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あやかし斎王  ~斎宮女御はお飾りの妃となって、おいしいものを食べて暮らしたい~  作者: 菱沼あゆ
第三章 あやかしは清涼殿を呪いたい
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あやかしは誰かを狙ってる



「帝」

 鷹子は演奏をやめ、呼びかけた。


「……なにか居ます」


「何処に?」

「そこに」


 だが、吉房には目の前の庭に立つ男が見えないようだった。


「さすがは元斎王だな」


 いや、私にも今、見えてるんですけど……という顔を控えていた命婦がしている。


 ということは、さすが元斎王、ではなく、どうした、帝、が正解だろう。


 男は黙ってそこに立っている。


「女御よ。

 どのようなモノが居るのだ」


 ……どのようなモノ?


 いや、その特徴を言ってしまえば、一発で誰だかわかってしまうのだが。


 今まで、清涼殿の周りに出ると噂になっていたあやかしとこの人物が同じモノかはわからないが。


 先ほどと同じモノなら、どんどん自己主張が激しくなっているようだ、と鷹子は思う。


 みなの前にこの姿で出れば、顔がぼんやりとしかわからなくとも、この人がどういう人なのか、一発でわかってしまうはずだから――。


 男は黄丹袍(おうにのほう)をまとっていた。


 それが見えていない帝は言う。


「なに奴じゃ。

 もしや、この胡荽(こすい)飴を狙ってまいったのかっ」


「……なに、怨霊にいらない物を押しつけようとしてるんですか」


 そろそろバチが当たりますよ、と鷹子は吉房に言った。


 いや、天皇にバチなど当たるのかは知らないが。


 黄丹袍か。

 まあ、古い時代のモノの可能性もあるが……。


 いや、もう、答えは出ているか。


 鷹子は顔の見えぬその男を見据(みす)えた。


 さっきから、いつか嗅いだことのある香の香りがしていた。


「都の方におもむきたもうな」


 先帝と行った別れのお櫛の儀式のあと、出会ったその人は優しく微笑み、話しかけてきた。


「お前に次に会うときは、私の御世(みよ)のときであろうかな」


 鷹子はその怨霊に呼びかけた。


「何故、今になって、祟られるのですか?」


 ……東宮様、と鷹子は吉房の前に天皇となるはずだった男の、ぼんやりとした人影を見つめる。




 翌朝、清涼殿から戻る途中の鷹子は中宮の住まい近くの庭先に立つ左大臣、実守を見た。


「なにをされていらっしゃるのですか?」


「いや、此処にあやかしが出たというから、誰かが中宮を狙って、なにかを放ったのかもしれぬと思ってな」


 今、晴明も呼んだ、と言い出す。


 ……晴明も大変だな、と思いながら、鷹子は言った。


「此処に出たからと言って、中宮様を狙っているとは限りませんよ。

 左大臣様を狙われていたのかもしれませんし」


 ひっ、と実守の側に居る男たちが怯えて周囲を見回す。


 だが、当の左大臣は怯むでもなく、堂々としていた。


「私は誰に狙われる覚えもない。

 人の道に外れたことなどしておらぬ」


 ……あなた、私を狙ってるんじゃないんですか?

 それは人の道に外れたことにはならないのですか?


 そう思いながら鷹子は言った。


「昨夜のあやかし、清涼殿にも出ました。

 別に中宮様を狙っているのではないと思います」


「ほう。

 斎宮女御よ。


 ずいぶんとあのあやかしに詳しいのだな」


 まさかお前が放ったのか、とまで言われた。


 ……この人はあれだな。

 例え、ほんとうは、なにもしてなくとも、この偉そげな口のきき方だけで、充分あちこちで祟られそうだな。


 そう思ったとき、朝から白い衣も眩しい晴明がやってきた。


 来るなり、実守に、

「なにも心配ございませんよ。

 お引き取りください、左大臣様」

と言い出す。


「呪われてるのは中宮様でも左大臣様でもございません」


 待て、と鷹子は思っていた。


 開口一番そう言うということは、晴明は、あの怨霊がなんなのか知っていたということだ。


 知ってて放置してたのか。


 ……しそうだな。


 誰かに調伏を頼まれないかぎり。


「狙われているのは中宮様でも左大臣様でもございません」


 そう繰り返したあとで、晴明は、しれっとした顔で言った。


「帝と斎宮女御様です」


 早く言ってっ、という顔を鷹子たちと、ちょうど近くに来ていた是頼がする。


 


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― 新着の感想 ―
[一言] おお、急展開。 そして、胡荽飴を押し付けようとする帝、お茶目さん。
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