中学3年の1年間〜恐怖の始まり〜
※暴力的な描写があります。
というか暴力的な描写しかないです。
男の子から肩に腕を回されたまま、強引に近くの公園に連れていかれる。
それまで人通りがまばらにあったが、公園の奥に進むにつれ通行人はいなくなる。
九十九は自分の置かれている立場に焦り心臓が異様な速さで鳴っていた。
(逃げなきゃ逃げなきゃ逃げなきゃ逃げなきゃ!怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い!!!)
日が暮れはじめて全てが夕日色に染まり九十九の恐怖を更に煽った。
「わ、私!もう帰らないと!あの…離してください!」
必死で大声を出してみるが、恐怖と緊張で思いのほか声は出なかった。
そんな声を男の子たちは笑う。
「すげー震えてるし!」
「めっちゃ可愛いんだけど!ぎゃははは!」
「ってか俺らとまだ全然、遊んでねーじゃん。今からでしょ?」
彼らが誘導しようとする方とは逆に力を入れてみるが、男の子の腕の力に敵わず、ズルズルと前進する。
そして、目的地に着いたのか、その子たちが足を止め、ヤマトと呼ばれた子は奥のベンチへ座る。
あとの4人は九十九を囲むように立った。
公園の最深部にはガゼボがあり、日中は木陰で一休みできる憩いの場所であろう。しかし、夕暮れ時の現在では植栽が日の光を遮って深夜同様の暗さをしており、街中の喧騒が遠くに聞こえ、まるで隔離された場所のように感じる。
自分の心臓の音と恐怖で震え荒くなった呼吸音だけが聞こえる。九十九は男の子たちを見ると全員がニヤニヤとした顔で九十九を見ており、背筋が凍った。
(逃げなきゃ!逃げるタイミングを見つけなきゃ!)
混乱しながらも九十九は必死で避難回路を探そうと目を動かしていた。するとずっと捕まえられていた肩から腕が外される。
「さぁ何して遊ぼうか。」
そう言ってニヤリと笑ったその男の子を見た瞬間に九十九は走り出した。
恐怖で足の感覚がないが、とにかく動かせる最大の力で前へ進んだ。
「はははははは!鬼ごっこ?いいねー!」
背の高い男の子が九十九の前を塞ごうとし、それを避け、走り抜ける。
逃げきれる!そう思った瞬間、グイッと制服の襟を掴まれ、力いっぱい後ろへ引っ張られる。
ビリっと音がしたのを聞きながら九十九は後ろへとお尻から転倒する。
「ーーーっ!!」
セメントの床に強かに腰を打ち付け、九十九は痛みで一瞬動けなくなった。
「ダメじゃん!もっと頑張って逃げないと。あ、じゃー10秒だけ待っててあげるよ。その間に逃げな。いーち……にーい……」
九十九はヒューと息を吸いながら痛みに耐えて必死で立ち上がろうとするも足がカタカタと震えてうまく動けない。
それを見ながら数を数えている子とは違う男の子が「ホラ。早く逃げねーと時間ねーぞ!」と笑っている。
九十九はとにかく必死だった。つまずき、こけながらも必死で起き上がり走った。
それでも恐怖でガチガチに固まっている体だからだろうか、それとも男と女の体力の差なのだろうか、すぐに追いつかれ捕まえられる。
制服を強引に引っ張られ、引きずるように『ヤマト』のいる場所まで連れ戻された。
ズルズルと荷物のように運ばれるので制服がのどを圧迫し息ができない。セメントの床の上を容赦なく引きずっていくので足から出血している。
「10秒は短かったかなぁ。じゃー15秒でもっかいする?」
陽気な口調で悪魔のような言葉を吐く男の子たちに促され、それから何度かその『鬼ごっこ』は続いた。
逃げては捕まえられ引きずって『ヤマト』のところまで戻される。
「ヒューッヒューッ」
投げ飛ばされるように引きずり戻された九十九は俯いたまま、起き上がることができない。
あたり一面、九十九の足からの出血で真っ赤だ。
「んだよ。すげー汚くなってんじゃん。」
「あ、わりぃヤマト。遊び過ぎたわ。」
そう言って笑い合っているが、息をすることでさえも必死な九十九には聞こえていなかった。
すると、ヤマトが何かに気づいてベンチから立ち上がる。九十九はそれを視界に入れ、逃げようとするもすでに体は動けるような状態ではない。
「ヒュッ」と呼吸を飲みこんだ。
「何コレ。生徒手帳?……はは!今時こんなの持ち歩いているやついんのかよ!」
先ほど投げ飛ばされた時に九十九の胸ポケットから飛び出た生徒手帳を『ヤマト』は拾った。
「……何?…きゅうじゅうきゅう…りん…か……ってコレ何て読むんだよ。おい。聞いてんのか?」
恐怖で目を合わせられない九十九は『ヤマト』の手元を見ていたが、強引にアゴを掴まれ上を向かされる。
「いっや!!」
怖くて咄嗟に振り出した手が何かにあたり、ガリッとした感触がした。
そのことに驚いた九十九は目を見開き目の前の『ヤマト』を見る。
「…………ってぇ……」
彼の手に赤い一筋の線が見えた。どうやら九十九の爪が彼の手を引っ掻いてしまったようだ。
九十九がそう認識した瞬間だった。
バシッ!
