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あやかし斎王  ~斎宮女御はお飾りの妃となって、おいしいものを食べて暮らしたい~  作者: 菱沼あゆ
第四章 平安カプチーノと魅惑のマリトッツォ
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役に立つ、いいあやかしは居ませんか?


「何処かに役に立つ、いいあやかしは居ませんかね?」


「何故、私にきくのよ」

としどけなく脇息に寄りかかり、花朧殿の女御が言う。


「いや、顔が広そうだからです」

と鷹子は言うと、


「あやかしに知り合いは居ないわよ……」

と美しい眉をひそめて女御は言う。


 花朧殿の女御は、鷹子が持参したキャラメルではなく、包み紙の方を、綺麗ねえ、と言って眺めている。


 やはり、変わった人だ、と思いながら鷹子は言った。


「ずっと雨が降って、鬱々とした感じですよね。

 宮中もあちこちじっとりしてて。


 いろんなものが湧いて出てきてるんですよ。

 東宮様もなにかにとり憑かれてるし」


「……あやかしがあやかしにとり憑かれるの?」


 なんかたまにとり囲まれてて、晴明に助けられてますよ、と鷹子は教える。


「役に立つあやかしか~」

 鷹子は自分でその話を振っておいて、溜息をつく。


「あずき洗いもこの時代にはまだ居なさそうですしね~」


 雨の中、庭先とか簀子縁の隅とかで、しゃこしゃこあずきを洗っていそうな雰囲気はあるのだが。


 ま、どっちみち、今、あずき使わないしな、と思いながら、女御とともに降り止まない雨を眺めた。




「平安時代といえば、付喪神。

 オーブンやなにかが百年くらい前からあれば、オーブンの付喪神とか。


 電子レンジの付喪神とか居たでしょうにね」


 鷹子は青龍を連れ、訪れた晴明に向かい、そう言った。


 青龍は庭先で、さっきから何故かずっと両頬をこすっている。


 それを見ながら晴明が言う。


「オーブンや電子レンジがある世界なら、付喪神になるのを待たずとも、オーブンやレンジをそのまま使えば良いのではないですか?」


 ごもっともですよ。

 本末転倒してましたよ……。


「それより、焼いたり蒸らしたりなどするのなら。


 付喪神や普通のあやかしより、人間の幽霊にやらせた方がいいです。

 確実に人間並に動けますので」


 晴明の視線は清涼殿の方を向いていた。


 東宮様、狙われてますっ、と鷹子は怯える。


「そ、そういえば、マリトッツォを作る前にですね。

 もうひとつ作っておきたいものがあるのですよ」


 いや、マリトッツォがちゃんと作れるあてもないのだが、鷹子はそう言った。


「マリトッツォといえば、カプチーノだと聞いた気がします。

 珈琲が合うとか」


「珈琲ですか」


 相変わらず、淡々とした口調だが、晴明は興味を惹かれているようだった。


 前の世界で、好きだったのかもしれない。


 珈琲か。

 大人ってイメージだから、晴明とか、花朧殿の女御とか似合いそうだ、と思っていると、晴明が訊いてきた。


「女御は珈琲がお好きだったのですか?」


「いや、苦いのはちょっと……」


 じゃあ、何故、作るんだ、という顔をされる。


「でも、コーヒー味のものは好きなのよ。

 カプチーノ味のかき氷とかも好きだったし」


 砂糖とミルクをたっぷり入れて飲みたいわ、と言う鷹子の頭の中では、吉房と自分が並んで庭を見ながら、ミルクたっぷりのカフェオレを飲んでいた。


 いや、吉房は珈琲も飲むかもしれないが。


 晴明よりは子どもなイメージだからだ。


「まあ、珈琲を作るのに協力できることがあったら言ってください」


 いや、マリトッツォは? と見つめた視線が届いたようで、


「そういえば、マリトッツォのパンはどうされるんですか?」

と訊いてきた。


「それなんだけど。

 パンを作るには酵母菌よね?


 利宇古宇(りうこう)、林檎とかから作ってもいいんだけど。

 でも、そういえば、いい菌があるじゃない」

と鷹子は笑った。



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