帝はプリンの夢を見られるか
「なんと、晴明はお前が思い描く『ぷりんあらもーど』とやらを夢に見たというのかっ」
おのれ、晴明~っ、と何故か吉房は晴明に怒りを抱く。
いやあの人、たぶん、同じ世界の人なんで見ただけだと思うんですけどね。
「わかったぞ、女御よ。
私もそのぷりんの夢を見ようぞっ」
……見れますかね?
「プリンと言えば、周りに飾りつける果物も集めたいんですよね。
ひとつは決まってます。
この間の野苺なんで。
甘くはないけど、赤くて、コロンとして可愛いですしね」
そして、メロンの代わりには――
「熟瓜。
熟したマクワウリ……は季節がまだですよね」
と鷹子が呟くと、
「暑い地域や寒い地域だと、この辺りとは違う実がなっていたりするぞ。
帝の威信にかけて探してやろう」
と吉房が手を握ってくる。
「……いや、だから、そんなところに威信をかけなくていいですよ」
なにかで代用しますから、と鷹子は言う。
この世界でスイーツを作りはじめてから、代用品ばかり使っているので。
なんでもなんとかなりそうな気がしていた。
利宇古宇。
林檎もいいけど。
まだ季節早いな。
小さくて美味しくない、観賞用の物しかないし。
でも、飾るのには可愛くていいかも。
あとは、オレンジ。
「柑橘類ですかね。
蜜柑っぽいもの」
「……やはり、非時香菓か」
「やめてください。
また左大臣様に狙われてしまいます」
普通の柑橘類でいいんですよ、と言ったが、この時代のものは甘くなさそうだなあとも思う。
改良に改良を重ねて、現代の果物とかできてるんだろうなと思い、変にしみじみとしてしまう。
いやもう、私自身、その甘い果実を食べることはできないのだが……。
「あと、枇杷とか」
さくらんぼなんかも可愛いなと思う。
「支那実桜 の実って、まだ、なってますかね?」
支那実桜 。
別名唐実桜。
いわゆる、桜桃だ。
この時代のさくらんぼは、まだ中国から入ってきた桜桃しかなかった。
食べたこともあるが、小さくてすっぱい。
シロップ漬けにしたら甘くなるだろうが……。
「ああでも、また砂糖を大量に使うと、左大臣に消されそうです」
と鷹子が思わず呟くと、
「砂糖でか」
と吉房に言われる。
「今度の女御は生意気にも贅沢三昧だと言って、殺られそうですよ」
缶詰のさくらんぼみたいにしたいけど。
それには砂糖だけでなく、レモンもいる。
レモン……はさすがにまだ見たことないな。
この時代、まだ日本には伝わっていないようだった。
まあ、そこは、なんか酸っぱい柑橘類とかで代用できるかも。
でも、柑橘類のことを口に出したら、また、帝が、
「やはり、非時香菓か!」
とか言いそうで怖いから黙っていよう、と鷹子は思った。
――が、
「帝」
なんだ、と吉房がこちらを見る。
「左大臣様が非時香菓にこだわるのは何故ですか?」
以前から、ちょっと気になっていることがあったのだ。
吉房は視線を逸らし、
「知らぬわ。
不老不死にでもなりたいのであろう」
と言ったが、妙に歯切れが悪かった。




