表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
九十九は男の絶滅を祈る  作者: 英知 圭
85/167

そして、その後。



「ね、九十九さんは山下くんにどんな風に告白されたの?山下くんは2人のときも本当にあのデレデレした態度なの?怖くなったりキツイ言葉を言ってきたりはしない?」

「……………え……っと…」


九十九は自席で困惑していた。


「ちょっと!何してんの?黒賀さん!」

「取材だけど。」


慌てて右隣に来て九十九をかばうように手を広げた山下に黒賀はケロリとした態度で返事をする。


今は1限目の終わり。

つい1時間前まであんな言い合いをしていた2人が目の前にいる。


「取材!?まだ何か書く気なの?九十九の何を書く気なの?」

「書くよ。新聞部だもん。今回はちゃんと本人から聞いた事実を書くよ。」

「いや、書かないでよ!九十九のことは放っておいて!」

「それ、山下くんが決めることじゃないし。」


ぐぬぬ…と睨み合った2人が先ほどとはまた違う戦いを目の前でし始め、九十九は「違う場所でして。」と心から思った。


山下が謝ったおかげなのか、黒賀の神経が図太いせいなのか、友達同士が口喧嘩をしているような言い合いだ。はっきり言ってとてもうるさい。


(まぁ仲良くする分にはいいけど。)


2人の話が決着するまで小説でも読んでようとカバンから本を取り、読みだす。


「九十九!今、九十九の話をしてるんだから!興味を持って!!」


山下がそう言って九十九の両頬を両手で包むように持ち上げる。

九十九は2人の顔を交互に見たあとニッコリと笑った。


「うるさいから他所でして。」


そう言われた2人は衝撃を受けた顔をして、頭をうなだれトボトボと歩いて行った。


うん、静かになったと九十九は本を読みだす。


少し遠くで、

「九十九さん、意外とバッサリ言うよね。」

「うん。ああいう時にしつこくするとたまにキレられるんだよね。」

「…山下くんでもそんな苦労してたんだね。」


と、ボソボソ喋る2人の声は九十九に届かないのであった。



昼休みになった。


「つ、九十九。あの、今日ちょっと色々と聞いてもいい?」


少しだけ表情を硬くした山下が弁当を食べ終わったあと、そんな風に言ってきた。

色々な質問なら罰ゲーム始まった日から今日まで散々されているのだが、改めてそう言われると少し身構えてしまう。


「………何の話?」

「………ち、中学の頃の話とか、あとヤマトの…」


山下の突然の『ヤマト』発言に体がビクリと大きく震える。それを目にした山下が目を丸くしたあと慌てだした。


「ご、ごめん!しない!もうしないから!」

「違うの。『その人』の名前を聞くと条件反射でこうなるだけなの。話はできるよ。しよう。」


そして、ふと九十九は気が付いた。

そういえば発作が出てない、と。


彼の名前は九十九の乗り越えられていない課題だ。彼の名前を聞いた瞬間にあの場所にフラッシュバックし、全身の機能が停止するように恐怖で染まる。

しかし、それが今日はなかった。


黒板に書かれいたがそれは気にしなかったし、黒賀や山下も彼の名を言っていたが、体がビクついただけで発作は起きなかった。


(わぁ!私、克服してる!?)


多分、場所が学校だったせいかもしれない。ヤマトはそこにいないと確信していたから。そう思えば納得する。

それに、絶対、守ってくれると信じている山下が側にいることも大きい。


なので、もしかして外出先では無理かもしれない。

しかし、この進歩は九十九にとってとても大きい。

だって今まで超えられなかった課題に少しの希望が生まれたのだから。

絶対に無理だと思っていたことが、もしかして出来るかもしれないと気付くことは人を強くさせる。


(夜の外出ももしかしたら少しずつ乗り越えられるかもしれない。だったら嬉しい。出来るように頑張りたい。)


九十九は嬉しい気持ちを大きくして、山下に微笑む。


「でも、お話はギュウしながらでもいい?」

「うん、もちろん!」


九十九の顔を心配そうにのぞいていた山下も、その顔と言葉を聞いてパッと顔色を良くする。

山下の足の間に横座りし、上半身を彼の体に預ける。すると彼の腕が九十九の腰にまわり、ギュウと力を入れて抱きしめられる。最近では当たり前になっているのでそこまでの過程がとてもスムーズだ。


「……九十九。本当に聞いていい?」

「…うん。大丈夫。『あの人』のことでしょ?何?」

「…………。九十九は『そいつ』に事件のあと会ったりした?」

「えぇ!会うわけないよ。それに会わないように極力出かけないようにしてたし。会ったらまた外に出れなくなちゃうよ。」

「…また?」

「うん。あの事件のあと自分から初めて家の外に出たのは3カ月後だったかな?あれ、もっとかな?…それから学校へ行くために外を歩く練習を始めたから出歩いたりしたけど、3カ月は怖くて一歩も外に出なかったな。」