九十九はあまりの激痛に世界が一瞬真っ白になった。どうやら渾身の力で左頬を殴られたようだった。
頬の激痛に声が出ず、ただただ息を止めて歯を食いしばることしかできない。
「テメー。いてーんだよ。殺すぞ。」
そんな九十九を見下ろしている男の子達は大声で笑っている。
「ひでー!ヤマト!」
「そうだよ。女の子を殴ってはいけません!」
「あははは!」
そんな声が遠くから聞こえる。
「なあ、お前マジで話、聞いてんの?」
胸ぐらを掴まれて仰け反らされる。『ヤマト』はポケットから出した折りたたみ式のナイフを器用に片手で開け、九十九の首元に押し当てた。
「お前みたいな女みてるとイライラする。マジこの世から消えてくんないかな。」
「……ひっ……や…」
ジワリと涙が流れる。
それを見た『ヤマト』の瞳がさらに冷たいものになったのがわかり、九十九は少し目を開いた。
ピリッと首に痛みが走った。その後バサリと髪の毛が落ちる。
九十九は『ヤマト』から目が離せないでいると、冷たい瞳は変わらず、ニヤッと彼が笑ったのが見えた。
「あ、わりぃ。キレちまった。」
彼が髪と一緒に首筋を薄っすら切ったのを理解した。
(あ……私ここで…死ぬんだ。)
そう思った。
そのときに九十九は諦めた。
『ヤマト』から必死で足掻こうとしていた手も力が抜けてダラリと下にさがる。
九十九はただ彼だけを見ていた。
これから自分を殺すであろう『ヤマト』を。
彼はそんな九十九を見て恍惚とした顔をする。
それを見た後、九十九は目を閉じた。
リリリリリリリ…!!
突然の電話の音に九十九は目を見開く。
どうやらそれは『ヤマト』のケータイの着信音だったようで、彼は九十九を離しケータイを取り出すと画面を確認して「はぁ」と小さくため息をついた。
今までひたすら無機質のようだった彼が初めて人間らしい表情をしたことに九十九は驚いた。
「…もしもし、何だよ。………はぁ?…………ふざけんなよ。」
彼はそのまま電話に出て話し出す。
口は悪いが声音が柔らかく感じる。ここにいる仲間の子たちにさえ、冷たい声を発していた彼とは思えない。
しばらくその相手と話した後、彼はスッと立ち上がり九十九に背を向け歩き出した。
「俺、帰るわ。」と。
周りの男の子たちが慌て出す。
「え?帰るんすか?」
「ちょっ!待ってください!」
「あの女どうすんだよ。」
『ヤマト』は振り返ることなく「好きにすれば」と言い捨て、歩いていく。他の子も「ヤマトさんが帰るなら帰ります!」とゾロゾロと彼について行った。
「…………………。」
九十九は唖然としたまま、その場で彼らを見送り、彼らが見えなくなるとそのまま茫然と座り込んでいた。
何も考えられず、動くことも出来ず、ひたすら放置されたままの格好で床に座り続けていた。
どのくらいの時間が経ったかわからない。
それほど長い間そうしていた。
しかし、そのとき声が聞こえた。
ハッと振り返ると誰かが喋りながらこちらへ向かってくる声がする。
もしかして、あいつらが引き返してきたのかもしれない、と九十九は震える足にムチをうち必死で立ち上がり逃げた。
走ろうとするが全身の痛みとガチガチと震える体が言うことを聞かず歩くので精一杯だった。
それから九十九はひたすら歩いた。
駅に向かおうと歩いていると人の姿を見つけ、恐怖で逃げた。電車に乗れないのなら歩くしかない。歩いて歩いて、人を見かけると逃げるように大回りをして歩いた。
(怖い怖い怖い怖い、早く帰らないと、また捕まってしまう。怖い怖い怖い怖い、)
恐怖で涙が頬を伝う。
しかし、それすら気付かないほど九十九は恐怖の中を歩いていた。
読んでいただきありがとうございます。
よし!頑張ろう!




