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九十九は男の絶滅を祈る  作者: 英知 圭
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2回目のデート。〜スッキリ整理整頓〜



九十九の自分の評価はどこまでも低い。


根暗で、陰湿で、ブスで。一人で外出もできない。他人と話すことも、関わることもできない。何ひとつ一人でできることがない。

そのくせ、全ての人を憎んで勝手に被害者ぶって人と距離を置いて、自分におきた嫌なことは全部誰かのせいにしている。全てにおいて最低な女だ。

ブスな上に性格もブスで救いようのない女。

そんな風にずっと思っていたし、いまだにそう思っている。


(だって私は汚れてるから。)


中学時代に散々言われ続けた。「ブスになった」「本当に性格悪い」「どん底に堕ちた」「男に襲われたんだって可哀想。」

あの事件が九十九の全てを真っ黒に汚したんだ。

だからこんな風に周りが180度態度を変えてきたんだと思った。


あの事件のことを同情なんてされたくない。そう思う一方で九十九を一番かわいそうだと思っているのは自分だった。

自分の好きなところなんてひとつもない。


でも、

山下と関わるようになってから少しだけ自分を見直せるところが見つかった。

少しずつ自分を褒めることができるようになってきた。


そして彼と付き合うようになってからは自分を褒めるより先に山下から何倍も何十倍も褒められるようになった。

それに彼から「可愛い」や「好き」を何度聞いただろう。たぶん人生、生まれてから死ぬまでの間に聞く回数を優に越してるのではないだろうか。


学校での嫌がらせでもそうだ。

彼が怒るたびに困りながらもとても大切にされていると実感した。


彼からの言葉や行動が九十九に九十九の価値を教えてくれた。


九十九の価値。

そんなもの少しもないと思っていた。


彼と付き合いはじめてからも、こんな彼女で申し訳ないな、と思う気持ちが常にあった。

自分は真っ黒な過去があるのにな、と。


(でも、山下くんは汚れないって。私は汚れないって言ってくれた。)


じゃー何に対して卑屈になってるんだろう、そう思った。

だってこんなに彼から大切にされてる。

だってこんなに彼に守られてる。

だってこんなに彼にまっすぐ想いを向けられてる。


(私のどこが可哀想なんだろう。こんなに幸せなのに。)



さっきまで恐怖で震えていた体が安心と幸せでポカリと暖かくなってくる。


だって、どんなに花宮から「ブスだ」と罵倒されても山下から「可愛い」って言ってもらえるなら別にいい。

どんなにカズナから「性格悪い」と言われようと山下から「強い九十九も好き」と言ってもらえるならそれでいい。


そう思えたら2人が怖くなくなった。

中学時代の鬱々とした日々が自分のなかでスッキリと整理整頓されていくのがわかる。


(本当に、本当に山下くんが好き。)


今はただただ目の前の彼の想いばかりが溢れた。






「は!こいつ頭いかれてんの?意味わかんねーんだけど。女神って?九十九が?あはは!まじウケる!」


唖然としていた花宮とカズナが我に返り、次は山下を馬鹿にするように言い返した。


「うん。わからないならわからないでいいよ。俺だけがわかってたらいいし。……でも。」


ニコリと笑った山下の声が低くなっていく。


「九十九のことを悪く言うのだけは許せない。お前ら程度が俺の女神を馬鹿にしてんじゃねーよ。」

「は、はぁあぁ?お前ら程度って何よ!あんたはどの立場でそれ言ってんの!?」

「え?九十九の彼氏の立場で言ってんだけど。それを言うならお前らはどの立場で九十九にひどいことを言ってんの?こういっちゃー悪いけどお前が九十九に優ってるところが見当たらないんだけど。」

「は?はぁあぁぁあ!!??」

「だって九十九の方が全然可愛いし、頭もいいし、性格も猫みたいで超可愛いし、優しいし、かと思ったら嫌がらせを受けて立とうとするほど強いし、」


次々と出てくる山下の惚気にさっき我に返ったはずの花宮とカズナが再度、口があいたまま固まった。

それを見た九十九はつい笑ってしまう。


「すごい素直だし、あまりみんなの前で喋らないぶん目で訴えるときがすんごく可愛いし、目がキラキラしててすごくキレイだし、逆に2人のときはよく喋ってくるのがたまんないし、それに……………え、………九十九?」


