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九十九は男の絶滅を祈る  作者: 英知 圭
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中学3年の1年間〜練習と前髪〜


九十九は次第に心身ともに元気になってきていた。


元気な恵美子に促され、自宅でフィットネスをしたり料理をしたりと毎日が楽しい。

それに学校へ行っていない不安から勉強をし始めていたが、それが意外と楽しくてドンドン先に進んでいった。

3年の教科書は全部、勉強しつくしたので則文に高校1年の参考書をお願いして買ってもらい進めていたがそれも終わってしまった。

次が欲しいと言うと、則文からアイパッドを渡され「広く知るのもいいが、深く知るのも大切だ。」と言われた。中学3年の教科書を再度勉強しなおし、教科書には載ってない部分まで掘り下げるようになった。


「今日は何を勉強したんだ?」と聞かれ、内容を説明すると則文から「うわぁ〜教師みたいだなぁ。」と少しだけ引かれた。…なぜだ。


九十九と恵美子と則文は本当に以前のように色々な話をし、笑い合うようになっていた。

違うといえば恵美子が仕事に行かなくなったこと、則文が早く帰ってくるようになったことだ。

しかし、今2人に以前のような状態に戻されると部屋にこもる生活が戻るのは当たり前で、九十九は「2人とも前みたいに仕事していいよ。」とは言えなかった。


そして、前と違うといえば、当たり前なのだが九十九自身が学校に行っていないことだ。


正直、このまま家にこもった生活を続けいけるのかと言われれば『否』だ。

家で勉強したとして、それが学校の代わりにはならないことを知っている。


(どうかしないとなぁ)


そんな風に思っていた。


そんな日の夜、九十九はあの事件の夢を見た。

泣きながら飛び起きて布団の中で震えていたが、不安がおさまらないので両親の部屋に行った。


「どうした?凛花。」

「……ゆ、夢………あの時の……夢を…」

「りんちゃん。おいで。一緒に寝よう。」


ベッドに誘われて、両親に挟まれるように横になった。恵美子からギュッと抱きしめられる。


「大丈夫よ。お父さんとお母さんがついてる。」


そう言われ背中をポンポンされる。則文からも「大丈夫。側にいるから。」と頭を撫でられて九十九はやっと目を閉じて眠りについた。

その後は嫌な夢は見なかった。


朝になり、両親とともに起きる。


しばらくボンヤリとしているも、後々、中学3年生にもなった自分が怖い夢見て両親に一緒に寝るようお願いするなんて!と、羞恥した。


そしてその後、フツフツと何かが九十九の心に込み上げてきた。


(大体、私は何であんな奴らに負けてんの!?)


九十九はツライがその時の状況をザッと思い返した。


(私があいつらに何かした?あんなことされるようなことした覚えがない!おかしくない?このままあいつらを怖がって家にこもってしまうって何かおかしくない?ってかそんなの悔しくない?あいつらの思うがままじゃん!私があいつらのせいでこんな状況になってるのを知ったら多分あいつらは笑うに決まってる!そんなの悔しくない!?)


九十九は自分のその意見に自分で「そうだ!」と答えるように大きく頷いた。


(あいつらには負けない!次、会った時は……いや、それは全力で逃げるけど……でも、あいつらが悔しがるようなそんな世界一幸せになってやる!お前らなんか私の人生に何の汚点も残さなかったって、そう胸をはって言ってやる!)


そう九十九は決意した。


そして、それには何が必要で、どんな努力をしなければならないのかを考えた。

すると必然的に1番は中学へ復学することだった。


(中学に行くってなると外を歩かなきゃ)


九十九はあの事件以来、自ら家の外に出ていない。家の外を歩いたのは病院に連れて行かれ、脱走した日が最後だ。


(でもあんな夜中に歩いて家まで帰れたし、多分、大丈夫だよね。)


そう思い、軽い気持ちで少し散歩しよう。と九十九は玄関まで来た。

日頃はいていた靴がなく、仕方なくお出かけ用の靴を取り出しはいてみる。


(わ、わぁ〜!3ヶ月ぶりの靴かも!)


変な感動をしつつ、玄関を開けてみた。

爽やかな風が頬を撫で、気持ちのいい日差しが肌をさす。

気分がググッと上がって玄関から数歩前に進んでみた。


その時、目の前をサラリーマンが颯爽と歩いて行った。それを見た瞬間、九十九はヒュッと息を飲む。


慌てて家の中に戻り、靴も脱ぎ忘れたまま恵美子の元へ逃げた。


「りんちゃん?どうしたの?何があったの?」


真っ青な顔をしてガタガタと震える九十九を抱きしめ、恵美子は背中をさすり続けてくれた。


(こ…怖い怖い怖い怖い!どうしよう!怖い!どうしよう!怖い!)


則文を克服したので男性恐怖症も克服できた気でいた。そんなはずなかった。

たった一瞬、目の前を通った男性を怖がっていては学校なんて夢のまた夢だ。

そんな風にネガティブな思想をしかけ、すぐに首を振って否定する。


(絶対負けない!絶対あいつらの思い通りにはさせない!やってやるんだから!)


