熱が下がりません。
薬を飲んだ九十九はベッドに横になり目を閉じた。
先ほどの続きを見るように山下との罰ゲームの頃の夢を見る。
何度もケンカをしては謝ってくる山下の様子を「この時の私の反応はヒドイなぁ」と客観視しながら見ていた。
コンコン
部屋をノックする音に意識が浮上する。
「りんちゃん?具合どう?お昼ご飯作ったんだけど食べない?」
「……お母さん…」
「部屋に入ってもいい?」
「うん。」
恵美子や則文は九十九の部屋に無断で入ることはしない。以前は洗濯物などを部屋のクローゼットに入れたりする為に入ることがあったが、それも今では九十九に直接わたすか、九十九が部屋にいる時にわたすかのどちらかだ。
2年前に部屋にこもったこと。
病院から抜け出してでも部屋に戻って来たこと。
そんなことが両親にとって印象深くあるのだろう。この部屋は九十九の最後の砦、シェルターのような役割をしていて、九十九以外は入ってはいけないと思っているようだった。
「37.6℃……薬が効いたのかしら、だいぶ下がったわね。」
「うん。よかったぁ。」
「ダイニングに降りれる?お昼食べれる?」
「うん。食べる。」
ダイニングには雑炊が用意されていた。
クツクツと熱さが伝わる音に食欲が湧いてくる。
恵美子から雑炊を控えめによそわれ、九十九はスプーンでそれを食べた。
ジワリと体に染み込んでくるような優しい味にパクパクと食べ進めた。
「はぁ…」
食べ終わり、恵美子からホットミルクを渡され、九十九はボンヤリとしているとケータイからピコンとメールの着信音が聞こえて来た。
『九十九、起きてる?大丈夫?』
山下からのメールだ。時計を確認すると学校の昼休みの時間になっていた。
九十九はすぐに返事を打った。
『うん。さっき起きて昼ご飯食べたよ。熱も37.6℃に下がったよ。』
『だいぶ下がったね。よかった!ねぇ九十九。電話してもいい?』
「え!」
驚くと、その声に反応した恵美子が「どうしたの?」とやってきた。
「山下くんから。電話してもいい?って。」
「あら。だいぶ心配してたもんね。りんちゃんが無理しないならいいけど。」
「うん。大丈夫。」
「あまり長くはダメよ?」
「うん。」
恵美子の言葉に頬が緩むのがわかる。
九十九は自分から山下に電話をかけてみると、1コール鳴り止まない間に電話をとられる。
『九十九!俺からかけたのに!大丈夫なの?』
「ふふ、うん。大丈夫だよ。山下くんはお昼ちゃんと食べてる?」
『食べてるよ!でもやっぱり九十九と一緒に食べたい。寂しいよ。』
すると後ろの方で土間の声がする。
『あぁ?だから一緒に食ってやってんだろうが!テメーは大人しくしてろ!』
『頼んでないし!土間が九十九の代わりになるわけないし!』
「………………。」
なるほど。元気よくお昼を食べているのはわかったよ。と九十九は遠い目をした。
すると、『ちょっと貸せ!』と土間が山下のケータイを奪い話し出した。
『コイツ!昼は九十九と食べる!って学校を脱走しかけたのを俺が止めてやったんだからな。感謝しろよ。』
(わぁ!!土間さまに感謝!!)
深々と頭を下げてみたが、電話の向こうには伝わってはいないようだ。
『ち、違うよ!ちょっとだけ考えただけで、そんなことしてないよ!』
『嘘こけ!靴はき替えようとしてたじゃねーか!』
『うるさいな!余計なこと言わないで!』
そんな言い合いを聞きながら九十九は笑った。
いつもだったら「やめてほしい」と思うのに、こんな言い合いがとても懐かしく感じる。
長々と夢を見続けていたからなのかもしれない。
とにかく九十九はホッとしていた。
「2人ともありがとう。」
心からそう呟くと、ケータイを土間から奪い返した山下が心配そうに話しかけてきた。
『九十九。大丈夫だからね。学校が終わったら九十九に会いに行くから。何か食べたいものある?冷たいものとか、甘いものとか、フルーツとか。』
(学校帰りに来てくれるんだ。バイトまで時間あまりないのに嬉しいな。)
「ありがとう。大丈夫だよ。でも来てくれるの嬉しい。待ってるね。」
『うん。』
「もう寝なきゃ。そろそろ切るね。」
『うん。あったかくしてね。じゃーまた。』
そう言って電話を切り、自分のベッドに戻り目を閉じた。
まさかその後、山下がバイトを休んでおり九十九の側から離れないと言い出したり、休んだはずのバイト先で九十九のためにオサムに病人用のスイーツを作らせてたりするなど想像もつくはずもない。
ただ、その騒動後から風邪をなるべくひかないようにと九十九は強く心がけるようになったのは当然のことだ。
「デート考えてくれてたのにゴメンね。」
「ううん。ちゃんとプラン考えられるし、全然大丈夫。俺は九十九と一緒ならどこでもいいし。」
結局、九十九の熱が下がり完全復活するまで2日間かかってしまい、日曜日のデートは準備不足で来週に変更することになった。
