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九十九は男の絶滅を祈る  作者: 英知 圭
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中学3年の1年間〜則文の心情〜

則文目線です。



『りんちゃんが帰ってこないの!!』


悲鳴のような電話が掛かってきたのは則文がまだ仕事をしていた9時過ぎだった。


『仕事が遅くなって慌てて帰ったんだけど、家に電気がついてなくて!りんちゃんが帰った形跡もなくて!カズナちゃんの家にも電話したけど今日は一緒に出かけてないって!どうしよう!どうしよう則文さん!』

「ちょっと落ち着こう。恵美子、大丈夫。すぐに帰るから、ちょっと待ってなさい。」


そう言って電話を切り、一緒に仕事に残っていた須田原に断りを入れて仕事を切りやめる。


心臓がバクバクとなっている。

今までこんなことはなかったのだから。


娘の凛花はとても優しいいい子だ。

両親共働きで家を空けていることが多いが文句ひとつ言わず、家族が集まれる時間を大切にしてくれる子だ。

仕事で一緒にご飯を食べられなくても、その分休みの日に一緒に食べようと言ってくれる。

休みは友達と出かけたいだろうに、家族を優先してくれるような、そんな子だ。


(大丈夫。大丈夫。あんないい子に何かあるわけがない。家についたら多分、笑って「ごめんね」って言ってくれるはずだ。)


そんなことを自分に言い聞かせ、則文は車を走らせ自宅へ急いだ。


しかし、そんな都合のいいことは起こることもなかった。

いまだ帰らない娘を探し、恵美子は近所の家を訪ね歩いていた。


「恵美子!」

「則文さん!まだ帰ってこないの!中学の先生とか知り合い全員に電話したんだけど知らないって!どうしよう!どうしよう!」


恵美子を落ち着かせようと肩を抱き寄せ「警察に連絡しよう。」と電話をかけた。


しばらくするとパトカーがやってきて事情を説明する。背格好や日頃の行動範囲を聞かれ答えれる範囲を全て答えた。

警察は無線で他の警察と話していたが、そうやって待っている時間が惜しくて則文は「車であたりを見てくる」と恵美子を残して車を出した。グルグルと家の周りや娘が街で行きそうなあたりを探し回る。

似たような子を見つけては車から出て確認に行き、肩を落として車に戻った。

しばらくして家に戻ってみるがいまだに娘は帰って来ていなかった。

時刻も日をまたぎ、まもなく1時になろうとしている。

警察から今後のことについて話をしていると、集まった住民から「凛花ちゃん!」と声が聞こえた。

そちらを見ると確かに凛花が立っていた。


真っ青な顔をして、左側の頬は赤紫色に腫れている。ボサボサな髪は左側が無残に切られていて、着ている制服はいたる所が引きちぎられたように破れていて泥だらけだ。足は血まみれになっていて靴下まで真っ赤に染まっている。靴は片方履いていなかった。


「凛花!」


そう言って近づいた自分を見た娘は驚愕の顔をして叫んで家に逃げ込んだ。

部屋に閉じこもった娘に必死で声をかけるが、娘は叫ぶばかりで一向に部屋から出てこなかった。


唖然とした。

何が起きたのかわからない。


それでも食事も摂らず部屋にこもる娘に何度か声をかけた。全てが同じ返事だ。


「いやぁああぁあぁ!!怖い怖い怖い!助けて!」


娘のそんな声は聞いたことがない。どうすればいいのかわからなかったときだった。


「則文さん。りんちゃんの声がしないの。声をかけても返事……叫び声がしないの。」


真っ青な顔で恵美子が言ってきたので、則文も覚悟を決めて再度、娘の部屋に立った。

確かに声をかけても返事がない。動いた気配もない。

ドアを開けようとするが開からないので無理矢理、力で押し開けた。


すると娘はベッドの上で真っ白な顔で倒れていた。


「凛花!」


娘はあの時の姿のままだった。あの時は遠目で気づかなかったがひどい有様だ。

頬は紫色に腫れており首にも刃物で切られたような傷があった。髪はボサボサのまま、服は着替えておらずビリビリに破れて泥だらけの制服のままだ。よく見ると紺色の制服が所々、黒く染まっており、血が固まってカチカチになっていることがわかった。足は擦り切った傷が無数にあり、固まった血で黒々としていた。

