困ったヒロイン
この世界のヒロイン(転生者)視点です。
俺(というか私)は困っている。
俺の苦難は兄がお姉さんになって異世界から帰ってきたことから始まった。
高級ローストビーフを買った帰り道でバイクに跳ねられ、海に落ちたと思われていた兄は、実は偶然にも近所の子供が戯れに描いた魔方陣に着地した事で異世界に転生していたらしい。ある日いきなり美人剣士として帰還すると涙の再会もそこそこに家族に異世界の素晴らしさを語り、移住の勧誘をはじめた。
ハッピーエンド後は往来自由、魔方陣の特性上転生後は女の子になるが、特典として容姿チートが付くそうだ。
リストラ直後の父と職場の人間関係に失敗した母は大喜びで各々の望む世界へと移住していった。
俺を残して。
俺はフツメンなりに普通の生活がしたかったのだ。その後真面目に勉学に勤しみそれなりに良い大学に合格した。異世界でハッピーエンドを迎え、頻繁に様子を見にくるようになった元親族の美人お姉さん×3を誤解され「3股はっちゃけクズ野郎」の汚名を被ろうとも強く生きていた。しかし天涯孤独の身として保険金と奨学金で大学に通う真面目な俺の生活はそう長く続かなかった。
その日はバイトで貰った高級焼き肉弁当片手に帰宅中だったことまでは覚えている。強い衝撃の後、気がついたら俺は美少女だった。
どうやら俺はヒロイン転生したらしい。
この異世界で生きていくのに公用語が単語も文法も音はほぼ現世の英語なのはありがたかったが、厄介なのが読み書きだ。独特でアルファベットに微妙に似た倍の文字種、全く異なる発音表記を使用している。なまじ英語は得意だったので返って現世の表記に引っ張られてしまい、習得には苦労した。
ヒロインになっても俺(私)の苦労性は抜けないらしく、この世界でも親がボードゲームをきっかけに派閥でいさかいを起こし人間関係に失敗した上に役職を解かれ、一家離散した。
ボードゲームは現世の友情破壊ゲームに似ていた。俺も小学生の頃はこれが原因で兄と殴りあいの喧嘩をしたからよく覚えてる。きっと転生者とか他にもいるだろう。みんな美少女になってるのか?もうさっさとハッピーエンドになって現世に帰りたい。
そもそもドラゴンも魔王も暴れてないこの世界でのハッピーエンドが何を指すのか俺にはさっぱり分からない。王様とか王子に会ってみれば話が進むのか?そもそも謁見するには爵位が低すぎるが、容姿チートでいけるのだろうか?
始めての事ってスッゴい苦手、情報がないって怖い。
だから真面目に慎重に生きてきたのに異世界転生なんてあんまりだ。俺は涙で滲む視界を拭いながら王城へと向かった。
予定より話数が増えそうですが10話以内に納めるつもりです。最後までお付き合いいただけるよう頑張ります
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