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九十九は男の絶滅を祈る  作者: 英知 圭
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中学3年の1年間〜生きていい理由〜



「凛花はどこの高校へ行きたい?」


そう問う則文に対して、あぁ高校へ行かなければならないのか、とつい思ってしまった。


口には出さなかったが顔には出ていたのかもしれない。則文の顔が少しだけツラそうな、申し訳なさそうな表情になった。


少しずつ元気になって、よく笑うようになった九十九だが、中学の散々な出来事で表情が欠落しだしていることに自分自身、気づいていた。

家ではなるべく以前のように笑うようにしていたが両親にはそんな嘘の笑顔なんてバレバレなのはわかっていた。


家の壁に落書きをされたことや九十九の靴や持ち物の紛失・破損、教科書やノートの落書きに対し、両親は学校に抗議をしてくれたが、九十九が反応を示さないぶん両親の反応にイジメをしているメンバーは喜んだ。


両親は何度か「もう中学校には行かなくていいよ。」と言ってくれたが、そう言われるとつい逃げてしまいそうで「何でそんなこと言うの。やめて。」と無表情で返した。

そんな九十九に両親は複雑そうな顔をしたが強くは言ってこなかった。



「…ここの私立の女子高なんてどうだ?名門だし、凛花なら入れるだろう?」


確かにそこの高校は偏差値が高く名前も有名なので倍率も高い。

復学してから成績が飛び抜けていい九十九なら入れる学校だ。それに今いる中学のメンバーには厳しいレベルなので、高校からは顔を合わせることがなくなるということなる。


(…高校…行かなきゃいけないなら、誰も知らないとこがいいなぁ。うん。男もいないし。)


