第1章「魔法使いの少女②」
よくわからない感情でぐちゃぐちゃになり、人に見せるような顔ではないと自覚すらあった。
「何って??とりあえず、落ち着こうな?ひめちゃん」
甚太郎も自分が何を言っているか、理解できていない様子だった。2、3度深呼吸をした後、ゆっくりと口を開いた。
「人に、当たっちゃった」
「え?」
甚太郎は事態を理解し始めたようだ。
「まじか! 当たった方は大丈夫なのか?」
至極真っ当なことを甚太郎は言っている。
「動かなくって、置いてきちゃった、だから甚太郎を呼びに来たの」
「まじか」
開いた口が塞がらない。
「とりあえず、そこまで案内できるか?」
最悪の事態も考えないといけないが、とりあえずは救助しなければいけない。
甚太郎も寝巻きのまま、外に出て日芽香についていく。
「ここ……」そこには確かに人のような物が倒れている。
「大丈夫か!」
甚太郎が近寄り、人であることを確認した後、倒れた人の首元に人差し指と中指をグイッと押し当てた。
救命術に心得はないと思うが、脈を測っているようだ。
「高校生か?良かった、生きているよ。とりあえず家に連れて行こう。ひめちゃん、そこら辺に散乱した彼の荷物を拾って持ってくれるか?」
生きてることがわかって安堵したが、まだわからない。
「良かった……うん、わかった。先に家に連れて行ってて。」
甚太郎が、少年をお姫様抱っこして家に向かって歩いて行った。
「私も行かなきゃ」
辺りに散らばった少年のものと思われるバックと財布を回収して家に戻る。
気を失っている少年に語りかけた。
「少年も災難だったな。まさか魔法使いに遭遇してしまうなんて」
「かあさーん!ちょっと!」
日芽香の母親である冬子がやってきた。
「なにー?ちょっと!その子どうしたのよ!」
「いろいろあったんだよ、とりあえず布団敷いてくれないか」
家に着き少年を慎重に布団へ下ろしたところで日芽香も帰ってきた。
「甚太郎、ごめんなさい」
布団に目線を落とすと、横たわっている少年を眺めながら近づいて行き、膝から崩れ落ちるようにして日芽香は少年の枕元へ座った。
「俺に謝っても仕方ないだろ、まずは目を覚ますまで安静にしておこう」
日芽香の目元には涙が溜まるっていき、ずびっと鼻をすすった後はそのまま少年に目を向けていた。
「ひめちゃん、ちょっと電話してくるから、その子をしっかり見ているんだよ?」
俯いてはいたが、少しだけ頷いて消え入りそうな声で「うん……」といった。
太一は、船外活動をする宇宙飛行士の浮遊感と共に、目を開けても闇に包まれたような中を彷徨っていた。
「ここはなんだ?なんで僕はこんな所にいるんだろうか」
考えてみても、何も思い出せない。
「た……くん……やく……ね?」
微かにどこからか声が聞こえる。懐かしい男の人の声、そうか、此処は夢なのか。部屋が炎に包まれる中、僕を助けてくれたた人の声だ。
「たいちくん、どんな事があっても……ね?」
腕に僕を抱え、外へ向かって歩いていくが炎が自分たちを避けているように炎が上がっていっている。そして、何事もなかったかのように玄関に降ろされたと思ったら、誰もいなくなっていた。後から聞いたが小さなころ、母が魔法使いに助けてもらったのよ。と教えて貰った。
火事で助けてくれた記憶がどんどんと鮮明になっていくに連れ、声がはっきりと聞こえて来るが、結局何を言っていたか分からなかった。玄関に佇んでいた僕を見つけたかと思ったら駆けてきて母親は僕を強く抱擁した。途端に、過去の記憶に包まれた世界を切り裂く様に光が差してきてバッ!と置き上がったが、体の節々が痛い。
「ヒィッ!!」
ビックリしたのか、座った状態で背中の後ろに置いた物でも見るかのように女の子が悲痛な表情をしつつ仰け反った。
「生きてた……」