたら、もっと簡単にふかふかのパンが焼けるのに~」


 鷹子はそうこぼした。


 もし~したら、とは言ったが、~できるのに、と次の願望を言う感じだったせいか。


 伊予はそこでは、死亡フラグですよっ、と鷹子を見たりはしなかった。


 だが、卵を使えたら、などと語ることこそ、帝に反逆する行為として、左大臣に追求され失脚しかねない発言だったのだが。


「まあ、とりあえず、酒粕で自家製酵母を作りましょうか。

 それと並行してカプチーノのための珈琲の材料を探しましょう」


 そう鷹子はまとめ、はーい、とみんなが動き出す。




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