九十九の意思を探るようにチラリと覗いてくる則文に九十九は頷いた。


「……うん、そこでいいよ。」


それだけ言って九十九は自分の部屋に入って行った。


実際、則文の言いたいことはよくわかる。

九十九も逃げたくないと思っているからこそ、無理をしてまで中学に通い続けているのだ。


今の状態の九十九に出来る仕事などない。人とコミュニケーションが取れない、手に技術を持っているわけでもない。器用でもない。何もできないのだ。


則文は少しツラくても学校へ通い、学歴と最小限のコミュニケーションを取れるように考えてくれているのだろう。

親にいつまでも頼れるわけではないのだから。


そう。そんなことはわかっている。

わかっているのだけれども…

九十九はとても疲れていた。


クラスでは花宮からの辛辣な言葉、笑うクラスメイト、カズナからのイジメ


心身ともに疲れていた。ボロボロだった。


誰にも必要とされていない。

もういっそ意地なんか張らずに彼らに屈してこの世から逃げてしまおうか。

両親は泣いて悲しむと思うが案外、心配のタネが減っていい結果になるかもしれない。そうしたら仕事にだって復帰できる。


もう泣く気力さえなく、鬱々とした気持ちを振り払うためにひたすら部屋にこもって勉強をした。



そして、

あっと言う間に年を越した。


ここ最近は、受験勉強優先でイジメが減ったことで九十九は少しだけ過ごしやすい日々を送っていた。


「ごめん!本当にごめんね!りんちゃん!」

「迎えには絶対に行くから!ごめんな!」


そんな風に両親が頭を下げた。九十九は苦笑いをし首を横に振った。


今日は前に言っていた私立女子高の受験日だ。

則文が車で会場まで連れて行ってくれると話していた。

しかし、残念な電話がかかったのが前日の夕方だった。

両親の結婚式の仲人だった恩師の突然の訃報だった。それを聞いた両親はツラそうに涙を溜めていた。そんな人との最後の別れを九十九のワガママで潰すわけにはいかない。


駅まで3人で行き、両親は特急列車で他県の葬儀場へ、九十九はタクシーで会場まで行くことになった。

予約したタクシーが来る前に両親の電車が来てしまい手を振って別れた。しばらくしているとタクシーも来てくれた。

男性の運転手だったが、今は運転側と後部座席の間に防犯シールドが貼られてあるので少しだけホッとして乗り込もうとした。


その時、声がした。

叫びに似たようなツラそうな声だ。


そこには女性が倒れていた。


九十九は少しだけ戸惑った。

知らない人だ。いつも助けてくれる両親は側にいない。心臓がドクリドクリと緊張した音を響かせていた。


それでも、何も出来なくても、見て見ぬ振りをする人間にはなりたくなかった。


「…あ……あの、どうしました?大丈夫ですか?」


そんな大したことない言葉だ。

でも九十九にとっては最大限の勇気を振り絞った言葉だった。

付き添っていた子と目があった瞬間、九十九の何かがフツリと吹っ切れた。


それからはただただ一生懸命に目の前の人に手を貸した。

いや、手を貸したなんておこがましい。自分のしたいことをしただけだ。

両親にいつも言われている言葉を言い続けた「大丈夫。大丈夫だから。」と。


その後、その倒れていた女性は無事で、付き添っていた子から「ありがとう。」と言われた。


嬉しかった。


その子からの言葉が体に染みるように感じだ。


生きてて良かった。今までツラかったけど、もしかしてこの日のために生きていたのかもしれない。

良かった。誰かの助けになれた。生きていて良かった。生きてても良かったんだ。

そんな風にはじめて思えた。


病院から出たのは昼をとうに越していた。


乗り場でタクシーを拾い、女子高の試験会場に向かった。係りの人に今までの経緯を話し、無断で欠席したことを謝罪した。


そして再度タクシーを拾って家に帰った。


葬儀から戻ってきた両親は一度家に帰り着替えて車で九十九を迎えに行く予定だったのだろう。帰ってきて九十九がすでに家にいたことにひどく驚いていた。


なによりもここずっと見せていなかった九十九の笑顔に驚いていた。


「ごめんね。試験受けれなかった。」


そう言いながらも恥じたり後悔した様子がない九十九の話を聞いて両親は「よく頑張ったな。」「りんちゃんはえらいわ。」と褒めてくれた。


女子高の再試験の話も出たが、九十九は首を振った。

元々、女子高はこの家から少し離れている。

電車に乗れない九十九のことを考えて引っ越そうかという話をしていた。その時の九十九はそれに対して何も考える余裕がなかった。

でも今はそうは思わなかった。


「この家から通える学校にいくよ。」

「でも、あそこは共学だし、今の中学の子も何人か行くって…」

「いいよ。関係ない。」


そう言えたのは、生きていていいと思えたからだ。どんなに周りから強く当たられても関係ない。九十九は九十九の人生を歩んで、そしていつかまた誰かの助けになるようになりたいと思った。


久しぶりに自分で考え、自分で決断した。



高校に通いはじめても九十九の前髪と人と距離をおいた反応は変わらなかったが、イジメはされなかった。しかし、変なゲームの罰ゲーム相手に抜擢された。ある意味これがイジメなのかもしれないが。


それでも中学のように「死にたい」と思わなくなったのは、心のどこがで「自分は生きていていいんだ。」とそう思えているからだと思う。


両親も心配しているが九十九が中学の頃より少しだけ表情を取り戻していることに気づいて、ソッと見守ってくれていた。


そして高校生活も2年目に突入した。

残念なことに土間とまた同じクラスになり、罰ゲームは続行ということになった。

しかし「また同じクラスだな」と言ってきたのは土間だけなので、ある意味、九十九の存在を認めてくれているのは今のところ土間なのだと思って苦笑した。


そして、

面倒なことがあと一つ。


「おはよう。九十九さん」


本当に本当にやめてほしい。

そのキラキラした笑顔、毎日の挨拶、本当に本当に自分の人生にいらないから。


そんな風に思っていた。


まさか、彼が九十九にとって大切な人になるとは想像もついていないときのこと。


そう、それはまだ九十九が男の絶滅を祈っていたときのことだ。




読んでいただきありがとうございます。


イェーイ!!終わったー!!

過去のお話終わったよー!!

長かったーツラかったー!

いっぱい泣きながら書いたので目がパンパンだったー!

(書きながら感情移入するタイプです。笑)


イチャイチャに戻ろう!イェーイ!

と、言ってもお休み中は書くペースが以前みたいにゆっくりになるかも。


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