そういえば、この知識は何処から……?
吉房が去ってすぐ、鷹子は花朧殿を訪ねていた。
「で、その糸寒天を一晩水につけたあと、煮溶かし、濾しました。
此処で、ちゃんと濾さないと、キラキラしないんです。
その濾した寒天液に砂糖を加え、糸が引くまで煮詰め、水飴を入れました。
その方が透明になるので。
そうやってできたものを器に流し込み、クチナシで色をつけたんですけど……」
どうやって作ったのかと花朧殿の女御が問うので説明していたのだが、途中でめんどくさくなったらしく、もうよい、と花朧殿の女御は手を振った。
相変わらず、幾つなんだかわからないくらいお美しいな、と女御を眺めながら、鷹子は思っていた。
国語便覧で見ていた平安絵巻的な顔ではなく、艶やかで派手な顔立ちの美女だ。
やはり、全員ああいう、ぺたっとした顔で細目なのは、ただの絵画的技法だったのか、と鷹子は思った。
そう美的感覚は変わらないようだ。
「斎宮女御様は、いろいろな知識をお持ちねえ。
何処からどんなものを学んでくるの?」
舶来の本? と問われる。
そういえば、私は何処からこの知識を……と鷹子は自分で疑問に思った。
うっすら浮かぶのは家庭科室と図書室。
「そうだ。
私、家庭科部だったんですよ。
学校でお菓子作って食べられるという理由で。
で、先生に言われてお菓子の作り方とか歴史を図書室で調べていたような……」
「なにカテイカブって」
陰陽寮みたいな、怪しいところ? と花朧殿の女御に問われる。
この時代では若い娘ではないのかもしれないが。
私たちの時代なら、まだバリバリ若いな、と鷹子は、しどけなく座る女御を見る。
「あなたもいろいろ大変ねえ。
ほんとうなら、あなたが中宮でしょうにね。
それがあんな離れた場所に住居を構えて」
いや、離れた部屋なのは、私の希望なんですけど。
でもそうか。
花朧殿の女御も中宮が普通でないのはご存知なのか、と思う。
「そういえば、前の東宮様は呪い殺されたんじゃないかって話がまた出てるようだけど。
……私じゃないわよ。
此処を去って仏門に入ったりとかしたくないから呪ったとかじゃないからね」
脅すようにこちらを見て女御は言ってくる。
言ってません、そんなこと……。
「私は先の東宮様を狙ってなんかいなかったわよ。
確かに私の言うことなんて聞いてくれなさそうだし。
今の帝みたいに形だけ置いてくれるとかいう融通はきかせてくれなさそうだったし。
気位高くて生真面目で、ちょっと扱いにくそうだったけど」
「……思ったより恨みがありそうですね」
とうっかり言って、
「ないわよっ」
と怒鳴られた。