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童話を書いてみました

 本作は2020年末に着想し、2021年の正月休みに執筆した作品です。この後書きは、どのような過程を経て本編を書き上げたのかを美化して記すものです。こういう裏話が好きなので、自分の小説にはどれも書いています。これで6回目になります。ご関心をお持ちいただけるようでしたら、ご覧ください。



【海外ゲームのレビューを見て、思いつきました】

 わたしはオンラインショップでPCゲームをよく買います。そこには数千、数万のゲームがあって、日本語に対応していない海外のゲームも多いです。

 それでそうした海外のゲームに、妙に堅苦しい日本語のレビューが寄せられていることがあります。それらは、機械翻訳システムを通してまともな外国語に訳されるよう配慮した日本語なのです。日本語が分からない海外のゲーム開発者にも、できるだけ感想や意見が伝わるようにと、工夫しているわけですね。

 これが本作で造語した「国際日本語」のもとネタであり、正体です。こうした国際日本語でどこまで小説が書けるのか、試そうと思いました。そうすることで日頃から使っている機械翻訳について、どういう文はうまく訳せる、あるいは苦手なのか、どこまでニュアンスが欠落しているものなのかを、把握してみようと思ったのです。



【単純な話にしようとしたのですが】

 試すのはいいのですが、国際日本語は読書体験の質の向上にはまったく寄与しません。ごく短い話で済ませようと思い、童話の「桃太郎」の翻案を思いつきました。

 しかし調べてみると、そうした作品は「なろう」の中だけでも千近くもあるようです。この中で独自性を出すのは厳しいように感じました。そこで金太郎も混ぜることにします。そうすると三十程度とかなり減り、埋没から逃れられそうなめどがたちました。ついでに浦島太郎も混ぜて、さらにネタが被る可能性を減らします。そのかわりに話は複雑になりました。



【プロットと設定を考えました】

 プロットは桃太郎の物語を土台にしました。仲間を集めて鬼を倒すという話の流れは、応用が利きそうだからです。

 気をつけたのは、アイデアの盗用にならないようにすること。どの三大昔話とも、たくさんのバリエーションが存在します。どこまでが昔から伝えられたもので、どこからがアレンジされたものなのか、いろいろ調べて留意しました。基本は、童謡で歌われている範囲に留めています。逆にこの過程で、もともとの話や言葉の意味を知ることができ、作品のネタにしました。


 設定はプロットを考える過程で、都度、決めていきました。

 なぜ桃太郎は桃に入っていたのか、なぜ強いのか、なぜ動物の言葉が分かるのか、などなど。またたとえば、きび団子が万能アイテムであったと設定して謎を解決すると、今度はこの団子を作ったおじいさんがただ者ではなくなります。そこでおじいさんを超有能な薬剤師に設定するなどと、設定は次々広がっていきました。

 鬼のほうも同様です。なぜ鬼は攻めてくるのか、人を殺さないのか。この検討過程で鬼ヶ島と竜宮城が同じ場所にあるという設定を思いつき、浦島太郎の話への絡め方も定まりました。そして竜宮城について調べたときに発見したのが、みんな大好き、安倍晴明です。ホントこの人、なんでもありですね。

 桃太郎のおじいさんの正体を安倍晴明にすることで、桃太郎たちの冒険の背後には壮大な計画があったのだ、という構想に至りました。こうして本作は、当初は考えてもいなかった二部構成になりました。



【国際日本語との格闘 敗北編】

 国際日本語ですが、本作では機械翻訳システムを通して意図通りの英語に変換される日本語を目指しました。ただそれには、いくつもの問題がありました。


 まずなんと言っても問題なのは、わたしの英語力がしょぼいこと。大学受験をピークにだだ下がり、そのピークも大したことはありません。そこで最初に取った作戦が、日→英、英→日の翻訳を繰り返すことです。これを繰り返すと、同じ和文と英文の相互変換に収束するので、その和文を小説に使おうというわけです。

 ネットにはさまざまな無料翻訳サービスがありますが、検索サービスを提供している米国の超大手IT企業のものを選択しました。理由は、同じ文の英訳、和訳を、手間をかけずに繰り返せるからです。

 なおこの企業は表計算サービスも提供しており、そこでも「翻訳関数」を用意しています。ですが、こちらは使いものになりませんでした。どうもサーバーの処理負荷を下げるためか、翻訳プログラムが翻訳サービスで使用しているものより質の低いものを使っているようでした。


 そうして「翻訳繰り返し作戦」を実行したのですが、これはうまくいきませんでした。単純な例では「団子」が使えない。団子は「dumpling」になるのですが、これを和訳すると「餃子(ぎょーざ)」になり、これに収束するのです。和文もヘンテコな日本語に収束するのはまだいいのですが、なかなか意図した意味の和文に収束してくれませんでした。

 結局、第一話を一通り書いたところで中断します。プロットが本格的(?)になってきたこともあって、「奇妙な日本語で記述した童話」というキワモノ路線からは撤収しました。



