ももたろう対きんたろう
お父さん、お母さんへ。
このものがたりは、国際日本語で書かれています。
お子さまを、世界で通用する人物に育てるのにお役立てください。
むかしむかし、村のはずれにおじいさんとおばあさんが住んでいました。
ある日、おじいさんは山に薬草を採りに、おばあさんは川に洗たくに行きました。
おばあさんが川で服を洗っていると、おんぼろな小ぶねが川を流れてきました。
おばあさんはおどろきました。
どうしてかというと、小ぶねは桃の形をしていて、赤ちゃんを乗せていたからです。しかも小ぶねは、しずみかけていました。
おばあさんは急いで川に入り、赤ちゃんを助けました。赤ちゃんは手や足を動かして、泣きます。
おばあさんは、その赤ちゃんの力の強さにおどろきました。
おばあさんがその赤ちゃんを家に連れて帰ると、おじいさんも家に帰ってきました。
「元気な赤ちゃんだ。山の神からのおくりものだろう」
おじいさんはその赤ちゃんを見て、喜びました。
「この赤ちゃんの名前はどうしましょう?」
「その赤ちゃんは桃の形をした船に乗っていたのだから、その赤ちゃんの名前は『桃太郎』にしよう」
「そうしましょう」
こうして桃太郎は、おじいさんとおばあさんに大切に育てられました。
桃太郎はすくすく育ちました。桃太郎はまだまだ子どもなのに、村で一番強くなりました。
これには秘密がありました。おじいさんは山から取ってきた薬草にじゅ文をとなえて、桃太郎の食事に混ぜていたのです。この食事を食べた桃太郎は、成長が早く、けがもすぐに治りました。おじいさんは村一番のお医者さんだったのです。
三人は平和に暮らしていましたが、村はそうではありませんでした。
たまに竜巻が来ては家をこわし、たまに鬼が現れては村人をさらっていたからです。
ある日、桃太郎はおじいさんとおばあさんに言いました。
「ぼく、鬼を追いはらおうと思います」
おじいさんとおばあさんはおどろきました。でも桃太郎は強いので、ふたりは賛成して言いました。
「村人を助けてやってくれ」
「旅の準備をしましょう」
おじいさんはとっておきの粉に、じゅ文をとなえました。おばあさんがそれをきび(お米の親せき)とこねて、団子を作りました。きび団子のできあがりです。
おじいさんとおばあさんは桃太郎に、おさむらい用の刀と服、そしてきび団子をあげました。
「もし困ったことがあったら、そのきび団子を食べなさい」
「ありがとうございます。いってきます!」
桃太郎は出発しました。
「気をつけて」
そう言っておじいさんはじゅ文をとなえ、昼のお空に花火を打ち上げました。
桃太郎が森の中を歩いていると、サルが近づいてきました。
サルは桃太郎の周りを飛びはねますが、桃太郎はサルが何をしたいのか分かりません。
困った桃太郎は「そうだ!」と言って、きび団子を食べました。
すると桃太郎は、サルの言葉が分かるようになりました。
「桃太郎。あなたのこしにぶら下がっているきび団子をください」
「わたしは鬼を追いはらいに行きます。手伝ってくれるなら、あげましょう」
「はい、わたしは家来になります。鬼を追いはらうのを手伝います」
こうして桃太郎とサルは、仲間になりました。
桃太郎とサルが野原を歩いていると、犬が近づいてきました。
犬は桃太郎とサルの周りを走りまわりますが、桃太郎は犬が何をしたいのか分かりません。
もう一度、桃太郎はこしにぶら下げているきび団子を食べます。すると桃太郎は、犬もきび団子をほしがっているのが分かりました。
桃太郎は、サルと話したときと同じように犬に話しかけ、犬と仲間になりました。
桃太郎とサルと犬が田んぼを歩いていると、キジが近づいてきました。キジは桃太郎とサルと犬の周りを飛びまわります。
もう桃太郎は、キジが何をしたいのか分かりました。桃太郎はきび団子を食べて、キジと話しました。キジは桃太郎と仲間になりました。
桃太郎とサルと犬とキジは、山に来ました。ここは、おじいさんが薬草を採りに来る山です。
「山の頂上に熊がいるよ」
空を飛ぶキジが、言いました。
「あの熊、強そうだ。あの熊には、鬼を追いはらう仲間になってほしい」
桃太郎は熊のところまで走り、きび団子を食べてお話しました。
「このきび団子をあげるので、仲間になってください。みんなで鬼を追いはらいましょう」
「それは、いりません」
「お願いします」
熊に断られても、桃太郎はあきらめません。
するとそこに、男の子が飛びこんできました。
男の子はオノをふりまわします!
