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九十九は男の絶滅を祈る  作者: 英知 圭
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中学3年の1年間〜裏切りと救い〜


九十九は震えが止まらず、そこにいた。


久しぶりの学校、久しぶりの教室、久しぶりのクラスメイト、九十九にとって全てが恐怖でしかない。


担任の先生より「今日から九十九さんが復学することになりました。」と軽く言われ、自席に着くも、周囲からの視線がガリガリと九十九の神経を削っていた。


1ヶ月前から何度も学校に通う練習をしていたのでクラスメイトも九十九の登場に驚いた様子はない。

しかし、突き刺すような目線、蔑むような目線が感じられた。

最初はただの被害妄想かとも思ったが多分そうではない。

九十九は混乱と恐怖とでパニックになりそうなところを深い深呼吸と「大丈夫。私は見えていない。大丈夫。前髪で隠れている。」と言い聞かせることでギリギリ自我を保っていた。


HRが終わると、ニヤニヤした顔で見知った人が近づいて来た。


「よう。九十九。久しぶりじゃーん!」


堂々と目の前に現れたのは花宮だった。

男が近づいて来たことに恐怖を感じながらも、こいつよく堂々と来れたな、と少し呆れた。


「つーか。はは!堕ちたなぁ!めっちゃ不細工になってんじゃん!あははは!」


花宮の発言に「ちょっとやめなよ。」と言いつつ、周りのクラスメイトも笑っている。


「つーかさ。お前、あの後どうなったんだよ。」


花宮のその一言に九十九は体を固まらせる。

怒り、憎しみ、恨み、悲しみ、全ての負の感情が急に押し寄せて来て逆に何も言えなくなった。


「な、何てことを言うんだよ!やめろよ!」


そんな大きな声が後ろから聞こえて来た。

振り向かなくてもわかる。傘山の声だ。


「何だよオタクデブ。カッコつけてんじゃねーよ。お前がいくら騒いだってブーブーとしか聞こえねーんだよ!あははは!」


クラス全員がクスクスと笑う声がする。


ひどい。それ以外に思いようがなかった。


「つーか俺は真実しか言ってねーじゃねーかよ。なぁ九十九?」


そう言って花宮が手を伸ばして来た。

それを見た瞬間、九十九はあの日『鬼ごっこ』で捕まる瞬間を思い出し「いやあぁ!」と叫び、クラスから走り去った。


離れていく教室から笑い声と「おー。根暗ブスが逃げたぞー。」と声が聞こえたが、九十九はそれどころではなかった。


人気のない階段の踊り場の端にうずくまり、九十九は発作を起こしそうになるのを必死でこらえていた。


「ヒューヒューヒューヒューヒュー」


ガタガタ震える体を自分の手で撫で、言い聞かせる。


(あれはヤマトたちではない。大丈夫。ヤマトじゃない。大丈夫。ヤマトじゃない。大丈夫。)


そう呟きながらも先ほどの心ない言葉と男の手が自分に向けられる瞬間が頭をぐるぐると回り続け、次第に瞳に幕が張ってくる。


「ヒューヒューヒューヒューヒュー」


「あれぇ……もしかして凛花?」

「ヒュッ!」


驚きびくりと体を揺らしながら声の方を見た。

そこには最愛の友達がいた。


「…カズナ……」


あの日とあまり変わらない小動物のような可愛らしい彼女の姿を見た九十九は安心したためか呼吸が少しだけしやすくなった。

彼女に救いを求めるように手を伸ばしたとき、


「まだ生きてたんだ!」


彼女の発した言葉に頭が真っ白になった。


「ちょ!ひどいじゃん。カズナ!」

「だってそうじゃん!私だったら絶対生きてられないもん!そういうとこやっぱり凛花は図太いよね!」


カズナとその周りにいる女の子たちがクスクスと笑い合っている。


「…………………なんで。」

「あはは!なんでって何?自分の今いる位置わかってる?底辺だよ?ってかそれより下かも。あ、地下?あはは!」


衝撃が強すぎて反応ができない。彼女は本当に『カズナ』なのか。


「ってかさ。今まで自分のして来たこと理解してる?人の好きな人奪いまくっててさぁ。あんたみたいなサイテーな女、襲われて当然じゃん。体から醜さが漂ってたんだよ。」


彼女が何を言っているのかわからない。何の話をしているのか、それがヤマトに襲われたこととどう関わるのか意味がわからない。


「……す……好きな人……?」


「そうだよ。ミツの好きな人も、キコの好きな人も知ってて、そそのかしたんでしょ?あと、私の好きな人も。」

「……知らない…教えてもらって、ない……」

「見てたら好きな人くらいわかるじゃん。だからそんな人ばっか狙ってたんでしょ?友達の好きな人から好かれて満足した?本当に性格悪いよね。」

「……ち、違、」

「あぁ、もういいよ、そういうの。もうわかってるし、大体あの日、私が誘い断ったからって花宮くん誘う時点でバレバレなんだよ。」

「……誘う…?」

「そうだよ。私が好きなの知ってて嫌がらせで花宮くんを誘ったんでしょ?本人も凛花に無理に言い寄られたって言ってたし。」

「…………!」


空いた口が塞がらないとはこのことを言うのだとわかった。文字通り塞がらない。


(おかしいでしょ?聞かされてない好きな人なんか知るわけがないじゃない。クラスも違うのに!それに花宮くんに私が言い寄った!?そんなのクラスの人に聞けばすぐ本当のことがわかるはずでしょ?だって堂々とクラスで彼が言ってきたのだから!)