「ふふ、ありがとう。でもやっぱりデートなら2人で特別なとこ行きたいね。」
「…九十九!やばい可愛い!」
山下は九十九の体をぎゅーっと抱きしめた。
熱を出した2日、それから土日を挟み、4日ぶりに九十九と一緒に登校した山下のテンションは高く、九十九にベタベタとし続け、何度も土間に「イチャイチャすんな!」と言われた。
やっと誰も文句の言わない昼休みのご褒美時間だ。
「やっぱり九十九がいない学校は寂しい。」
「うん。ありがとう。ゴメンね。」
「ん、」
山下は九十九を横抱きにしてぎゅーと抱きしめながら、ちゅ、ちゅ、と九十九の頭にキスをしていく。
(下がったはずの熱がぶり返しそうなんだけど。)
カカッと顔が赤くなっていくのを自覚しながらも山下の好きにさせていた。
熱があった2日間は両親がドン引きするほど山下は九十九を心配していた。せめて少しでも安心してほしいと思っていた。
しかし、
「もう無理!」
あまりにも山下からのキス攻撃に心臓が耐えられず、つい手で彼の口をふさいでしまった。
キョトンとした顔の山下と目が合うが、九十九の真っ赤な顔を見て余裕そうにニコリと笑い、口をふさいだ手を取られ、手にキスをされる。
しかも指の1本1本、爪の1つ1つ、九十九に見せつけるように丁寧にキスをしていく。
(………ふあぁああぁぁあぁ!!やばい色気やばい色気やばい色気やばい色気やばい色気やばい色気やばい!)
「…っ!…っ!…山下、くん!…もう本当にやめて、恥ずかしいよ!」
「ん、何で?…誰も見てないよ?」
「わ、私が見てるの!」
「じゃー目を閉じればいいよ。ほら。」
瞳にキスをされ、つい目を閉じてしまう。
すると次は顔中にキスをされる。
「ちょ!山下くん!本当にちょっとやめて!もう無理!」
九十九の必死の訴えに山下のキスがピタリと止まる。ソッと目を開けると彼の目と目が合う。
彼のつり目が少しだけ切なげに目尻を下げているのが見えた。それに、
(わぁ…キレイだなぁ…)
こんなにも近くで彼の瞳を見たことがなかった。
色素が薄いからか彼の瞳は茶色だ。しかも、よく見ると少しだけ緑色が混じっている。
宝石のようだと九十九は思った。
「…キレイ」
「…九十九の方がキレイだよ。…好きだよ。」
そう言って顔が近づいてきたので「もうダメ!もう無理!」と必死で止めた。
山下は少し不満顔をした後、少し何かを考えニコリと笑った。
「じゃー九十九が終わりのキスをして。」
「………え?」
「九十九からキスしてくれたなら終わるよ。」
「…………できなかったら?」
「できなかったら大変だよね。予鈴までずっと俺からのキスは終わらないから。」
「……………!!!!」
驚いて固まっている最中も山下のキスは落ちてくる。
「ちょ!ちょっと待って!できない!できないから!」
彼にキスをすること自体、恥ずかしくてできないのに、キスをされている最中にキスをし返すなんて高度なテクニックができるわけがない。
(もうちょっと簡単な課題に変えてくれないかな!あっち向いてホイとか!連想ゲームとか!)
「キスしてくれるの?…じゃーはい。」
山下は嬉しそうに笑った後、スッと顔を近づけてくる。
(顔を近づけるってことは顔じゃないといけないってことですか!手じゃいけませんか!爪じゃーダメなんですか!)
顔は真っ赤になり全身が羞恥でフルフルと震えてしまう。目の前の山下が余裕な顔でニコニコとしているのがすごく悔しい。
「…め、目を閉じて下さい。」
「え、やだ。九十九のキスしてくるとこが見たい。」
(悪趣味ーーーーーー!!!)
「…い、いじわる…」
「違うよ。だってすごく可愛いから。」
前は「いじわる」と言ったら真っ赤になってうろたえてくれたのに同じ手は通じないようだ。
諦め、震える手で山下の頬を包み顔を少し近づける。
(わ、わ!本当にキレイな瞳だ!)
そんな瞳に自分が映ってると思うといたたまれなくなる。なので九十九は山下の瞳にキスをした。
唇にフサリと彼のまつ毛が触れくすぐったかった。
「…………っ!」
「あは。ヤバイ!めっちゃ可愛い!」
目を開けると彼も顔を赤くしていた。
それに少しだけホッとした。
(山下くん…どうやら熱がぶり返したようです。)
その後、予鈴が鳴って教室に戻ろうと午後の授業を受けようと掃除の時間になろうと、しょっ中、先ほどのことを思い出し真っ赤になるので九十九がそう思っても無理はない話だった。
読んでいただきありがとうございます。
あ、あけましておめでとうございます。
今年もよろしくお願いします。
お休みは本当にゴロゴロして投稿せず、すみません。
今回は山下くんの攻め回ですね。
脳内で、熱の時はピタリと動かなくなったくせに、攻めだしたらグイグイ動くようになりました。
私のキャラ達はとても自由に生きてます。




