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あやかし斎王  ~斎宮女御はお飾りの妃となって、おいしいものを食べて暮らしたい~  作者: 菱沼あゆ
第三章 あやかしは清涼殿を呪いたい

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帝の一日


 天皇、吉房の朝は湯浴みのあと、石灰壇(いしばいだん)で火を焚き、伊勢神宮の方角を拝むことからはじまる。


 国のため、民のために伊勢におわします神に祈りを捧げているつもりなのだが……。


 ……いや、神、女御についてこちらに来てしまっているようなんだが。


 だが、神様、あそこに居るからやめよう、と言うわけにも行かず。


 仕方なく、吉房は神様が今居るとおぼしき場所とは反対を向き、祈りを捧げた。


 朝食後、()御座(おまし)にて、せっせと働く。


 鷹子の動きが此処数日おかしい。


 またなにやら企んでいるようだ、と思う吉房は、不安半分、期待半分、様子を窺いに行くために、鷹子に歌を送る。


 今宵、あなたの許を訪れてもいいだろうか?

という内容を雅な感じに詠んでみた。


 初夏の花が添えられた立派な返歌がやってきたが。


 お目付役の命婦に尻を叩かれながら書いてるんだろうなと思うと、笑ってしまう。




 夜、ようやく自由の身になった吉房は、いそいそと鷹子の許に出かけた。


 出かけたと言っても同じ内裏の中なのだが。


 簡単に、ひょいと何度も顔を出すわけにはいかないので、遠く感じる。


 鷹子の住まいまで歩いていく道中、先導する是頼(これより)がぼそりぼそりと語ってくる。


「最近……清涼殿の周囲にあやかしが出るという噂があるのですよ」


 廊下の屋根から下がっている釣り灯籠は強めの風にあおられ、ゆらゆらと揺れていた。


 その揺らめく灯りに照らし出された是頼の顔がなんだか怖い。


「まあ……斎宮女御様こそ、なんだかわからない感じですけどね」

と人の妻をあやかしの一種のように是頼は語る。


「あの方に、実は人じゃないんです、と告白されても、ああそうなんですかー、とか、あっさり言ってしまいそうですよね」


 是頼は無礼この上ないことを言ってくるが、実は、自分も同じことを思っていたので、吉房は黙った。


「ところで、その清涼殿の外に居るあやかしって、どんなのだ」

と話題を戻し、訊いてみる。


「なんか黒い影らしいですよ。

 ……外に立ち、清涼殿の方を覗いているらしいです。


 誰かが気づいて振り返ると、ふっと消えてしまうとか。


 おや?

 怖がらせてしまいましたかね?」


 申し訳ございません、と是頼は、にやりと笑って謝ってきた。


 いや、お前っ。

 怖がらせようと思って言ってるだろうが~っ、と思った吉房は、中宮の部屋の前まで来ていたことに気がついた。


 御簾の向こうで、ことり……と音がした気がして、ビクリとする。


 いやまあ、本来、中宮の住まいから人の気配がないことの方が怖いことではあるのだが。


 日中は涼やかな風が吹き、日の光が差し込んで気持ちの良い廊下も、今の話を聞いたあとでは、あやかしが居るかもしれない夜の闇に向かい、開放的すぎて怖い。


 中宮の住まいを過ぎても空いている部屋が多く、ビクビクと吉房は歩いていた。


 そもそも、鷹子は右大臣の娘であり、最愛の妻なのだから、もっと清涼殿に近い場所に住んでいていいのだが。


「都から遠く離れた伊勢に長く居りましたので。

 ひっそりと他の方々の住まいから離れたところに住みたいのです」


 などと謙虚なことを最初言ってきたので、可愛らしいと思い、離れた場所にしてやったのだが。


 いや、お前、やりたい放題やるためじゃないか、と吉房は思っていた。


 まあ、気づくべきだった。


 好き放題やりたい花朧殿(かろうでん)の女御が、

「大きな部屋の中で、一番遠い場所にしてよね」

と似たようなことを言っていたことだし。


 しんとした部屋ばかり続いたところに、いきなり、騒がしい声が、わっと聞こえてきた。


 人の気配と室内から漏れている明るい光に、ホッとする。


 顔を覗けると、鷹子が挨拶もそこそこに、


「帝っ、クリームソーダ飲みたくないですかっ?」

と満面の笑みで言ってきた。


「くりいむそうだ……」


 なんだかよくわからないが、今度はそれを夢で見なければならないのだろうか。


 まだぷりんの夢も見ていないのに……と思いながら、吉房は、かしましい鷹子と女房たちを眺めていた。




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― 新着の感想 ―
[一言] 今度はくりいむそうだ。 炭酸泉はどっかにありそうですね。 でもやっぱり砂糖が貴重だし……。 色はどうするのかな? わくわく。
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