表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
5/98

あれさえあれば、この世界でも生きていけますっ!


 帝がいそいそと鷹子の許に向かおうとしている頃、鷹子は帝のことなど思い出しもせずに、自室に向かっていた。


 ここの暮らしも悪くないんだけど。


 食事がちょっとなあ。


 基本、味ついてないから、自分でつけるようになってるんだけど。


 しょっぱいとか、すっぱいとか、単調な味付けしか、ほぼできないし。


 せめて、あまいものでおいしいもの食べたいなあと思うんだけど。


 この時代のあまいものって、現代の味覚を思い出した私には、いまいち……。


 食事はダメでも、スイーツッ。


 せめてスイーツっ。


 スイーツさえあれば生きていけるっ。


 と暇なことを考えているまさにその瞬間、鷹子は命を狙われていた。




 渡殿(わたどの)を通っていた鷹子の頭に、ふいに、


 弓道部っ、という言葉が浮かんだ。


「伏せてっ」

と鷹子が叫ぶと、反射神経の良い女房たちはみな、何故、と問うこともなく、さっとしゃがむ。


 カン、と硬い物がなにかに当たる音がした。


 顔を上げると、渡殿の横の地面に矢と扇が落ちている。


 弓道部っ、と思ってしまったのは、矢の音がしたからのようだった。


 誰かが扇を投げて、飛んできた矢を落としてくれたらしい。


 背後から晴明の声がした。


「おや、どなたかが女御に呪いをかけ、亡き者にしようとしたようですね」


 いや、呪いってか。

 リアルに矢が飛んできたみたいなんですけど……。


 晴明は渡殿から下りながら、九字を切り始める。


「臨・兵・闘・者・皆・陣・烈・在・前……」


 が、その手は刀を持ち、刺客を斬ろうとしていた。


「……九字、関係ないですよね」

と鷹子は呟く。




「晴明……。

 お前、なんということを……。


 いや、


 ……いや、すまない。

 よくぞ、女御を助けてくれた」


 少し遅れて現れた吉房は渋い顔で、そう言った。


「すみません。

 余計なことを致しました」


 男は晴明に生きたままひっ捕らえられていた。


 晴明が笑い、吉房について来た是頼(これより)も何故か苦笑している。


 私を助けたことがなんで余計なことなんだ?

と鷹子は扇で顔を隠すことも忘れ、晴明を見、帝を見た。




 なんということだ。

 あと一歩早ければ、私が女御に良いところを見せられていたかもしれないのに。


 そう吉房は思っていた。


 晴明が惚れ惚れするような活躍を見せ、敵を退治したことは、うっとりと彼を見ている女房たちを見ればわかる。


 いやまあ、鷹子には晴明に見惚れている様子はなかったのだが。


 どちらかと言うと、小首を傾げている。


「晴明、あとで褒美をとらせよう。

 是頼、誰が女御を狙わせたのか吐かせよ。


 女御よ、無事でなによりだ。

 恐ろしくはなかったか?」


「はい、ご心配ありがとうございます」


「では、居室まで送ろう」

と吉房は鷹子に申し出た。



評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