夢について語ってみた
中宮の住まいにはなにが潜んでいるのだろうな。
晴明の言葉に、鷹子はいろいろと妄想してみる。
そんな鷹子の顔を見ながら、晴明が言った。
「ほんとうに今上天皇のお妃様方は、得体の知れぬ方が多いですな。
……いつか、私が一掃せねばならぬのかもしれません」
その据わった目に、命婦とふたり震える。
そのお妃様方の中に私も含まれてますよねっ。
って言うか、得体が知れないのは、私も花朧殿の女御も或る意味そうかもしれないんですけどっ。
我々は生きてますからねっ、と鷹子は思う。
花朧殿の女御は好きだ。
マイペースだが信念のある人で面白い。
あの年でも若く美しいし。
……と言っても、元の世界では小娘程度の年であるのだが。
晴明は、
「まあ、中宮様に関しては、帝があのままでよいとおっしゃるので、とりあえず私は触れませんが」
と言って、プリン・ア・ラ・モードについて語りはじめた。
「晴明。
あなたが夢で見てくれたので、話が伝わりやすくて助かります」
そう鷹子は微笑んだが、晴明は眉をひそめ、
「まあ、私の見たものが、あなたがおっしゃるものと本当に同じかどうかは判定できませんけどね」
と言う。
本人が言う通り、何処までも懐疑的なようだった。
「あなたの夢の中を覗くことはできませんが。
きっと同じですよ、助かります。
それにしても、どのような場所であなたはプリン・ア・ラ・モードを食べていたのでしょうね」
そんな風に話し合っていると、自分も前世の話に入りたかったらしい命婦が言ってきた。
「そっ、そういえば、私も不思議な夢を繰り返し見ることがありますわっ」
自分の側にずっといる命婦も、同じように異世界から来たという可能性もないでもない。
鷹子は身を乗り出し、訊いてみた。
「どのような夢ですか?」
はい、と頷き、命婦は語り出す。
「実は、私、その夢の中で、空飛ぶ乗り物にのっているのです」
えっ? 飛行機?
と思いがけない話に思ったが違った。
「それはふわふわと空を漂い、いろんな場所に現れたり消えたりするのです」
……ヘリか、気球かな。
「時に高く上がりすぎ、下に丸いものが見えました。
青と白と緑の茶色でできた美しい球体です」
「それ、地球では……」
もしかして、それ、うつろ舟? と鷹子は思った。
うつぼ舟とも呼ばれる日本に昔から伝わるUFO伝説だ。
これよりのちの時代の本に出ているが、円盤のような不思議な乗り物が漂着し、箱を大事そうに持った美女が乗っていたとかなんとか。
いやいや、またまた、と鷹子は思ったが、命婦が不思議そうに訊いてきた。
「なんですか? 地球って」
「え、えーと。
この、私たちがいる大地のことよ」
すると、命婦は、女御様~と笑って言ってくる。
「丸いものですよ、私が見たのは。
地面は平らです。
まあ、山もありますけどね」
そういや、自分たちが立っている場所が丸いだなんて、此処の人たちが知るはずもなかったな、と気がついた。
……私より命婦の方がよっぽどヤバイ人だな、と鷹子は苦笑いする。