表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
あやかし斎王  ~斎宮女御はお飾りの妃となって、おいしいものを食べて暮らしたい~  作者: 菱沼あゆ
第三章 あやかしは清涼殿を呪いたい

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

51/98

あと一歩でできそうではあるんですが……


 鷹子が花朧殿を退出するとき、女御は見送りに出てきくれた。


 上げられた御簾の向こうの庭を見ながら女御は言う。


「もし、ほんとうに東宮様が呪い殺されたのなら、誰にやられたのか、本人はわかっているかもしれないわね」


 呪い殺した張本人に祟って出ているかも、と言う女御に鷹子は言う。


「あの……今、呪われているの私と帝なんですけど……」


 あら、そう、とどうでもよさそうに言い、じゃあねと花朧殿の女御は奥へ引っ込んだ。




 鷹子はそのまま自分の居室には戻らずに、中宮の部屋の前まで行ってみた。


 御簾越しに中の気配を窺ってみたが、(とが)めに出てくる女房も居ない。


「なにをしておられるのですかな」

と言う声に振り向くと、左大臣、実守が立っていた。


「いえ……。

 中宮様にも干琥珀をと思ったのですが」


 女房の手にある、もうひとつの干琥珀を実守に渡す。


「それはすみませんな。

 近頃、斎宮女御様が凝っておられるとかいう舶来の菓子作りの品ですか」


 あなたは伊勢の田舎でそんなことばかりしておられたのですか、と言われ、ああっ、そうだっ、と鷹子は気づく。


「そうだっ。

 伊勢に居る間にやった方が自由が効いたのにっ。


 いやいやっ。

 でも、帝が居ないと砂糖くれる人が居ないし。


 晴明が居ないと、あやかしが冷やしてくれないしっ」


 思わず声に出して苦悩してしまった。


 実守は呆れような溜息をつく。

「暇なことでよろしいですな、女御様は」


「そうだ。

 左大臣様。


 南方よりの貢ぎ物とか左大臣様ほどのお方なら、よくありますよね?」


「なんですかな。

 急に持ち上げてみたりなどして」


 私だけではなく、あなたの父君にもいろいろとおありでしょう、と言われる。


「まあ、そうなんですが。

 左大臣様の方が多いかなと」


 おべんちゃらではなく、実際そうだろうと思い、鷹子は言った。


 その権力から言っても、交友関係の黒さから言っても。


「……なにか欲しいものでもあるのですか」


「左大臣様、南の方から珍しい青い花を送られたことはありませんか。

 おそらく、チョウマメという名前の」


 青い花? と呟いた実守はギクリとしたように鷹子を見た。


 ……何故、ギクリとする。


「そ、そんなものは知りませんな」


 知ってるんだな……。


「お父上にも訊いてみられてはどうですか」


「はあ、訊いてみます。


 あと、左大臣様。

 左大臣様のご領地に『毒水の湧き出す泉』はございませんか」


「……おかしなことばかり訊いてこられますな、女御様。

 私がそのようなものばかり集めて、なにか企んでいるとでも?」


 横目に左大臣はこちらを窺ってくるが。


 鷹子は、ん? と思っていた。


 そのようなものばかり?


 毒水はわかる。

 だが、何故、南方から来た青い花の話で、なにか企んでいることに……。


 鷹子は頭の中に残っている図書室やスマホで見たバタフライピーのページをめくってみた。


「左大臣様」

と呼びかけたとき、実守が先制攻撃するように強い口調で言ってきた。


「あなたにとやかく言われる筋合いではないですな。

 そもそも、あなたさえ現れねば、このようなことには……っ」


 えっ? どのようなことにっ?


 左大臣はそこで言葉を止めると、

「失礼」

と御簾を跳ね上げ、中に入っていく。


 今回は華やかな女房たちも見えず、香の香りもしなかった。


 ただ奥の方に美しい襲の衣を羽織った女が一瞬見えた。


 中には入らぬ左大臣の部下たちが苦笑いして、ペコペコ頭を下げてくる。


 いろいろすみません。

 堪えてくださいというように。


 いや、別にいいんですけど……。


 でも、なんか気になるなあ、と鷹子はふたたび下りた御簾を見つめていた。


 実守に見えぬよう陰に隠れていた神様が、たたたたっと御簾に向かい、走っていったが、弾き飛ばされる。


「……結界?」


 鷹子は極普通の御簾に見えるそれを見つめる。


 っていうか、神様。

 神様が弾き飛ばされてどうすんですか、と思いながら、鷹子は神様をつまんで肩にのせた。

 


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