靴は片方履いたままだ。


ベッドは血と泥でとても汚れていた。


涙が溢れそうになったのをグッとこらえて娘を抱きかかえ病院に連れて行った。


病院先でも娘の姿に眉をひそめられた。

看護師と恵美子が着ている服を着替えさせ清拭をしてくれた。体中にアザがあったことを後で報告された。


とにかく精神的ショックと疲労と脱水で入院することになった。恵美子がつきそうと言い、2人分の荷物を家に取りに行った。


荷物をカバンに詰めた後、恵美子は凛花の部屋にフラリと入り、シーツを替えたり、軽く掃除をしていた。


「恵美子、そろそろ行こう。」

「……わ…私のせいだ……」

「恵美子。」

「私が仕事を優先したから、りんちゃんがこんなことになったんだわ!私のせいでりんちゃんが!」

「違う!恵美子!違うから!」

「だって…あの日……何で早く帰ってあげなかったの……りんちゃんが大切なのに……りんちゃんが仕事なんかより大切なのに!」


大きな声で子どものように泣く恵美子を力いっぱい抱きしめた。


「……違う。……恵美子のせいじゃだけじゃない。俺のせいだ。いつも恵美子に全てを任せて、あの子の優しさに甘えて、仕事ばかりしてたのは俺だ。…すまない。……すまない。」


君のせいじゃない、と言いきれないのは、そんなこと言われても納得しないとわかっているからだ。だって自分がそう思っているのだから。

だからせめて半分にしたかった。

恵美子の罪と俺の罪。足して半分にしたかった。

それは多分一人ひとりが抱えるより少しだけ軽くなるはずだ。


ひとしきり2人で泣きあった後に病院に向かった。


次の日、いつまでも休んでいるわけにもいかず、則文は仕事に出ていた。

そんな中、昼過ぎに恵美子よりメールが入っていた。

『りんちゃんが昼過ぎに目が覚めたけど先生を見た瞬間パニックになった。安定剤を打たれて今は眠っている』と。


グッと喉から出そうになる叫びを押さえ込んだ。


仕事が終わり凛花の様子を見に病院に寄った。

恵美子はすでに疲れ切っており「今日は家に帰ろう。明日の朝にまた来よう」と言うとしぶしぶ了承し一緒に帰宅した。


病院から電話があったのは深夜の2時過ぎだった。

巡回時に凛花がいなくなっているのに気がついた。病院中を探し回ったがいない。1つのガラス戸の鍵が外されていたので外に出たんだと思う。

とあった。


慌てて上着を羽織り、凛花を探し回る。病院付近を車でグルグルと回り、どのくらい探し回ったのだろうか、これまで続いた心労と寝不足が目を霞ませる。隣にいる恵美子はすでに限界だ。