「あぶない!」
「お母さんをいじめるな!」
「いじめてない!」
「うそをつくな!」
桃太郎も刀をぬきます。ふたりの戦いが、始まりました。
桃太郎はおどろきました。桃太郎と戦える人は、もう村にはいなかったからです。
男の子もおどろきました。その男の子と戦える動物は、もう山にはいなかったからです。
その男の子の力は、桃太郎より強いです。
桃太郎の技は、その男の子より上手です。
そしてふたりとも、けがをしてもすぐに治りました。
ふたりは戦いを楽しんでいました。
「もう、やめなさい!」
熊は大きな声を出しました。
「分かったよ、お母さん」
男の子はそう言って、オノをかたにかつぎました。桃太郎も刀をしまいます。
「きび団子はいらないと言ったのです。鬼を追いはらうのは手伝います」
熊は桃太郎に言いました。
「あなた、もっと早くに言えばいいのに」
サルは、熊に文句を言いました。
「そのとおり」
「そうだ、そうだ」
犬とキジも、文句を言いました。
「人間の言葉は難しいので、うまく答えられませんでした」
熊は言いわけをしました。
「仲間が増えた! やった!」
桃太郎は、熊の答えが分かりづらかったことを気にしません。桃太郎はすなおに喜びました。
「なんの話をしてるの?」
男の子はたずねました。桃太郎は男の子に、鬼を追い出す話をします。
「おもしろそうだ。ぼくも手伝う」
「ありがとう。ぼくの名前は桃太郎!」
「ぼくの名前は金太郎!」
こうして桃太郎と金太郎は、仲間になりました。
桃太郎と金太郎はお話をしながら、村へ向かいます。
「どうしてあの熊は、金太郎のお母さんなの?」
「ぼくはあの熊に育てられたんだ」
「そっかあ」
そうしてみんなが村につくと、海のある方向から悲鳴が聞こえてきました。
「助けて!」と女の人の声。
「鬼たちがきた!」と男の人の声。
桃太郎と金太郎は走り出します。
「お母さん!」
金太郎が熊を呼びます。
「ぼくは先に行く!」
金太郎は熊にまたがって、桃太郎たちを置いていきました。
桃太郎とその仲間たちが砂はまに着くと、金太郎と熊は鬼と戦っていました。
そこには、たくさんの鬼がいました。
鬼の一ぴきは、女の人をかかえて海に入っていきます。
「桃太郎、急いで! ぼくとお母さんだけでは、村人を守れない」
「すぐ行く! キジさん、鬼をじゃまして!」
「分かった!」
キジは空を飛んで、海に入った鬼の目をつっつきます。
鬼はたまらず女の人を海に投げました。
桃太郎は女の人を助けます。
砂はまでは、サルと犬が金太郎と熊に協力して、鬼と戦います。
やがてすべての鬼は、金太郎たちに負けました。
「ぼくたちの勝ちだ。降参しろ!」
金太郎が鬼に言います。
すると海から大きな頭が出てきました。竜のような頭です。
「鬼を許してあげてください。そうすればわたしがあなたたちを、鬼の住む島、『鬼ヶ島』へ連れていきましょう」
「桃太郎、行こう!」
「もちろんだ、金太郎。これまでさらわれた村人たちを助けよう!」
金太郎と桃太郎は、鬼を許すことにしました。
「気をつけてね!」
「がんばれ!」
砂はまには、たくさんの村人たちが集まっていました。
「いってきます!」
桃太郎は元気よくあいさつしました。
桃太郎と金太郎とサルと犬とキジと熊は、海をわたっています。鬼たちもいます。そしてみんな、カメのこうらにすわっていました。
あの竜のような頭は、竜のものではありませんでした。その正体は、とても年をとった大きなカメでした。
「島が見えてきました」
カメはそう言いました。その島の両はしにはするどい山があって、まるで鬼の頭のように見えます。
桃太郎たちを乗せたカメは、島の砂はまに着きました。
「うおー!」
