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あやかし斎王  ~斎宮女御はお飾りの妃となって、おいしいものを食べて暮らしたい~  作者: 菱沼あゆ
第四章 平安カプチーノと魅惑のマリトッツォ

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白い光とマリトッツォ


 世界史の授業中、呑気に外を見ていた。


 雲海みたいな雲だな~と思って。


 高台にある高校の校舎の三階だったせいか、妙に雲が近く見えた。


 誰かが重く硬いもので頭を小突いてくる。


桂木(かつらぎ)

 何処見てるんだ」


「いや~、雲が……」


 雲がもこもこで、と言おうとして外を見た瞬間、それは目に飛び込んできた。


 空から降ってくる大きな白い光。



 鷹子は目を覚ました。


 雑貨屋で買った可愛いレトロな照明のぶら下がっていない天井。


 ふかふかの毛布も軽い羽毛布団もない。


 あ~、そうだよね~。


 私は斎宮女御だった、と木の香り漂う居室で鷹子は思う。


 久しぶりにあの世界の夢を鮮明に見た、と思いながら、御帳台の白い天井を見る。


 ……あの世界、もしかして、もうないのかなあ。


 校舎の外、雲を突き抜け、白い光が落ちてきた。


 あれって大きな隕石かなにかだったんじゃ。


 あーあ、放課後、マリトッツォ食べに行こうねってみんなと約束してたのに。


 ……ん?


 みんなだっけ?


 誰かと約束してた気がするんだけど。


 しんみりした鷹子だったが、はっ、と正気に戻る。


 あの世界、もうないのなら、やはり、この世界でスイーツを作らなければっ。


 元居た世界が消えたかもしれないのに、最初にそんなことを思う時点であまり正気ではなかったのかもしれないが。




「マリトッツォは知りません」


 青龍とともにやってきた晴明に、鷹子は食べ損ねたマリトッツォの話をしたが、すげなく、そう言われる。


「テレビとかでやってたじゃないですか、ちょうど」


 テレビ? なんですか、それ、と鼻で笑われるかと思ったが、晴明は、


「私はNH○しか見ません」

と言った。


 ……今、N○Kって言ったか?

と思ったが、晴明はもう、しれっとした顔をしていた。


「マリトッツォ。

 私も食べないまま、こっちの世界に来てしまったので、いまいちよくわからないんですよね~。


 こんな感じにパクッと口を開けたパン。


 確かブリオッシュにクリームとか詰めてあった気がするんですよね」


 鷹子は人形劇の人形の口を動かすように手をパクパクして見せる。


 ブリオッシュ、と晴明は口の中で呟いた。


「そんなもの此処でできると思ってるんですか」


 鷹子は、うーんと唸る。


「ブリオッシュでないのもあった気がしますけど。

 どっちみち、外側、パンですよね。


 強力粉とかいりますよね?

 あと、発酵させて……。


 あ~、地獄の業火に焼かれる卵がまた使えませんよね?」


「女御」


 いつものように美しい顔で、無表情に晴明は言う。


「臣下の者にその言葉遣いはどうかと」


 うっ。

 しまった。


 いつの間にか敬語になっていた、と鷹子は気づく。


 あの夢のせいだ。


 自分の顔はあの世界の顔と同じだ。

 声も同じ。


 それはたぶん、この人も……。


桂木(かつらぎ)

 何処見てるんだ』


 世界史の教師の声が頭に蘇る。


 いや、だが、そう。

 此処では私は女御だ。


「晴明」


 威厳を持って、鷹子は晴明に話しかけた。


「何処かに発酵してくれたり、ドライイーストを持ってきてくれたりするあやかしは居ませんか?」


 居るわけないだろう、莫迦め、と蔑むような顔で晴明は自分を見ている。


 今、自分は臣下だって、自分で言ったのにな……と思う鷹子を苦笑いして青龍が見ていた。



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― 新着の感想 ―
[一言] 卵が使えないのは大きいですねえ。
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