何故、それを連れて帰ってきましたか
次の日、東宮の呪いの話をしようと待っていた鷹子の許に、海坊主を連れた晴明が現れた。
「……どうしたのですか、それは」
「女御のご命令に従い、ところてんを買い付けに行ったらついてきました」
何故……。
「海まで行ったのですか?」
「いえ、ところてんはその辺で売っておりますから。
でも、その買ったところてんに海坊主がついておりまして」
食玩か……。
ところてんは天草という海藻でできている。
その天草にとりついていたのだろうか。
加工されたところてんにもそのまま憑いてきたようだ。
「で、女御のご命令通り、ところてんをあの洞穴であやかしに凍らせてもらい、乾燥させました」
氷室いらずだな。
あやかし、役に立つな。
この海坊主もいつかなにかの役に立つだろうか、とじっと見つめてしまい、何故か海坊主におびえられた。
「で、こちらが、女御様ご所望のものです」
晴明の言葉に、青龍がザルに入った凍結乾燥させたところてんを見せてくる。
寒天だ。
この時代にはまだない。
「ありがとう、晴明」
と礼を言うと、
「これがクリームソーダに必要なのですか?」
と晴明が訊いてくる。
「うーん。
入れてもいいけど。
クリームソーダに色をつけるのなら。
その色をつけるもので、違うものも作れるかなと思って」
「色ですか」
と晴明は考える風な顔をする。
「やっぱ、クチナシとか紅花かな。
……青色か緑が欲しいところなんだけど」
クチナシからは、いろんな色の着色料がとれるが、色によっては、いろいろと加工が必要だ。
紅花は赤と黄色の色がとれるが、非常に高価だ。
砂糖を大量に使い、紅花までとか。
そろそろ左大臣に殴り殺されるに違いない。
「バタフライピーがあればな~」
「なんですか、バタフライピーとは?」
バタフライピーとは、チョウマメのことだ。
パタフライピーのハーブティーは透明感のある美しい青だが、レモンなどのクエン酸をたらすと紫に変わる。
でも、江戸時代にしか入ってこないんだよな、チョウマメ。
……異世界だから、あるかもしれないが。
「ねえ、いろいろ交易で得た変わったものって何処にあるかしら?」
「それは帝がお持ちなのでは?
あとは左大臣様とか、女御様のお父上とか」
いろいろ貢ぎ物があるでしょう、と言われる。
「あとは、お坊様とかですね。
勉強のため他国に渡って、いろいろ持ち帰ったりしてるでしょう」
「そうね。
お父様は盲点だわ。
南の方から美しい青い花の植物を贈られたことがないか訊いてみるわ」
「寺には私が訊いてみますよ」
あとは……左大臣様か、と鷹子は眉をひそめる。