しかし、それを言葉にすることは出来なかった。

彼女たちの憎しみのこもった目が、嘘を真実だと思い込んでいるのがわかる。

『性格悪い女』の九十九が何を言っても受け入れるようには思えなかった。


それよりも九十九はこの短時間で疲れていた。


もういい。何でもいいや、と


「前から性格ブスだと思ってたけど、外面だけは良くて、変なとこいい子ちゃんぶるのが嫌いだったんだよね。でも凛花がここまで堕ちちゃって清々した。あはは!」


女の子たちの恍惚な笑い声を聞きながら、九十九はその場から動くことは出来なかった。


1限目のチャイムが鳴り、あたりはさらに静かになる。


(……あぁ…死ねばよかったんだ。あの時、必死に逃げたりせず、そのまま死ねばよかった。………だってそうでしょ?多くの人がそれを望んでいる。多くの人が私の存在を疎ましく思ってる。)


フルリと一瞬体を震わせた後、九十九は階段を登り始めた。


(……死ねばいいの?死ねば満足するの?あんな風に笑われなくなるの?)


屋上に続く階段をのぼり、屋上に出れるはずの扉に手をかける。しかし、鍵がかかっていて開かなかった。ふと横を見るとガラス戸が目に入る。

開けて下を覗くと屋上と同じ4階の高さだ。

九十九はガラス戸から体を乗り出した。


(…死にたい死にたい死にたい死にたい死にたい死にたい死にたい死にたい死にたい死にたい)


更に体を乗り出すと、ピッと何かに引っ張られるような感覚がし、視線を向けるとガラス戸のサッシにカーディガンが引っかかり、糸が伸びかけていた。


「あ、」


つい、体を元に戻し、カーディガンの引っかかった場所を指で確認する。

その指にポタリと涙が落ちた。


「…ははっ!今から死のうとしてるのに!カーディガンなんてどうせ汚れちゃうのに!」


そう言った瞬間、大量の涙が溢れ出した。

もう限界だった。


「ふ、あ、あぁ…あぁぁ!」


(死にたい。でも死ねない。お父さんが、お母さんが泣くに決まってる。自分のせいだって思うに決まっている。)


嗚咽で息さえままならない。


(………神さまって本当にこの世にいるんだろうか……いるなら私にだけ何でこんな仕打ちをするんだろう。…………神さま!ねぇ神さま!…私は何をしましたか?どんな罪を犯しましたか?ヤマトに襲われるだけじゃー足りない罪ですか?友達だと思っていた子に裏切られてもまだ足りませんか?死ぬ権利ももらえませんか?どうしたらいいですか?このまま地獄に堕ちたらいいんですか?……)


「どうしたらいいか、教えてよぉ!!」


1限が終わるまで九十九はそこで声をあげて泣いた。

泣いて泣いて泣いて泣いて。


そして2限目になる頃には全てを心を閉ざしていた。どんな言葉を投げられようと、どんなことをされようとも反応をしめさなくなった。


靴を捨てられていたときは上履きのまま帰った。足を引っ掛けられ転倒させられたときは気にすることなく立ち上がり歩いた。荷物に落書きされようともそのまま使った。水をかけられたときは体操着に着替えて授業を受けた。


心を凍らせてしまえば楽だ。

何かに希望を持つからいけないんだ。


そう思い、能面のような表情で毎日を過ごした。




しかし、時々、心が揺れることもあった。


「…………。」


机からシンナーのような香りがした。

目の前の自分の机は変わり映えはない。いや、少しだけいつもよりキレイな気がした。


(……落書き…消してくれたんだ。)


九十九が学校に来る前にそれをしてくれた人。

そんなの1人しか思い浮かばない。


(ダメ。期待したらダメ。そんなことしたらいつかは彼に頼ってしまう。彼を巻き込んでしまう。それだけは嫌だ。絶対嫌だ。)


そう思い、何も気付かなかった顔で席に着いた。



そして、他の日にも。


靴箱の中に袋が入っていた。新たな嫌がらせかと思い近づいて見るとそれは書店の袋だった。型からしてたぶん、マンガだ。


そういえば、以前、続きが気になり、新刊が出たら必ず貸してほしいと彼に言っていたことを思い出した。

少し迷ったが九十九は震える手を伸ばし、サッと本をカバンに入れた。

家に帰り部屋にこもると、その本を見て少しだけ泣いた。

手紙を挟んでいるわけでもない。ただマンガだけだ。でもそれでも彼の気持ちは伝わっていた。


中学校に最後まで休まず通えたのは、九十九が気持ちを閉ざしていたからではない。

多分、彼の優しさが九十九に泣く時間を与えてくれていたからだった。




読んでいただきありがとうございます。


ってか長いよー!もういいよー!

次は終わる!

次には終わるはずだからー!

多分。

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