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あやかし斎王  ~斎宮女御はお飾りの妃となって、おいしいものを食べて暮らしたい~  作者: 菱沼あゆ
第二章 姿なき中宮

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さあ、冷やしてくださいっ

 

「これが陰陽寮っ」


 牛車から降りた鷹子は驚愕していた。


 一応、顔は扇で隠しながら、晴明を振り向き言う。


「なんっにも面白くないんですけどっ。

 普通の建物で普通のお役所じゃないですか、これ」


 陰陽寮の中も他の大内裏の中の建物と何ら変わらない建物が並んでいるだけだった。


「はあまあ、普通のお役所ですからね」


 どんなの想像してたんです? と逆に訊かれてしまう。


「なんか魑魅魍魎の類いがウロウロしてるとか」


「陰陽寮がその状態なら、我々、なんの仕事もしてないことになりますよね」


 まあそうか。

 なにも調伏できてないことになるわけだからな、と思い、鷹子は陰陽寮の上の薄青い空を見上げた。


「意外に空気が澄んでますね~」


 だから、どんな怪しげなところだと思ってたんだ、という顔を晴明はしている。


「あっ、でも、あそこだけ特徴的な建物がっ。

 洗濯物の物干し場みたいなのがありますがっ」


 鷹子が指差した先には屋上に柵がしてあって、ルーフテラスのようになっている建物があった。


 鐘や鼓が設置してあるのが見える。


「……星を観測したり、時を告げたりする場所ですね。

 下に漏刻(ろうこく)があります」


 漏刻とは階段状の水時計のことで。

 陰陽寮の漏刻博士が一階にある水時計で時を知り、屋上の鐘や鼓で時を告げる。


 この都の時を管理している場所だった。


「ところで、牛車の中で、なにやらバタバタされてましたが」


「えっ?

 外まで聞こえてました?」

と牛車の横を歩いていた晴明に訊く。


「いえ、気配が」

と彼は言い、鷹子の側で若い女房が捧げ持つ、あの硯箱を見た。


 ……普通の硯箱をそんな(うやうや)しく持ってどうする。


 怪しまれちゃうよ、と鷹子は若い女房見たが。


 神妙な顔をしてプリンを捧げ持っているのが可笑しいというか、微笑ましかったので、結局、注意はしなかった。


「できるだけ冷ましておいたのです。


 さ、晴明。

 これを問題の洞穴に。


 私もあとで連れて行ってくださいね」


 ささ、と女房を促し、晴明に持たせる。


「あっ、揺らさないでっ」

と鷹子が慌てて言うと、


 晴明は、ふう、と溜息をつき、

「青龍」

とあの小間使いの少年を呼んだ。


 いつの間にか側にいた青龍が、はい、と硯箱を受け取り、女房がしていたように捧げ持っていった。


 愛くるしい顔をしている少年の背を見送りながら、

「あの子、式神ではないんでしたよね?」

と鷹子は訊く。


 確か安倍晴明は青龍という名の式神を使っていた気がしたからだ。


「あれは式神ではありません。

 あなたの前を歩いているのが式神です」


 えっ、と鷹子は声を上げる。


 晴明の指先は、すぐ目の前の建物に先導してくれている普通の小役人風の男の背を指していた。


「えーっ。

 ここ、もうなにがなんだか……」


 こっちの方がめっちゃ普通のおじさんに見えるんだが……。


 その式神に導かれ、一番大きな建物の中に入ると、鷹子のために(しつ)られたらしい几帳に囲まれた場所に通される。


 陰陽頭(おんようのかみ)たちが平伏して挨拶してくれる。


「女御様、わざわざ陰陽寮までお越しくださりありがとうございます」


 いえいえ、私が来たいと頼んだんですよ、と思いながら、鷹子は言った。


「私の願いを聞き入れてくださり、ありがとうございます。

 本日はできるだけ、陰陽道について学んで帰りたいと思います」


「もったいないお言葉。

 是非とも、我らに伊勢神宮及び、斎宮での祭事についてご教授ください」


 うわ~、と鷹子は小さく声を上げる。


 近くに控えていた晴明に言った。


「話を聞くだけなら、途中で若い女房とすり替わって抜け出そうかなと思ってたんですが」


「それは無理だと思いますね」


 あっさりと晴明は言った。


「でも、どうせ几帳の陰なのでわからないかと……」


「無理です。

 式神ならともかく、他の者にあなたの代わりはできません。


 あなたは高貴な方ですし。

 目も眩むほど美しい。


 几帳の隙間から垣間(かいま)見えるお姿でバレると思います」


 え? この人、今、私を褒め殺しました? と思ったのだが、晴明はそんなつもりもないようで、


「あなたの代わりは誰にも無理です」

と非常に素っ気ない口調で言ってくるだけだった。




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