【国際日本語との格闘 妥協編】

 仕方がないので、機械翻訳による和→英の変換は一回だけにして、英文の是非は自分の英語力で判定することにしました。ですので本作では、文法的に正しく翻訳できているだろうというレベルは確認しているのですが、言い回しなどが自然かどうかは判断できていません。

 たとえば「いってきます」や「ただいま」などは、そもそも欧米には定型的な言い回しが存在しないそうで、対応する機械翻訳された英語が適切かどうか、分かっていません。

 まあこれらは確認できたところで、翻訳システムがバージョンアップされて、良くなったり悪くなったりする可能性があります。追求してもしょうがないし、追求する英語力もないので、見切りました。


 主語や目的語を省略すると途端に変な英語になるのは予想していましたが、ほかにも困ることはありました。

 今回使った会社の翻訳システムは、連なる複数の文でも接続詞でつなげないと、それぞれを単文で訳すようで、主語を繰り返す必要がありました。目的語も同様です。重文も省略するとうまくいかないことが多く、くどい文章になりがちでした。本作は人物の大半が男性なので、まだなんとかなる文が多かったように思います。女性だった場合は想像したくもありません。「his」や「him」を、「her」と訳すよう誘導するのは、とても大変だと思います。

 複文も、うまく訳してもらえる構文とだめな構文があって、これも文体を単調にさせられました。曲がりなりにも童話なので読み上げると不自然な文章は避けたく、結果、リズミカルに繰り返す表現を多用することになりました。


 悪口ばかりになっていますが、良いこともありました。

 たとえば、意図していない内容ながら自然な英文に訳され、もとの和文のあいまいさに気づくことがありました。この種の指摘は、ワープロの(すい)(こう)機能などでもなかなかできないと思います。

 人称も興味深かったです。たとえば「お城が見えてきました」は、「I can see the castle」と、主語が「I」にされます。小説を書いていると視点の揺らぎに悩まされるのですが、英語にした場合の主語を考えるのは整理につながるかなと思いました。そんなに単純なものではない気もしますが。ちなみに先の例は「お城が現れました」に変更して、主語の誤訳を回避しています。


 ほかには「おじいさん」、「おばあさん」の扱いに迷いました。前者は、「old man」か「grandfather」に訳されるのですが、和文からは制御不能です。「老人」と書けば「old man」と一律に訳されるのですが、「むかしむかし、あるところに老人と老婆がいました」という文章では、読者にブラバされるでしょう。この表記は妥協しました。

 類似の事例として、村長にお医者さんのことを「先生」と呼びかけさせられないのもつらかったです。「teacher」と訳されてしまうからです。


 こうしてみるとそもそも国際日本語を試すには、地の文も話し言葉寄りになる童話は、題材として向いていないですね……。



【使用する語句や漢字に迷いました】

 童話なので、使用する言葉の難しさにも配慮すべきでしょう。難しい熟語のほうが英訳の精度が上がる傾向が見られて、ここでも苦労させられました。


 使用する漢字は、固有名詞や「鬼」、「仙人」などは例外にして、小学校で習うものに限定しています。これによりすべて仮名表記になる熟語は、別のやさしい語に置き換えるよう検討しました。そして小学四年以上で習う漢字や読みには、ふりがなを付けています。これらは、国産ワープロの校正機能により、比較的容易に実施できます。

 ――と、そういう方針にしたのはいいのですが、漢字は閉じたほうが、英訳の精度が上がります。添削、(すい)(こう)を進めて漢字を開くにつれ、機械翻訳はまともな英文に変換できなくなっていきました。

 漢字ではありませんが、「サル」、「キジ」、「カメ」のカタカナ表記もやむを得なくおこなったものです。ひらがなにすると、英訳に支障が出ます。


 結局、本作はさまざまな妥協を強いられ、国際日本語を徹底できませんでした。作中の文章をそのまま機械翻訳にかけても、まともな英文に変換されないケースは多々あります。漢字を閉じれば、大半はまともになるはずですが。

 漢字を多用しがたいという点でも、童話は国際日本語に向いていませんでした。



【おわりに】

 このように本作は、本質的な内容とは無関係なところに、多大な労力を割いた作品です。童話として発表するのであれば、国際日本語は切り捨てるべきでしょう。ですがサンクコスト効果が働くのと、国際日本語という言葉を世に出したいのとで、やめられませんでした。

 昔話を翻案すること自体は、予想以上に楽しい創作活動でした。これは物語の骨格、方向性について迷いが出ることがなく、精神的に楽をできるからでしょうか。物語作りの練習に適しているのかもしれません。

 異端な執筆過程を経ましたが、作品自体は、いい感じに三大昔話を統合できたと思っています。


 以上です。

 また機会がありましたら、お付き合いいただけると幸いです!


 ここまでお読みいただき、ありがとうございました。

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