そんな風に気合いを入れ直した。


自分がどれだけ出来なくて、どれだけ頑張らなくてはいけないのかが少しだけ知れた。

それだけでもある意味、大進歩だ。


それから、九十九は家の外に出る練習をし始めた。

案外、住宅街の中はすぐ平気になった。問題はゲートの外だ。遠くても男性がいれば容赦なく恐怖と震えが襲ってくる。


「……ヒュッ……ふっ……う、う、ぅ」


街路樹の後ろにうずくまり恐怖で涙を流しながら男性が通り過ぎるのを待った。


「こわいこわいこわいこわい、助けて、お母さんお母さん、怖い!」

「りんちゃん!」

「お母さん!」

「りんちゃん!お願いよ。出るときは声をかけて。お母さんも不安だわ。おいで、帰ろう。」


恵美子に抱きつきながら安心の涙がポロポロと流れた。

家に帰ってから震えが止まるまで恵美子が抱きしめてくれる。

ほぼ毎日そんな状況だった。

あまりゲートの外側では前進できていない。

それでも恵美子は「今日も頑張ったね。少しだけ進めてたね。いつもりんちゃんは偉いね。頑張り屋だね。」と褒めてくれる。

そんなことないのはわかっている。

でも、努力を認めてくれるのは九十九にとって次の勇気への糧となった。


そしてそれが1ヶ月程続いた頃だった。


ゲートの外になるとどうしても恐怖が上回り、実際ほとんど進めていないのが現状で、九十九はもうダメかもしれないと少しだけ心が折れかけていた。


「凛花。大丈夫か?毎日、無理をしすぎだ。今日は外に行くのはやめて、家でゆっくりしたらどうだ?」


そんな則文の言葉に頷きかけ、首を横に振る。


実際、限界だと自分でも自覚していた。

でも一度逃げてしまえば、次はないような気がしていた。


(逃げたい。でも逃げたら終わりだ。)


自分の中の2人の天使の言葉に惑わされながらも九十九は必死にしがみついていた。


「凛花。上を向いて。髪が伸びたね。顔が見えない。」

「え、」


九十九は則文の言葉に反応した。


顔が見えない?

確かに、九十九の前髪は目をはるかに越して頬の半ばあたりまで伸びていた。何度か恵美子に前髪を切ろうと言われていたが刃物を顔付近に持って来られるたびにあの事件を思い出して嫌がった。


(そうか。私の顔、見えないんだ!)


そう思うとスゥと気持ちが軽くなった。


(そうだよ!誰も私のことなんて見ていない。だって前髪が邪魔して見れないんだもん!もし見られても私の怖がっている表情もわからないし、私が誰かもわからないじゃん!)


後で冷静に考えると矛盾のある意味不明な思想だが、絶望を目の前にしていた九十九にとっては一筋の光で、希望だった。


そんな思いを胸に九十九は今日もゲート外を歩いた。男性が前から歩いて来たのに気づくと心臓がひどく激しくなりはじめる。

いつもだったらすぐに逃げ込んで泣いて震えているはずだが、九十九は深く深呼吸をした。


(大丈夫。大丈夫。だって、見えてない。相手から私は見えてないから。)


そう思い、足を進めた。そして男性とすれ違う。

体は震えたが、逃げずにいられた。


「は!…やった!」


小さい声でそう言った。目には恐怖で涙が溜まっていたが今、嬉し涙に変わった。

そしてそのまま、中学に向けて足を進めた。


「うそ、………着いた。」


九十九は唖然と校門の前で呟いた。


あんなに長かった中学校までの道のりが、則文のたった一言でこんなに早く到着するとは思わなかった。


九十九は嬉しくてスキップをするように家に帰った。

恵美子に抱きつき「行けた!中学まで行けたよ!」と報告すると恵美子は目をまん丸にしながら一緒に喜んでくれた。


夕方、家に帰った則文にも報告して3人で踊るように喜んだ。


「頑張ったな。凛花。本当に凛花はすごい。」

「うん。りんちゃん本当にすごいわ!」


両親にベタベタに褒められ、今日くらいは素直を受け止めてもいいのでは、と九十九は満面の笑みで返した。


「ありがとう。嬉しい!」


その夜はささやかなパーティをした。



そして、

「あ、ヤバイ、無理かも。」


次の日、替えに持っていた中学の制服を着た瞬間、九十九は顔を真っ青にした。

この制服は色々と思い出してしまう。


両親も制服姿の九十九を見て、嫌なことを思い出したのか顔をしかめた。


「りんちゃん、カーディガン着るのはどうかしら。これ、可愛いでしょ?」


そう言って恵美子は水色のカーディガンを九十九に着せた。悪いイメージの制服から少しだけ雰囲気を変え、3人は揃ってホッとする。


「うん。可愛いと思う。」

「そうよね。もし何か言われたら先生にはお母さんから言っとくから。」

「ありがとう。」


そんな話をしつつ、九十九は恵美子と肩を並べ中学校まで歩き出した。


しかし、九十九は思いもよらない事態に焦っていた。

昨日、無事にたどり着いたのは昼前の時刻だ。もちろん、学生は全員校内にいる。

しかし、今は学生の登校時間だ。校門付近には学生がゾロゾロと歩いていた。


(あぁ…確かに。大勢の人では練習してなかったなぁ。)


そんな呑気な心の声とは裏腹に全身の震えと恐怖からの呼吸困難で、今日の登校は断念せざるを得なかった。


九十九がそれに慣れるまで半月、校内に入れるようになるまでさらに半月近くかけた。


実際、はじめて授業を受けれたのは、九十九が外を出る練習をはじめてからおよそ2ヶ月以上かかったのだった。



読んでいただきありがとうございます。


だいぶ元気になってますね!

いいことです。^ ^

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