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あやかし斎王  ~斎宮女御はお飾りの妃となって、おいしいものを食べて暮らしたい~  作者: 菱沼あゆ
第三章 あやかしは清涼殿を呪いたい

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三種類目のクリームソーダです



 鷹子が吉房に渡したのは、ある意味、ホンモノのメロンソーダだった。


 いや、まあ、メロンっぽいだけの冷たいマクワウリ味なのだが。


「熟したマクワウリ、熟瓜(ほそち)を絞ったんですけど。

 やはり、透明感には欠けますね」


「いや、美味いぞ」

と吉房は麦ストローで砂糖と熟瓜で甘さを出したメロンっぽいクリームソーダを啜る。


「このミルクアイスと混ざったところがとろりとして絶妙な味だっ」


 確かに味は一番美味しいかなと思う。


 だが、女性は見た目が綺麗な方が好みだろうと思い、花朧殿の女御には紅花と支那実桜(しなみざくら)の実で作った透明感ある紅いクリームソーダ。


 寿子にはバタフライピーの鮮やかな青から紫に変わるクリームソーダを渡したのだ。


 寿子にも渡してきた話を吉房にすると、吉房は黄色い熟瓜ソーダの入った玻璃のグラスを置いて言う。


「そうか。

 あれに会ったのか」


 どんな風だった、と吉房は訊いてきた。


 どんな風だったって、あなたの嫁ですよ。


「私の頭の中では、とぐろを巻いていて、目が光り、シャーッとか言っておるのだが」


「……もうちょっと人間寄りで。

 普通にお綺麗でしたよ」


 そう言いながら、鷹子は思う。


 とぐろを巻いて、シャーッとか言ってそうだと思う人を普通に中宮として置いているこの人がすごいな、と。


「あれと私は幼き頃から親しくしていて。

 今でも兄妹のようなものなのだ」


 少し雨の降り出した庭を見て、吉房は言う。


 彼の目には見えてはいないようだが、そこには東宮が立っていた。


 雨は東宮の身体をすり抜けている。


 東宮は吉房をうらやましいと思っているのかもしれないが。


 妬んでいるという感じはなかった。


 ただ、暇なので、なんとなくテレビ画面を眺めているときみたいに、こちらを見ている。


 ……成仏の仕方がわからなくて、どうしていいのかわからないだけなのかもしれないな、とその姿を見ながら鷹子は思った。


「左大臣は早くから寿子を私の許に嫁がせると決めていたらしくて。


 あれは私の妻になるものだと思って育ってきたようなのだ。


 だから、私のことを好きなわけではないが。


 私の妻にいずれなると信じ、私が帝となれば、中宮になるのは自分だと思っていたらしい」


 そうですか……と東宮を見ながら相槌を打つと、吉房も雨の庭を見つつ、小さな声で訊いてくる。


「……お前が中宮になりたいのなら。

 すべてを明らかにし、今の体制を変えてもよい」


 その横顔を見ながら、鷹子は、


 でもこの人、そうはしたくないんだろうな、と思っていた。


 いえ、と鷹子は断る。


「申しませんでしたか?

 私は今のまま、のんびり暮らしたいのです」


 鷹子はそこで少し笑って言った。


「……帝の、御簾の向こうでとぐろを巻いて、シャーッとか言ってそうだなと思うのに、左大臣様と中宮様のお気持ちを考えて結婚されてしまうところ。


 ちょっと好きかもしれません」


 なにっ? と吉房が振り返る。


「ちょっととはどのくらいだっ」


「そうですねえ。

 支那実桜(しなみざくら)の実くらいですかね?」


「小さすぎだろうっ。

 あっ、私の支那実桜(しなみざくら)の実がっ」


 いつの間にか、吉房のクリームソーダから神様が実をとって、齧っていた。


「か~み~さ~ま~っ。

 まだ伊勢に帰らぬのかっ」

と吉房は小さな神様を脅す。


 神様はハムスターのように口いっぱいに実を頬張ったまま、

「なにを言うっ。

 私は大人になって、鷹子を自分の物にするまで、此処におるぞっ」

と主張する。


「うちの女御にこだわらずとも、新しい斎王がすでに伊勢に下っているであろうがっ」


「日本には八百万の神々がおるので平気じゃっ」


 なんなんだろうな、この人たち、と思いながら、鷹子は庭の東宮を見ていた。


 一瞬、目が合った気がしたが、やはり、東宮は、ぼんやりこちらを見て、突っ立っているだけだった。



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