第1章「新学期④」
平静を装って返事してみたが声が少し上ずってしまった。
「はいっ、どうしましたか?」
くいくいっと教師は手招きをして、自分を呼び寄せている。
「ちょっといいか」
拒否権があるわけでもないので、渋々ついていくことにする。
生徒指導室に連れて行かれるのだろうと、思いながら他愛もない話をしてきた。
「最近は、どう過ごしてるんだ?」
「家で、ぼーっとしている事が多いですね」
「そうか、体調とかも大丈夫か?」
「はい、そこそこには元気と思います。」
体調はストレスであまり良くはなかったが、当たり障りのない回答にした。
生徒指導室につき、席に座るように誘導される。
席に座るとさっそく本題に入り、顧問は単刀直入に話題を切り出した。
「佐久良お前、部活に復帰する気はないのか?」
ずっと避けて生活をしていたが、遂にこの時が来たようだ。
心苦しいが、どの様に答えようかぐるぐると頭の中で考えが巡る。
おみくじの結果が頭を駆け巡り、現状の結論を出した。
「今戻ったとしても、自分がゴルフをできる気がしません。」
ゴルフは個人戦だが、先生や先輩には色々お世話になっていることもあり、むげにはしたくない。
「本当にいいのか?俺は、お前ならプロだって夢じゃ無いと思っている」
先生は真っ直ぐに自分の事を見ている。
「ありがとうございます。でも、こんな所でくじける人間がプロなんか目指せないと思います」
側から見れば、駄々っ子がごねているように見えるかも知れない。
おみくじを引いて神頼みしている時点で自分は、ゴルフへの情熱が冷めてしまったのだと悟った。
「こんな中途半端な気持ちでは、同期や先輩に迷惑をかけてしまいます。ゴルフ部は退部させて下さい」
言ってしまった。
この先の人生で後悔してもしきれない決断かも知れないが、今の自分にとっては最良の選択と思った。
「そうか、お前がそこまで言うなら退部しても構わんが、マネージャーなる選択肢もある」
先生は少しほっとした顔を浮かべた。
「期限は新入部員の入部推奨期間と同じで、ゴールデンウィーク明けの週までだ。ご両親とゆっくり相談しなさい」
先生がゆっくりと立ち上がり、伸びをした。
自分も立ち上がり椅子を直した。
「退部届けなんか、良いから良い返事を期待してるぞ」
良い先生なんだなと改めて実感した。
そうこうしている間に、部活開始の時間になったようだった。
「ありがとうございます、家族と相談してみます」
「じゃあ、気をつけて帰るんだぞ」
自分が一礼すると、先生は職員室の方へ消えていった。
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