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九十九は男の絶滅を祈る  作者: 英知 圭
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彼女らの謝罪


九十九は山下の服を引っ張り小さい声で話しかける。しかし、静まり返った教室にその声は筒抜けだ。


「山下くん。もういいよ。やめて。」


山下は九十九をチラリと見るがすぐに目線を黒賀に戻す。九十九の意見など聞く気はないという態度だ。

誰もが今の山下を止められる人はいないとわかっている。

自分がしたことではないのにクラスメイトは緊張で体をガチガチに固めて時々苦しそうにツバを飲み込んでいる。


「ねぇ。真実を知らない人が言う話のことを『ウワサ』って言うんだよ。それってゴシップだよね?あ、それとも黒賀さんは噂話を集めてそれを真実に変えようとしたわけ?」

「……ち、違…」

「俺はそういうゴシップネタの真実を追求して覆すのがジャーナリストだと思ってたけど、もしかして黒賀さんと俺じゃー考えの相違があるのかな?」

「…………。」

「だってそうだよね。こんな新聞を堂々と出すくらいだもんね。しかも、何人も欲しがった九十九の悪評だ。女子生徒の欲しがるネタを望むままの形であげるなんて黒賀さんは優しいね。それにやってもいない嫌がらせを『私がした』って名乗り出るなんて、本当の犯人はほくそ笑んでるだろうね。記者きどりのバカなヤツが書いて欲しいネタを噂を信じて書いた挙句、自分から名乗り出てくれたって。もはやその人からみたら天使だよね。」


口だけで笑っている山下に、ついに何も言い返せなくなり黒賀は黙る。


「大体、九十九が新聞どおりの女の子として、いやそんなことは絶対ないんだけど、もしもそうだったと仮定として、……だったらそれがどうだっていうの?そんな女の子は男に襲われてもいいってこと?イジメられていいってこと?……黒賀さんの新聞には真実もなければ、正義も、訴えたい気持ちもないよね?この新聞は何が言いたいの?ってかこれは新聞と呼んでいいものなの?それとも黒賀さんの求めるジャーナリストって結構レベルの低いとこにあるのかな?よかったね。そんなジャーナリストだったらすぐなれそうだね。」

「………っ、」


あまりにも反論の余地のない山下の厳しい言葉の連続に黒賀の瞳に膜が張る。


「あは、どうしたの?泣くの?ってかそれは何に対しての涙なの?自分が他の子達にいいように使われたことに対して?それとも自分が誇っていたジャーナリズムがただのイジメ道具だったって気づいたから?それとも俺にひどいこと言われて自分が可哀想だから?それとも全部?」


黒賀に対し嘲るような笑みを浮かべていた山下がスッと無表情になる。


「……今、この場で泣いていいのは九十九だけだから。」


ビリッと空気がさらに締め付けられたように圧がかかる。


「九十九に謝って。」

「…………っ…………っ」


黒賀は真っ青な顔をしており、恐怖のあまり声が出ないのか、口を震わせ何度も空気を飲み込んでいた。


九十九は山下の腕を引っ張り、自分の方を向かせる。


「山下くん。もういいよ。ありがとう。本当にもう大丈夫だから。」

「よくないよ。俺は許せないし、次に同じようなことをしないように徹底して叩くから。」

「もう反省してるのはわかるから。」

「じゃー合わせて言葉でも伝えてくれないと納得できない。………それに、バレなきゃー何度でもしていいって思っている奴もいるし。」


山下の目線が九十九からクラスの女子、高旗に移る。目があった高旗は体を大きく震わせた。


「黒板に書いてあった字に見覚えがあるんだよね。1カ月くらい前かな、九十九の下駄箱に大量の画びょうを入れていた奴が『ブス!消えろ!』って手紙を残してたんだけど、その字にソックリなんだよね。……俺は手作りのお菓子とか手紙をもらったりするから、よく人の字をみるんだ。それに字って人によって特徴があって結構好きなんだよね。……高旗さんも以前、お菓子と一緒に可愛いメッセージカードくれたよね。」


真っ青な顔の高旗を山下がジワジワと攻めていく。


(つぁー!!指紋じゃなくて筆跡だったー!)