山下の謎の九十九自慢があまりにも長く続くので、九十九は手を伸ばし、彼の頬にそっと触れ、こちらを向かせる。

彼の丸くなった目と目が合う。


「もういいよ。十分だから。」


いっそ、よくそれだけ言えたな。自分のいいところなんて1つでも挙げられるだろうか、と考え笑ってしまう。


「よくないよ。こいつらすごく不快だ。」

「本当にもういいの。山下くんの言葉でスッキリしたから。ありがとう。」

「そんなんじゃー俺はスッキリしない。九十九は誰にでも優し過ぎるよ。こいつらは中学のときに九十九をいじめてた子じゃないの?」

「どうだったかな。スッキリし過ぎて忘れたかも。」

「九十九。」


山下の声に少しだけ怒りが加わる。

以前のように適当な言葉でごまかそうとしていると思ったようだ。

でも本当はそうじゃない。


「あのね、……どうでもいいの。」

「………え?」

「この2人のこと、どうでもいいの。今は無性に山下くんと2人になりたいの。」

「…………………え?」


九十九の言葉が時間差で脳に届いたようだ。彼はポカンとした顔をした。


「すぐに山下くんと2人になりたいの。」

「……っ……っ!!!!」


もう一度、しっかりと彼に想いを伝えると、今度はちゃんと聞こえたようだ。一瞬で顔が赤くなった。


「だから、この時間がもったいないの。もういいから早く2人になろうよ。ダメ?」

「ダメじゃないよ!すぐに行こう!うん!2人がいいよね!俺もそれがいい!」

「ふふ、よかった。」

「っっっっっ!〜〜〜〜〜〜っ!可愛い!!」


彼の顔がいつものフヨフヨした顔に戻り、そのままガバリと抱きついてくる。

大型犬が飛びついてくる勢いで抱きしめられ、九十九は「あはは!」と笑ってしまった。


そんな九十九の姿を見た花宮とカズナはさらに驚愕の表情で固まる。


九十九のそんな顔を見るのは初めてだった。

もちろんあの事件以前は九十九が声を出して笑ってる姿をよく見た。

それは無邪気に目の前のことに対して笑う少女の顔だ。

でも今、目の前の笑顔はどうだろう。

ほんのりと頬を染めて、目の前の人が愛おしいと言わんばかりの笑顔だ。

とても幸せだと、それが見てとれる顔だ。


「………っ………っ!」


カズナはその顔を見てカッと頭に血が上った。


「凛花!あんた!それで勝ったつもりじゃないでしょうね!」


山下と手を繋ぎ店から出ようとしていた九十九はその言葉に振り返る。


そこには真っ赤な顔をしてなぜか怒っているカズナがこちらを憎らし気に睨んでいる。

たぶん以前なら、何か嫌なことを言われる、何か怖いことをされると体を固くしていただろう。

でも今の九十九は何も感じなかった。


そして、カズナの先ほどの言葉を咀嚼して頭を傾ける。


「……勝つって何に?」

「…っ!…その顔だけがいい変な男と付き合ってるからって私に勝った気でいるんでしょ!私はあんたなんかに負けないから!」

「……?……カズナは好きな人と付き合ってるんでしょ?……今、幸せなんでしょ?……それに勝ち負けなんてないよね?」

「……っ!…っ!……あんたの!あんたのそういうところが嫌いなのよ!その良い子ちゃんぶったとこが昔からイライラするの!本当に嫌い!」


そう叫ぶカズナから九十九を守るように山下が前に出る。


「うるせーよ。お前の不満を九十九に勝手にぶつけるな。」

「あんた!あの女に騙されてるのがわかんないの!?あいつのああいう、あざとい言動に気づかないの?」

「黙れって言ってんだよ。お前は人の言動をどうこう言う前に自分の言動をかえりみろよ。」

「…っ!」

「今後一切、九十九に話しかけないで。もし、次に同じような不快な発言をしてみろ、………次こそは許さないから。」


カズナは山下の顔を見て驚愕の表情をし言葉を失い一瞬で顔色を悪くした。無意識にヨロヨロと後ずさっている。


山下が九十九の方へ振り返ったときにはすでにニッコリ顔に戻っており「早く2人になろう!」と九十九を抱きしめながらグイグイと前に進むように促していった。


しかし、そんな風にニコニコしていた顔も少しずつ悲しそうな顔に変わっていった。


「……2人になれる場所がない……!」

「………………。」


まぁここは日曜日の商業施設だ。見渡せばどこにでも人はいるし、2人きりにはなれないだろう。

しかも山下が言っているのは『イチャイチャできる場所』ということだろう。

はたから見たら十分イチャイチャしているように見えていると思うが、彼は満足してないようだ。


「………九十九。こうなったら、俺のアパートに帰ろう!」

「……………プラネタリウム観に行くから。」


山下がさらに悲愴な顔つきになった。


その後「九十九が2人になりたいって言ったんじゃん!」や「プラネタリウムは次のデートにとっておこう!」や「九十九は俺よりプラネタリウムの方が大切なの?」としつこく言ってくる彼を連れて目的地にたどり着くまでにだいぶ時間を使ってしまった。





読んでいただきありがとうございます。


九十九の長所を挙げていくとこで「性格」…あまり可愛くはないな…と思ってしまい、苦肉の策で「猫みたい」と付けてしまいました。

ようは少し気ままな感じ?

自分勝手でわがままな山下に言われるってよっぽどですよね。笑

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