鬼たちはさけび、島の中に次々と走っていきました。
「にげるな!」
金太郎は鬼たちを止めようとしました。
「鬼たちは正しいことが分からないのです。鬼を許してあげてください」
カメは悲しそうに言いました。
桃太郎と金太郎たちもカメを降りて、島の中を進みます。しばらくすると、石でつくられた大きなお城が現れました。
「あれは『竜宮城』です。鬼たちとカメたちと、人間が住んでいます」
カメは桃太郎たちに説明しました。
桃太郎たちが竜宮城に近づくと、鬼たちが現れました。その数は村に来た鬼よりたくさんいます。
「鬼たちはすぐ前のことを忘れてしまうのです。どうか傷つけないでください」
カメはいっしょうけんめいにお願いしました。
「分かりました。みんな、鬼を気絶させよう」
桃太郎は仲間のみんなに言いました。
「難しいけど、がんばろう」
金太郎は答えました。
「うおー!」
鬼たちが、桃太郎や金太郎におそってきます。
「みんな、協力し合って戦おう!」
「とてもいい考えだ!」
仲間のみんなが、桃太郎の言うことをききます。
「いくぞ!」
金太郎は、熊とともに鬼と戦います。
鬼の力は、金太郎よりも強いです。でも、鬼はでたらめに棒をふります。攻げきを簡単によけて、金太郎は熊と協力して鬼をたおします。
「はあー!」
桃太郎は、サルと犬とキジとともに鬼と戦います。
サルは、鬼の背中をひっかきます。犬は、鬼の足にかみつきます。キジは、鬼の目をつっつきます。そして桃太郎は、まるでおどっているように鬼を攻げきしました。
桃太郎と金太郎は次々と鬼をたおしました。でも鬼はたくさんいました。みんな、つかれてきました。
「このままでは、ぼくたちは負けてしまう」
桃太郎は言いました。
「ぼくはまだ戦えるよ!」
金太郎は元気なふりをします。
そのときです。
「鬼たち、戦いをやめなさい!」
大きな声が、戦いの場にひびきました。
竜宮城から、たくさんの人間が出てきました。その中には、よろよろの老人がいました。その老人はとても長生きをしているようで、まるで仙人のようでした。
「おれ、村長の言うこと、聞く」
鬼たちは戦いをやめて、竜宮城にもどりました。
「鬼たちが迷わくをかけました。どうぞみなさん、竜宮城に入ってください」
仙人は小さな声で言いました。先ほどの大きな声を出した人と、同じ人とは思えません。
城に入ると、仙人はすぐに布団にねました。仙人はとても弱っていたのです。それでも、仙人は桃太郎たちに話をしました。
鬼たちは、この仙人を助けるために村の人々をさらっていました。なので、すべての村人は無事で、みんな竜宮城に住んでいました。
鬼は仙人の命令だけはききますが、すぐに忘れてしまいます。それで仙人がくり返し鬼を止めても、鬼は村人をさらい続けました。
その話を聞いた桃太郎は、きび団子を出しました。
「このきび団子を食べてみてください。あなたの体は治るでしょう」
でも、きび団子を見た仙人は首を横にふりました。
「それは『竜仙丸』ですね?」
そう言って仙人は、自分のうでをかみました。うでから血が流れます。
「あっ!」
桃太郎はびっくりしました。しかし仙人の傷はすぐに治ります。桃太郎や金太郎に似ていました。
「そのきび団子を作った人は元気ですか? できれば、会いたいです」
仙人は桃太郎に言いました。
「はい。喜んでお連れしましょう」
桃太郎は元気よく答えました。
桃太郎たちは、またカメに乗って海をわたります。仙人のほかに、さらわれた村人や鬼たちも、島を出ました。鬼ヶ島には大きなカメがたくさんいて、カメたちはみんなを運ぶことができました。
帰りは風が強くなり、波もあれました。
でもみんな無事に、村に着きました。