ひとまず彼女を休ませようと家に戻った。


すると、家の廊下は血まみれになっていた。

それを見た恵美子は発狂したかのように叫んだ。


「りんちゃん!りんちゃん!」


そう叫びドアを叩く恵美子が泣きながら懇願すると、凛花はドアを開けて手当と食事を受け入れた。

それを娘には気づかれないように見ていた則文は自分がここにいてはいけない、とホテル暮らしをするようにした。


娘の日々の様子は恵美子からメールで送られて来た。


『今日はご飯を全部食べた』

『お風呂に入らない?て誘ったら嬉しそうにしてた。2時間近く入ってたから不安になったけどピカピカになって出てきた』


など、ついつい頬が緩んだ。

やはり、自分が離れて正解だったと思った。娘は男が怖いと泣いていた。なら、恵美子だけならちゃんとした生活ができるだろうと思っていた。


そして、そんな生活をしばらくしていた時。

着替えなどの荷物を取りに帰ったときに凛花と鉢合わせした。

叫ばれるかと身構えたがそこは大丈夫だった。しかし、引きつった表情を見る限り、早く出て行くのがいいと思った。

しかし、


「……行かないで。……ごめんね。……行かないで。……お父さん……ごめん。」


そんな風に凛花から言われた。嬉しくて嬉しくて嬉しくて、つい手を伸ばしかけたが凛花の体が少しだけビクリとしたので、すぐに引っ込めた。

その分、恵美子が凛花を抱きしめてくれていた。


その日は恵美子とよく話し、2人で色々と決断をした。


次の日、上司の須田原を呼び出した。


上司といっても大学時代からの先輩後輩で一時期お金がなく部屋に上がりこまれた日々があるほど親しい間柄だ。

彼には自分のことを全て話していたし、彼のこともよく知っている。

恵美子と付き合い結婚するまでも色々お世話になっていた。


そんな須田原は日頃見せない則文のツラそうな表情を見て真面目な話だと気づいた。


「……プロジェクトから外してほしい。…できれば定時で帰れる課に異動させてくれるとありがたい。」

「……はぁ?何言ってるんだ。今回のプロジェクトは2年前からお前が考えて、水面下でリサーチやら準備やらしてきたやつだろ!何でそんなこと言い出すんだ!」

「…………………娘が男に襲われた。」

「……………は?」


本当はそんなこと言いたくなかった。しかし、これから仕事のことで融通を利かせてもらうには、須田原に話す他なかった。いや、須田原だからよかったのかもしれない。


「………男が怖くて、俺のことも怖がって部屋にこもられた。3日も、倒れるまで部屋から出ないほど怖がっていたんだ。だからここ最近は家には帰らずホテルで暮らしてた。」

「………。」


須田原はあまりにも突拍子もないことだったからか唖然とした顔のままだ。


「でも昨日、やっと娘から行かないでって言われた。………家を大切にしたいんだ。頼む。」

「いや、でもいいのか!?今回は会社ぐるみの大きいプロジェクトだぞ?お前がいないんじゃ…」

「プロジェクトのことはちゃんと引き継ぐし、いつでも相談に乗る。今まで一緒にやってきたメンバーなら大丈夫だよ。」

「違う!お前のことを言ってるんだ!このままじゃー」

「家族が大事なんだ。」

「…………。」

「………俺はあの子の父親だとそう思っていた。家族のために仕事してお金を稼いで少しでも裕福な暮らしをさせて。…………でも娘は事件後に初めて俺を見たとき発狂したんだ。怖い!助けて!って……そして逃げ込んだ先が部屋だ。…………俺は娘の逃げ込む先にはなれなかった。」

「…………九十九。」

「……俺は父親になりたいんだ。あの子の。……次に怖いことが起きたら真っ先に逃げ込める場所になりたい。」


須田原は押し黙ったが則文は話を続けた。


「恵美子は仕事を辞めたよ。凛花と離れないって。俺まで辞めるわけにはいかない。だから、すまない。須田原たのむ。」


須田原はしばらく押し黙ったままでいたが、少しして則文の背中を強く叩き、話していた部屋から出て行った。


則文は須田原の出て行った方へ一礼をする。


凛花と恵美子を大切にすると再度誓うのだった。





読んでいただきありがとうございます。


皆さん、気づいてるかもしれませんが、私とても焦ってます!年内までには過去のお話を終わらせたくて頑張ってます。

なのに!脳内のキャラ達が気持ちいいほど一人歩きして、話が長く!うぅ!

則文さん!あなた自由に歩きすぎ!パパ目線なんて考えてもなかった!涙!


目指せイチャイチャ!

ファイトーオー!!

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