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あやかし斎王  ~斎宮女御はお飾りの妃となって、おいしいものを食べて暮らしたい~  作者: 菱沼あゆ
第三章 あやかしは清涼殿を呪いたい

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コルクがないんですよ


 早朝、鷹子の許を実守が訪ねてきた。


「以前、毒の水のことを訊いてこられましたな。

 確かに我が領地にもございますが。


 あれをどうされたいのですか」


 この頃、炭酸泉は毒の水と呼ばれていた。


 炭酸ガスのせいで、鳥や虫が死ぬのを見て、そう恐れられていたのだ。


「いや、ちょっと飲もうかと」


 正気ですかっ、という顔を実守はする。


「ほんとうなら現地に行きたいところなんですけどね。

 炭酸抜けずに運べる保証もないので」


 また、正気ですかっ、という顔を実守はした。


「とりあえず、細長い玻璃の瓶に何重にも折り畳んだ紙を詰め込んで、ぎゅうぎゅうに栓をし。

 針金で縛って、素早く運びたいなと」


 明治時代、日本では、きゅうり型の瓶に入れて、炭酸水を販売していたようなのだが。


 今はそのようなものはないので、とりあえず、普通のガラス瓶で運びたい。


 コルクがないからなあ、と鷹子は思う。


 コルク栓の誕生により、瓶での運搬が一気に普及したという。


 コルクはコルク樫から作られるが、日本ではコルク樫は上手く生育できない。


 四季がある日本ではコルクを作るための樹皮部分が厚くならないらしいのだ。


 ……と世界史で聞いた。


 日本に自生しているアベマキからも質は悪いが、コルクは作れるらしいのだが。


 粉砕して作らないといけないんだったかなあ。


 記憶が曖昧なんだよな、と鷹子は思う。


 コルクみたいに皮を何度も剥がしても駄目なのかな。


 コルクはコルク樫の樹皮を九年ごとに剥がしては再生させ、作るのだが。


 最初に剥がした樹皮も、次に剥がした樹皮もでこぼこしていて、コルク栓には不向きなので、インテリアなどに使われるらしい。


 ということは、アベマキでなく、コルク樫でさえも無理ということか。


 日本の何処かでコルク樫が見つかったとしても、良質なコルク栓が作れるまで、十八年っ。


 この人生短い時代の十八年、すごい歳月なんだが……。


 まあ、ともかく、今、それを待ってはいられないっ。


 何故か引き受けてくれるという実守に、ともかく、急いで運んでもらうことにした。



 ガラス瓶に詰め、とりあえず紙でぴっちり栓をして運んでもらうことにしたと晴明に語ると、晴明は深く頷き、


「日本ではコルク樫は上手く生育できませんからね。

 四季がある日本では樹皮が厚くならないらしいので」

と言った。


 ん? と思う。


 授業で聞いたのとまったく同じことを言っているのだが、この人。


 そのとき、実守がやってきた。


 いや、正確には、簀子縁(すのこえん)をやってきた実守様御一行と、庭先に瓶を手にぜいぜい言いながらやってきた実守の部下たち一行なのだが。


「女御様。

 毒の水をお持ちしましたよ」


「ありがとうございますっ。

 左大臣様っ」


 飲んでみられますか? と鷹子は訊いたが、

「わざわざ運んで差し上げたのに殺す気ですかっ」

と睨まれる。


「いやいや。

 炭酸水、いろいろ身体にいい効能もあるんですよ。

 お腹の調子とかよくなりますし」


「なんと言われても、私は飲みませんよっ。

 あなたにこれでなにかあっても責任とりませんからっ。


 ともかく、これでご恩はお返ししましたからなっ」


 そう言い放つと、部下を引き連れ、実守は居なくなってしまった。


 たくさんの瓶詰めの炭酸水を置いて。


「恩ってなんですか?」

と晴明が訊いてくる。


 簀子縁にずらりと並んだ瓶詰めの炭酸水が太陽の光に輝くのを眺めながら、鷹子は微笑んだ。


「きっと笑ったからですよ。

 ……中宮様が」


 姿なき中宮の姿を私たちは見た――。


「私、ちょっと、左大臣様が好きになりましたよ」


 ええっ? という顔で命婦たちが振り返る。

 


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― 新着の感想 ―
[一言] コルクの代用品はちょっと考えつかないなあ。 でも、炭酸水も何とか入手できたのですね。 また、クリームソーダに近付きましたね!
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