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あやかし斎王  ~斎宮女御はお飾りの妃となって、おいしいものを食べて暮らしたい~  作者: 菱沼あゆ
第一章 鵺の鳴く夜

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現代風の甘いものをこの世界で作るとすれば……



 うーん。

 現代風の甘いものをこの世界で作るとすれば、やっぱり、見た目、一番近いのは、唐菓子だよね。


 なんたって、粉類を練って油で揚げてるんだから、かなりお菓子っぽい。


 でも甘さがな~。

 ちょっと寝ぼけた味なんだよね。


 だから、せめて……。


 鷹子は、ふと思いついたことがあり、

「今夜、帝はいらっしゃらないのかしら?」

と命婦に訊いてみた。


 まあ、と命婦は手を打って喜ぶ。


「斎王さ……


 女御様が、珍しく帝のお越しに乗り気にっ」


 いや、たぶん、あなたが期待しているような意味ではないのですが……。


「では、帝のおいでを待ち焦がれているようなお歌を、今すぐお詠みください。

 急いで届けさせますわっ」


 用事があるから来てくださいってどう詠んだらいいんだろうなあ……。


「あの~」


 なんですっ? とすでに帝の訪問に備えた準備に入ろうとしている命婦が、キッと振り返る。


「い、いやその。

 歌も詠むけど、帝もお忙しいから。


 歌を詠んだくらいで、すぐに来てくれるかわからないじゃない。


 私が帝に用事があるので、急いで来て欲しいらしいって、誰かの口から今すぐ帝の耳に入るようにできないかしら」


 なにをおっしゃってるんですかっ、と命婦は力説しはじめる。


「女御様が会いたいという素振りを見せただけで、帝は飛んでいらっしゃいますともっっ」




「斎宮女御から歌が?

 詠む必要もないのに?」


 吉房は緊張しながら、控えめだが可憐な花のついた、美しい唐紙にしたためられた女御の歌を見る。


 ……読むのが怖いんだが。


 なにが書いてあるんだろう。


 宴や儀式の前後で送らねばならないと決まっているときしか詠んでこない女御が、私に一体、なんの歌をっ?


 まさか、妃でいたくないので、出家致しますとかっ!?


 いやいや、つい、この間まで、仏とか寺とか出家とか。


 仏教に関わる言葉は忌詞(いみことば)として(はばか)られていた斎宮に住んでいた人間が、いきなり、そんなこと言うだろうか。


 神に仕える穢れなき斎宮の地では、仏教に関する言葉は使ってはならないことになっている。


 吉房は震える手で、その歌を手にとり、紙を広げてみた。




「どんな大事な用件なのだ」


 夜を待たずに、あっという間に現れたな、と思いながら、鷹子は正面に座す吉房を見る。


 用事があるので来てください、だけでは、さすがに味気ないかなと思い、命婦の勧めに従い、


「あなたのお顔が見たいです」的な匂いがする言葉もさりげなく読み込んでみたのだ。


 ……なるほど。

 すぐに来たな……。


 鷹子が居住まいを正し、


「帝」

と呼びかけると、吉房は何故か緊張した風に、うむ、と頷く。


「女御よ。

 何用だ。


 お前の望みなら、どんなことでも叶えてやるぞ。

 出家するとか言うのでない限り」


 何故、出家、と思いながら、鷹子は言った。


「そうですか。

 ありがとうございます。


 実は、典薬寮の乳牛院に行きたいんですけど」


「却下だ」


 一瞬で却下されてしまった……。




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