夢の飲み物のつくり方
クリームソーダ。
それは夢の飲み物。
緑、青、紫……
グラスの中の透明感あるカラフルな炭酸水が喫茶店のレトロな窓ガラスから差し込む光に輝いているイメージだ。
シュワシュワ湧き上がってくる炭酸と、日の光をつるんと反射する氷。
その上にぽってりとのった白いアイスクリームに、真っ赤なさくらんぼ。
緑の炭酸水と白いアイスクリームが絶妙に混ざり合う境界線もまた可愛らしい。
ビジュアルも、ちょっと作り物っぽい味も、レトロ感あっていい、と鷹子は思っていたが。
冷静に考えたら、この時代では、レトロ感どころか、未来の飲み物なのだが……。
鷹子がみなに、ざっくりクリームソーダの説明をしていると、吉房が是頼とともにやってきた。
「帝っ、クリームソーダ飲みたくないですかっ?」
満面の笑みで鷹子は訊いた。
なんだかんだで、スイーツを作るには、この人の協力が不可欠だからだ。
「くりいむそうだ……」
吉房は口の中でそう繰り返している。
今のところ、吉房はクリームソーダがわからないようだった。
だが、プリンのときも最初はピンと来ていなかったようだが。
彼の身体は、ぷっちんを覚えていた。
晴明といい、一体、何者? と鷹子は思っていたが。
向こうからしたら、お前が、何者? なのだろうな、とも思っていた。
さて、とりあえず、クリームソーダを作るために必要なものをリストアップしてみるか、と鷹子は思う。
まずは、炭酸水。
それから、着色料。
アイスクリーム。
さくらんぼ。
氷。
レトロな雰囲気のグラス。
こんなところかな?
まず、簡単なところから、さくらんぼ。
これは季節的にもまだ手に入るから大丈夫だろう。
今回は、シロップづけにしてみてもいいかな、と思う。
また砂糖を使うのか、贅沢な女御めと左大臣に攻撃されなければだが……。
氷もなんとかなるだろう。
また氷を運ばせてるのか、贅沢な女御めと左大臣に攻撃されなければだが……。
次に、レトロな雰囲気のグラス。
……は、まあ、それっぽいものを探したらなんとかなるだろう。
意外にガラス製品多いし。
そして、アイスクリーム。
これを作るのに重要なのは、材料よりも晴明の操るあやかしだ。
この間より長く、ガンガンに冷やしてもらわねば困る。
あやかし一体じゃ疲れるだろうから、二、三体同じのが居るといいんだが。
何処から連れてきたあやかしだったのだろうか。
私でハントできるものなら、ハントしてくるのだが……。
まあともかく、晴明がスイーツ作りに飽きてないことを祈ろう、と鷹子は思った。
そして、炭酸水。
手に入れる方法はふたつある。
ひとつは、重曹とクエン酸を使って作る方法。
でも、それって、排水溝掃除に使うあれだよな……。
排水溝に重曹、クエン酸、水を入れると、もこもこ泡が出てくる。
お掃除に使うところを想像すると抵抗あるが。
まあ、普通に炭酸水ができる。
しかし、問題は重曹とクエン酸だ。
お掃除のときのクエン酸は酢で代用するけど。
クリームソーダにはどうだろう。
すごい酢の匂いがしそうだ。
レモンで代用するという手もあるが、此処にはレモンがない。
酸っぱい柑橘類でどうにかなるかな? とは思うのだけど。
重曹の方はどうだろう。
重曹を作るには、電気分解したり、かなり面倒くさかった記憶がある。
鷹子は授業中聞いた話をうーんと思い出しながら考える。
やはり、自力で重曹を作るのは大変そうだ。
となると、炭酸泉か。
この時代はまだ、毒水と言われて、恐れられてたと思うけど。
炭酸泉は湧いてはいたはず。
そういえば、ウィルキンソンが日本の天然炭酸水だと知ったときはビックリしたな~。
てっきり、外国の炭酸水だと思ってた。
にしても、炭酸水。
家庭用炭酸水メーカーがあれば、一瞬で解決する問題なんだが……。
ないものを追い求めても仕方がない。
とりあえず、炭酸泉を探すか、と結論づける。
だが、今回最大の問題は、その『毒水の湧き出す泉』から炭酸水を手に入れることではなく、着色ではないかと思っていた。
そして、そこをクリアできたら、やってみたいことがあるのだが。
まあ、それにはまた、晴明の協力が必要になるかもしれないので。
とりあえず、とっておきの飴でも送って、晴明のご機嫌をとっておくか、と思う。
クリームソーダとはどんなものかで盛り上がっている女房たちの側で、鷹子は、そんなことを考え、ぼんやりしていた。
すると、吉房が訊いてくる。
「なにを考えておるのだ? 女御」
「あ、すみません。
晴明のことを考えておりました」
吉房が沈黙する。
しまった……。
話を端折りすぎた、と気づいき、慌てて言いかえた。
「クリームソーダ作りに協力してもらうため、晴明に新しく作る飴でも送ろうかなと考えておりました」
「……そうか」
まだ胡散臭げにこちらを見ながら、吉房は一応、そう頷いた。