山下が息を飲むように喉仏が動いた。見るととても苦痛そうに顔をゆがめていたので、九十九は頭を彼の首元にすり寄せる。


「…………。イジメっていうのは?」

「……中学にやっと行け出した頃にね。友達って思ってた子にちょっとね。」


先ほどの話を聞く限り『ちょっと』の範囲でおさまるものではない。山下は九十九に先を促すように顔を覗き見た。


「…さっきも言われてたみたいに、人の好きな人を取っていく嫌な女って、偉そうでムカついてたって……そう言われて……。」


九十九はこの話はあまりしたくなかった。『あいつ』から襲われたことは九十九にとって自分は被害者だと言えるが、このことについてはわからない。無自覚に人を傷つけていたのかもしれない。

女子に対してはイジメをうけて対人恐怖の対象になったが、そういう面での苦手意識も大きい。


「九十九はそんな子じゃないよ。大丈夫。」


山下からギュウと腕に力を入れられ、頭に唇を落とされる。

以前からこんな風に抱きしめられると時々、山下から頭やこめかみに髪越しのキスをされることがあったが、もしかして髪には神経が通っているのかと感じるほど彼の柔らかい唇の感触が伝わり、真っ赤になってしまう。

しかし、今日はどちらかというとホッとした。


「ん、でも無意識に傷つけていたのかも…」

「誰だった他人の言葉や態度で傷つくことがあるよ。それをどう対応するかが大切でしょ?その子に言動の真意を聞くか、その子に言い返すか、言い返せないなら距離を取るか……色々、方法はあるけどその子はイジメをすることで仕返しのようなことしてきたんでしょ?やっと学校に通えるようになった九十九に。それはやっぱり違うと思う。」

「うん、ありがとう。」


もしかして心のどこかでそんな風に言って欲しかったのかもしれない。少しだけホッとする。


「…なんて、偉そうに言ってるけど俺は人の機微に疎いし、あまり他人に興味がないから九十九の悩んでることがわからなくて困らせることも多いけど………昔の九十九がどんな風でも、俺は今の九十九が好きだし、離れることもできないから。」


そう言われ九十九は顔を上げると、真剣な表情の山下と目が合う。


九十九は不思議に思う。

山下に九十九は何もしてあげられていることがない。彼を助けたことも彼の役に立ったことも一度も記憶にない。

なのになぜこんなに無条件で大切にされているのだろう。

彼の言葉に嘘がないとわかっている分とても不思議だ。


(でも、嬉しい。)


九十九は以前してもらった瞳へのキスがほしくてまぶたをそっと伏せる。

すると、山下はその通りにしてくれた。




昼休みが終わると黒賀さんがまたやってきて色々と質問をされたが、答える間もなく山下バリケードに阻まれていた。


帰りではいまだに九十九を変な目で見てニヤニヤと笑っている人がいたが朝より全然少なかった。

朝のあの事件のやり取りと昼休みの山下からの癒しが九十九に勇気を与えており、昨日のような緊張はせずに帰ることができた。


しかし、家に帰り着いた途端にどっと疲れが押し寄せてきた。

今日は昨日の緊張が抜けきれないまま朝を迎えたし、朝は本当に不安と恐怖と疲労で体調悪かったし、朝の事件では2人の言い合いに気を揉んだ。

そんなものが一気に押し寄せてきた九十九は母に声をかけ、山下にメールを送り布団に入って深い眠りについた。


途中、夕飯とお風呂に起こされたが、どちらとも半分寝たような状態で済ませた。

その時に山下からのメールに気づいた九十九は短い文章を山下に送り、また眠りについた。


今度は帰って早々に寝た時のような深い眠りではなく、どこか半分これは夢だとわかっているようなそんな眠りだ。


そう九十九は山下との罰ゲームカップルが始まった頃から見なくなったあの時の夢を見ていた。


彼女の闇の始まりの夢を……。




読んでいただきありがとうございます。

ちゃんと帳尻合わせました。笑


さて、これからは九十九の過去の話になります。

暗い予定。あ、胃が痛い。

なので、その前にバカなことを書こう!↓


《どこへキス?》

目の前の九十九がそっとまぶたを伏せた。

山下の心臓がギュンッ!と人生初めての音を出してなっている。

(こ、これは、キス待ち顔なのでは!九十九のキス待ち顔!ヤバイヤバイヤバイヤバイヤバイ!)

そしてそっと顔を近づけようとして、ふと気付いた…………どこへ?………と。

(く、口にしていいってことかな。いいってことだよね?だってこんな可愛く待たれてるし…)

しかし、そこで違った時の不安も込み上げてきた。「こんな場所でしかもお弁当食べた後にキスするなんてー!」って怒られたらどうしよう…と。

(よし、ひとまず違うところにしてみよう。少しずつズラしていけばいいんじゃん。)

そう思って、吸い込まれるように九十九の瞳にキスをする。するとすぐに目がパチリと開いてニコリと笑顔になった。

(……………はい!セーフ!!)

九十九の満足そうな顔にホッとはしているが半分、いや4分の3はガッカリしていた。


(…………キスしたい…………)


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