2回目のデート。〜彼のこと〜
今日は山下とのデートの日だ。
九十九家でのデート会議をして、前のように詳細に内容を決めた。
本当は気の身気のままなデートをしてみたい気持ちもあるが、実際は九十九の恐怖対象が多すぎることと、いざという時に両親の助けが必要なことを考えると、それができるようになるまでにはまだ時間と回数が必要だと感じた。
お昼は手作りお弁当か、お店で食べるか山下に聞くとギリギリまでひたすら悩んでいたので、デート中は外食、デート後の夕飯は家で九十九が作ったご飯を食べるのはどうかと提案すると「そんな天国的なことってありなの?」と震えながら喜んでいた。
彼女の家でその両親に囲まれながら食べる食事を『天国』と言える彼はすごい。いや、すごいを通り越して変だ。
まぁ彼が変なことは知ってはいるが…
でも、朝から夜まで山下と一緒にいれるのは九十九にとってもとても幸せだ。
準備を済ませて九十九は家で彼が来るのを待っていた。
前回はサプライズがあったので九十九が山下のアパートへ行ったが、今回は山下が迎えに来てくれる。
ピンポーン
「あ、来た!」
九十九は玄関に慌てて向かい、ドアスコープを確認してドアを開ける。
「九十九!おはよう!行ける?」
「うん。行けるよ。」
靴を履き、荷物を持ち、山下から差し出されている手を繋ぐ。
「則文さん、恵美子さん、いってきます!」
「はい、いってらっしゃい。気をつけてね。」
「山下くん。なるべく早く帰ってきなさい。」
「あはははは。いってきます!」
九十九も2人に手を振り玄関を出た。
歩きながら山下を見る。
フード付きの薄手のトレーナーと大きめの上着、細めの黒のストレートパンツをシンプルに着ている。似合い過ぎてまるでモデルのようだ。
髪はまた染めなおしていて茶色の根元から毛先は緑がかったアッシュグレーのグラデーションになっている。彼の瞳のようでとてもキレイだ。
「カッコいい。」
ポツリと呟くと山下が気づいて振り向く。
「本当に?よかった。」
「また昨日の夜に美容院に行ったの?」
「うん。またかよって面倒くさがってたけど、そこの店のモデルとして写真を載せることを条件に切ってもらった。多分少ししたら店のメニュー表に俺が載るかも。」
「あはは。それすごく見てみたいけどメンズ用のメニュー表は見れないね。」
「九十九は…………。」
そういって山下が九十九の全身を見た瞬間に固まった。
(あ、今日の格好ダメだった?)
基本、九十九の私服は恵美子の買ってきた服だ。恵美子は女の子らしい服が好きなのでスカートが多い。本当はガーリーな服を着せたいようだが、九十九があまり似合わないことに気づいたようで、それからはシンプルでキレイめな服が増えた。
山下とおうちデートでもスカート姿ばかりだったので今日はズボンにしようと、恵美子が買ってきてくれた中の数少ないズボンを選び、ほぼ履いたことがないハイウエストのスキニーパンツに挑戦してみた。上着は緩やかなシャツを着てロングカーディガンを羽織る。靴はちょっとだけ背伸びをして少し高めのヒールだ。
服を決めて髪型を決めるときに「帽子がいるわ!」と恵美子が突然言い出し、次の日にはキャスケット帽子を買ってきてくれた。右側に流すように三つ編みをすると「完璧!すごく可愛い!」と興奮気味に言っていた。
そんな風に恵美子の協力のもとに決まったコーディネートだったが、誰でも服装の好き嫌いがあるのは事実だ。
「や、山下くん?」
固まった山下に声をかけると、ハッと我に返った彼は一瞬にして真っ赤になった。
「え、あ、あの、九十九、ズボンとかめずらしいね!すごく、あの、すごく似合ってる。」
「本当?ズボン、嫌いじゃない?」
「嫌いじゃないよ!すごく好き!いや、スカートも好きだけど、その格好もすごく好き、で、す、」
真っ赤な顔でしどろもどろしだした山下に少しだけポカンとしてしまう。
(そういえば、前に好みの話をしてて、可愛い子かキレイな子のどちらが好きかって聞いた時、キレイな子って答えていたなぁ…なるほど。こういう大人っぽい格好が好きなのか。)
九十九は少しだけ嬉しくなり、ふふっと笑う。
彼の好みはよく知らない。
どれが好き?と好みを聞いてみても「九十九が似合うからコレ。」と基準が九十九だ。
そうではない。山下の好みが知りたいんだ。
彼に少しでも「可愛いなぁ」って思ってもらいたいし、少しでも彼に近づきたくて聞いているのに、最終的に「九十九が好きなものが好き。」と言われた時に色々あきらめてしまっていた。
でも知れた。1つだけ、彼の好みが。
そう思うと頬が緩む。
「九十九?」
「ふふ、なんでもないよ。」
そういって繋いだ手を少し振りながら駅に向かった。
「………九十九、大丈夫?」
「…………………うん。」
