中学3年の1年間〜カズナと傘山くん〜
九十九の過去のお話になります。
この少し後、キツくてツライ場面も増えますが、ここまで九十九に付き合ってくれた皆さんにはできれば読んでほしいなって思います。
「りんちゃん。お母さん今日は帰りが遅くなりそうなの。どこかでまた食べてきてくれる?」
母、恵美子が朝食の片付けをしながらそう言ってきた。
「うん。わかった。納期って明日だっけ?」
「そうなの。今日が踏ん張りどころなの!」
「そっか。頑張ってね!」
「ありがとう。頑張るわ。」
恵美子は縫製の仕事をしている。自分でデザインをすることはできないが自分の手で物を作るのが楽しくて好きだと以前に何度も聞いていた。
そんな恵美子も残業が続き、少し疲れた様子であるが表情はキラキラと輝いて見える。
「お父さんは?」
「お父さんはいつものことよ。多分お母さんの方が早く帰ってくるわ。」
「お父さんも仕事好きだね〜。」
父、則文は仕事人間で定時に帰ってきたところを見たことがない。今度もまた新しいプロジェクトのリーダーになったと昨日11時に帰ってきた時に言っていた。
父も仕事が好きで仕方がない人だった。
「今日は駅前の新しくできたドーナツ屋さんで夕飯食べようかな。カズナと次、行こうって言ってたんだよね。」
「また甘いもの?りんちゃん、ちゃんと栄養あるもの食べてね。」
「ふふ、それは仕事の納期が過ぎてお母さんが作ってくれたもので補給するよ。」
母は「仕方ないわね。」と少し困った風に微笑んだ。
「じゃーそろそろ行ってくるね!」
「ええ。いってらっしゃい。」
九十九は元気に家を出て、通っている中学に向かった。
九十九凛花、14歳、中学3年生、明るくて元気なことが取り柄だと自分で思うほどよく笑い、ハキハキと喋り、誰とでも仲良くなる女の子だった。
両親がとても、仕事を楽しそうにしているので将来は自分もバリバリ仕事の出来るかっこいい女性になりたいと漠然とした夢を持っていた。
「凛花、おはよう!」
「おはよう!カズナ!」
校門手前でカズナと出会い、挨拶をした。
カズナは1、2年の時のクラスメイトで守ってあげたくなるような小動物のような可愛い女の子だ。以前クラスの男子にからかわれていた時に九十九が助太刀してから一緒に行動するようになった。
3年でクラスが離れて悲しかったが休み時間や放課後によく遊びに出かけているので逆にいい距離だなとここ最近おもっていた。
九十九はみんなと仲良くすることが好きだ。そのかわり、女子特有のグループや「◯◯ちゃんは私と1番仲がいいのに、何で他の子と遊ぶの?」などの女子内の取り合いが苦手だった。
(みんなで一緒に仲良くすればいいのに。)
そんな風によく思っていた。
「今日、駅前のドーナツ屋さん行かない?」
「えー!行く行く!」
「やった!カズナいつもありがとう。」
「えー。何ソレ。凛花とならどこでも行くよ!」
2人で笑いながら校門を抜けた。
「あ、九十九さん、おはよう…」
「あ、おはよう!傘山くん。あ、じゃーねカズナ。放課後は楽しみにしてるね!」
そう言って早々にカズナと別れた。
それは、カズナは傘山くんとのことにあまりいい顔をしないからだ。
傘山は3年になって席替えをした時に隣同士になった少しポッチャリした体系のあまり目立たない男の子だ。九十九のカバンに付いているキーホルダーを見て「あ、ニコラウスだ」と大好きなキャラクターの名前をつぶやいたとこから仲良くなった。
九十九はマンガが大好きだ。ジャンルは問わないが少年マンガが特に好きで、最近アニメ化された《憂いのリンデンベルガ》という物語にどハマりしていた。そしてその中のニコラウスというキャラクターがお気に入りだった。
ニコラウスははっきり言ってモブに近いサブキャラだ。いっそ名前を知っている人はよほどこの物語のことが好きなのだろうと確信できるほど。
そんな仲間が隣にいることに九十九は感動した。
それからは傘山とはよく喋り、マンガの貸し借りをしたり、友達を紹介してもらったりする仲になった。
もちろん九十九もカズナにも傘山を紹介した。
しかしカズナは傘山を見て顔をしかめた。
さすがに本人を目の前に失礼だと九十九は言おうとしたが、それは傘山に止められた。
「大丈夫。慣れてるから」と。
九十九は不服に思ったがこの空気をさらに悪くするのは嫌だったので彼に従った。
カズナのことも傘山のことも好きだ。だからといってこの2人が気が合うとは限らない。
傘山はとてもいい人で周りに何を言われても苦笑して許してしまう。そんな彼に気を使われたくなかった。
なので九十九はお互いが嫌な思いをしないようになるべく2人の接点を減らしていた。