砂はまでは、たくさんの村人たちが待っていました。
「桃太郎たちが帰ってきた!」
「鬼もいるよ!」
「あの仙人のような人、どこかで見たことないか?」
村人たちは桃太郎たちを見つけて、大さわぎしました。その中には、おじいさんとおばあさんもいました。桃太郎が鬼ヶ島に向かったことを、村人がおじいさんとおばあさんに教えたからです。
桃太郎は、おじいさんのところに走りました。金太郎も走りました。
「ただいま、帰ってきました!」
桃太郎は言いました。
「勝手に出かけて、ごめんなさい!」
金太郎は言いました。
桃太郎と金太郎は、同じ人にあいさつをしました。ふたりはおたがいに不思議な顔をします。
「あとで話をしよう」
おじいさんは桃太郎と金太郎の頭をなでて、仙人に近づきました。
「お元気でしたか、村長!」
おじいさんはとても喜んで言いました。
「きび団子を作ったのは、やっぱりあなたでしたか」
よろよろと立って、仙人は言いました。ふたりは知りあいでした。
そんな喜びの再会は、すぐに終わります。
「うー」
鬼たちが、うなりはじめました。
「波があれてきた」
村人たちは、心配そうな顔をします。
仙人は、おじいさんの顔を見ました。
おじいさんは、うなずきます。
「桃太郎、金太郎。海から竜巻が来ています。これまで村は、この竜巻に苦しんできました。ふたりで村を竜巻から守りなさい」
おじいさんは、桃太郎と金太郎に言いました。
「それは簡単だ!」
金太郎は言いました。
「ぼくたちに任せて!」
桃太郎も言いました。
桃太郎と金太郎は、砂はまに来ました。みんなはふたりのずっと後ろから、見守っています。
海から大きな波が近づいています。その後ろから、竜巻が近づいています。
「波は、ぼくが消すよ!」
金太郎が前に進みます。
「任せたよ!」
桃太郎は言いました。
「水平切り!!」
金太郎は全力で、オノを横にふりました。
横長の空気のかたまりが、波に向かって飛んでいきます。
波はそれにぶつかって消えました。
「はあ、はあ。あとは桃太郎に任せた」
つかれた金太郎は砂はまに手をついて、桃太郎に言いました。
「分かった。休んでて!」
桃太郎は言いました。
竜巻は、また大きな波を作ろうとしています。
「垂直切り!!」
桃太郎は全力で、刀を縦にふりました。
縦長の空気のかたまりが、竜巻に向かって飛んでいきます。
竜巻はそれにぶつかって消えました。
「はあ、はあ。やったぞ!」
桃太郎はつかれて砂はまに手をつきながらも、喜びました。
「大波が消えたぞ!」
「これからは竜巻が来ても、村は平気だ!」
村人たちはそれを見て喜びました。
「うおー!」
鬼たちもそれを見て喜んでいました。
「あなたのおかげで、計画は成功しました」
「計画を立てたのは、村長です」
仙人とおじいさんは、ともになみだを流しました。
まもなくして、仙人は死にました。おじいさんの薬でも治せないほど、仙人は弱っていました。仙人はこの村のむかしの村長でした。
村人全員が仙人の死を悲しみました。鬼たちも悲しみました。カメたちも悲しみました。
桃太郎と金太郎はその後も協力して、村を竜巻から守りました。
ふたりは鬼たちと友達になり、山でともに住みました。鬼たちの悪さは、サルと犬とキジと熊が見張りました。
鬼たちは力が強く、石を切ったり運んだりできます。鬼たちは石の家やてい防をつくって、村の人々と仲直りしました。
こうして桃太郎と金太郎、そして仙人の話は伝説になりました。
どのお話も内容を変えながら、たくさんの人にいつまでも語りつがれました。
つづく。
「国際日本語」については、全話のあとの後書きで説明いたします。
無視していただいて、まったく問題ないです。