先ほどの元気はどこで迷子になったのか、駅ではやはり体が勝手に震えだし、山下にしがみつく。
「九十九、お話しよう。今日、欲しいものは?」
「……お揃いのコップ。」
「あは。そうだった。なかなか買いに行けなかったから。じゃー帰りはうちに寄って買ったお揃いのコップでお茶飲もう。」
以前、山下の誕生日にあげたコップ。揃えて山下のアパートに置いておく予定だったが、なかなか買いに行くことが出来ずまだ揃ってなかった。
「あとは?」
「…お父さんとお母さんのお土産。お菓子と2人お揃いのもの。」
「九十九はいっつも則文さんと恵美子さんのものばっかな。俺らのお揃いも考えて。」
「ふふ、コップ以外?」
「そうだよ。学校でも身につけれるものがいいな。」
そんな会話をしていると次第に震えがなくなってくる。会話の方が楽しくなり少しずつ笑えだした。
今日は家族で休日によく行く商業施設で買い物をして、近くにある可愛いカフェでお昼ご飯を食べて、午後からプラネタリウムを見る予定だ。
日曜なので人は少し多めだが、肩がぶつかるほどの混雑ではない。山下がしっかり手を握っていてくれているので結構、平気だ。
色んな店に入っては「九十九、これは?俺の部屋に置いたら使う?」と山下が聞いてくる。
山下は極力、部屋にものを置きたがらないが、なぜか九十九のものは増やそうとする。
「だって俺の部屋に来て欲しい。」
「う〜ん。でも山下くん、基本的にいつもバイトだもん。休みの日はついつい直接うちに帰っちゃうし。」
「じゃー次の平日の休みの日は俺のアパートです過ごそう。日が沈む前に九十九の家に送るから。もっとイチャイチャしたい。」
(うちでも結構イチャイチャしてると思ったけど、あれでも一応ひかえてたんだね。)
そんな会話をしながらお店を見て回る。
やはり山下は目立つようで周りからチラチラと見られているが、本人は慣れているようで気にした素振りをまったく見せない。
そんな彼に店内を見て回る間は後ろから腰に手を回されて半分抱き合ってるような状態だ。
(あ、すみません。目ざといですよね。わかります。しかもこの程度の彼女ですみません。)
店内でイチャイチャするな、と言いたくなる気持ちもわかるのでとてもいたたまれないが、これが彼の通常運転なので仕方がないと諦めている。
「ねぇ九十九、これはどう?」
「…………。」
そんな風に周りをいっさい気にしない人になりたいと少しだけ思ったのだった。
お昼を食べに来たカフェは古くからあるレトロで可愛い店だ。食事内容も充実しているし、スイーツも沢山ある。
こういう店には両親とはあまり来ないのでとても新鮮で嬉しい。
「わ、わ、パンケーキがフワフワで美味しそう。どうしようかなぁ。」
「九十九はスイーツがご飯がわりになる?」
「うん。前にお母さんが働いてたときはドーナツとかを夕食にしてたよ。……。」
そう自分で言った瞬間、昔のことを思い出してしまい胸がズキリといたんだ。
「俺は甘いのじゃーご飯の代わりにならないなぁ。」
「山下くんはいっぱい食べれるもんね。あんなに食べてその上スイーツもペロリって食べちゃうからすごいよ。」
「オサムさんからよく燃費わりーな!って言われるんだけどね。いっぱいまかないくれるけど。」
「ふふ、オサムさん優しいから。」
「違うよ。九十九にだけ優しいの。」
生クリームたっぷりのいちごパンケーキを頼んだ九十九とパスタと甘さ控えめなパンケーキを頼んだ山下は、それらを食べながらもいっぱい話をした。
時々、山下からパスタを口に押し込まれる。
「ほら、九十九。パスタも食べて。あーん。」
「山下くん!甘いの食べてるのに!」
「甘いの食べたら、次は辛いものでしょ?ほら、きのこも食べて。」
「もう!お兄ちゃん!やめて!」
「お兄ちゃんじゃないし!」
2人でキャーキャー騒ぎながらお昼を済ませる。
すごく楽しい。
「九十九、ちょっとトイレ行ってきていい?すぐ戻る。」
「うん。大丈夫。」
そう言って山下が席を立っていき、九十九は残った紅茶を飲んでいた。
(幸せだぁ…)
先ほどのことを思い出しつい頬が緩む。
デートの時は山下が少しだけ大人っぽい。逆に九十九がテンションが上がり子どもっぽくなるので、そのせいかもしれない。
全身をゆだねても彼は笑いながら受け止めてくれる。そんな信頼があるから子どもっぽくはしゃげるのだ。
(普段の山下くんも可愛くて好きだけど、デートの時もカッコよくて好きだなぁ。ドキドキする。)
先ほど騒ぎながら撮った写メを見返してニマニマしていた。
「……あれ。………凛花?」
ふいに声をかえられ九十九は顔を上げる。
そこにいる人を見て体を固くした。
読んでいただきありがとうございます。
イチャイチャ回。♪(´ε` )