「凛花は優しいよね。あんなオタクっぽい子とも話してあげるなんて。でもあんまりそういうことしてると勘違いされてストーカーとかなるかもよ?」
そんな風に言われたこともある。
「優しいとかじゃないよ。私もオタクだから気があうんだよ。」
そう言っても「も〜!凛花はどれだけいい子なの!」
と、どうも話は通じた感じはしなかった。
あまりしつこくしてお互いがさらに険悪になられては困るので九十九は深く掘り下げることはしなかった。
「うわー。おいしい!」
ドーナツをひとかじりした九十九はサクリとした軽い食感と小麦粉のほのかな甘みを感じる素朴な味わいのドーナツに感動した。
「チョコもおいしいよ!」
カズナはピンク色のストロベリーチョコドーナツを頬張りながら微笑んだ。
「お父さんとお母さんに何個か買って帰ろっかな。」
「凛花のパパママ忙しそうだねー。でも私は凛花と一緒に出かけられて嬉しいけど。」
「ふふ、ありがとう。」
九十九が学校帰りに街へ出たり帰りが遅くなるのは基本、両親が忙しくて夕飯を外で食べなければいけない日だけだ。恵美子が定時に仕事をあがる日はなるべく家に早めに帰るようにしていた。
ただでさえ忙しそうな両親と過ごせるのだ。学校であった色んな話をしたいし、両親の色んな話を聞きたかった。
「カズナは時間は大丈夫?」
「うちは放任主義だから。早く帰ってもお兄がうるさいし。」
「ふふ、兄弟っていいなって思うけど。」
「全然だよ!親の愛情はお兄ばっかにいってるし、下の子なんてどうでもいいんだよ。私は凛花みたいに1人っ子で甘々に大切にされたい!」
「ふふ、まぁ甘やかされはしてるかも。」
「でしょー!!」
キャキャ!と2人の笑い声が店内に明るく響く。
カズナといると話が尽きない。
話がコロコロと色んな方向へ飛んでいくのさえも楽しかった。
「ねぇ、凛花のクラスってカッコイイ人集まってるよね。よくクラスの子とかと1組ズルイよねって話すんだよね。」
「……カッコイイ人…かぁ…」
「うん。ほら八尾くんとか、呉前くんとか、花宮くんとか。」
「あぁ……。たしかにカッコイイね。」
「だよね!いいなぁ凛花のクラス!」
「まぁでもあまり話さないから、変わんないよ。」
そう言って九十九はカフェオレを飲みながらガラス越しの外の景色を見た。
カズナが言っていた3人は確かにカッコイイとクラス内でもソワソワとしている子は多い。
しかし、3人ともそのことを自覚しているせいか鼻に着く態度や人を小馬鹿にした言葉を放つときがあり、九十九はその3人があまり好きではなかった。
先日も傘山に対し馬鹿にしたような発言があり、カチンときた九十九は少しだけ言い合いをしてしまった。
それに彼らは九十九に対し、頭からつま先まで品定めをするような視線に這わせるときがある。
それが背筋が凍るほど気持ちが悪くて嫌いだった。
そんなこと、ウットリと彼らのことを話すカズナに言えるはずもなく、どうにか話を晒せないかなぁと思っていた。
「凛花は好きな人はいないの?」
「…え?……いないよ?」
「そうなんだ。よかった。」
九十九はその意味がわからず首を傾ける。
もともと九十九はまだ人を好きになったことがない。中学生になってから周りの子たちがよく『好きな子について』話していたが九十九は未知の世界で未知の感情だったのであまり深くその話に参加はしなかった。
もちろん九十九は少女マンガも読む。
マンガのような恋愛に憧れる一方であまり理解できないことも多い。だから少年マンガの方が好きなのかもしれない。
いつかステキな恋をしてみたい。
でも多分それは今ではない。
そんな風に思っていた。
「カズナは好きな人いるの?」
「…う〜ん。好きというか、気になるというか。」
「うっそ!誰!?」
「…え〜。言ったら凛花に取られちゃうかもしれないから言わない!」
「えー!何ソレ!取らないよ!気になる!」
再度、2人の声が店内に響いた。
大切な友達に好きな子がいるというのは不思議な気持ちだった。でもカズナは可愛いし優しいし友達想いだし、幸せになってほしい。
手助けできることならしてあげたい。
でも彼女がまだ相手を言えないのなら、まだその時ではないのだろうと九十九は思い、納得した。
「いつか教えてね。」
「うん。」
そんな風に九十九とカズナは笑いあった。
読んでいただきありがとうございます。
山下くんのいない話はやっぱり寂しいですね。
さっきドーナツを「ひとかじり」が「人かじり」になっていて、九十九!人かじっちゃった!と1人で笑ってました。
はい。どうでもいいですね。