山下の隣でアチャー!と九十九が頭をうなだれる。


「九十九のことをよくブスなんて言えたよね。自分の行動かえりみたことあるの?よっぽどブスな行動に見えるけど。………それで?今回のコレはどういうつもりだったの?こんなことして何になるの?」

「…………っ、」

「嫌がらせの度合いがすっげぇ陰湿だよね。自分はバレないよう他人を巻き込み、相手の1番ツライ過去を1番キツイ形で公表する。………それで?高旗はどうしたかったの?九十九が傷付いて泣けば満足したの?それとも俺がこの嘘ネタを信じて九十九と別れればいいって思ってたの?」

「………っ、」


高旗はヒューヒューと息をするのがやっとのように震えている。


「あいにく九十九はこれくらいじゃー平気そうだし……まぁそれについては俺も色々思うとこはあるけど……それにこの嘘ネタが本当であろうと過去にどんな秘密があろうと犯罪者であろうと俺は九十九と別れる気はないし。」


山下のその発言に、逆に九十九が驚く。


「そこは別れよう。」

「うん。別れないから。」


一瞬だけ九十九の方を向き、筋肉だけで作った笑顔を見せた後すぐに高旗の方を見る。


「……でもね。いくら俺らが別れないとしても、やっていいことと悪いことくらいはわかるよね?ちなみにこれは考えるまでもなく、やってはいけないことだね?」


高旗の呼吸がどんどん荒くなり、過呼吸を起こすのではないかと九十九はハラハラする。


「山下くん!もういいよ!高旗さん、過呼吸起こしそうになってるから!もうやめて。」


山下は九十九の方をチラリと見たが、先ほど同様すぐに目をそらし、高旗の状況を確認する。


「……償えないなら、こんなことすんじゃねーよ。…………ねぇ、早く九十九に謝って。」

「山下くん!本当にいいから!『アイツ』に襲われてるのは事実だし、そんなに違わないから!」

「いや、だいぶ違うよね。それにそこじゃない。事実だったらこんな風に人をわざと傷付ける行為をしていいってことじゃないから。」

「山下くん。本当に、本当にいいの。謝罪なんてほしいと思ってないから。」


山下にそういう時、彼は少しだけ黙った。

そして高旗と黒賀を見る。


「…………九十九が謝らなくていいって。こんなヒドイことされて許してあげれるなんて本当に女神みたいだよね。……九十九の慈悲をもらえたから選ばせてあげる。」

「………?」


山下の言葉にみんな眉をひそめる。


「謝るか、謝らないか。…どうする?」


さらに続けた山下の言葉に困惑し、彼の顔を見ると氷のように冷たい笑顔を見せている。

その笑顔が底の見えない恐怖を沸きあがらせる。


「……どっちでもいいよ。好きな方を選んで。……まぁ謝らない方を選択したなら、俺のこれまでの人生でつちかってきた全人脈と手段、それから今後、持ち得る全能力を使ってお前らの人生を徹底的に潰してやるよ。」


ヒュッと生徒全員が恐怖で叫びそうになる。


そして、真っ青に震える黒賀が頭をゆっくりうなだれていく。


「…ごっ……ごめ…ごめんな、さい……。」


それを見て高旗も頭をさげる。


「……ごめんな、…さい。」


2人とも教室がこんなにも静かでなければ聞こえていないような声だった。


「…はい。わかりました。もういいです。」


九十九はそう言うしかない。

頭を下げたまま震える2人を見た後、山下を見ると少しだけ不満そうな顔をしている。

どうしよう!まだ続くの?と他の生徒の顔を確認すると、とてもツラそうな表情で押し黙っている。


(この状態どうすんの〜。)


そう混乱しかけたとき、ガラッと教室のドアが開いた。一斉にみんなその方向を向く。


「お?お前ら何してんだ?早く席に着け。」


張り詰めていた雰囲気が上原先生のあっけらかんとした声で霧散した。


「あ、そうだ。その前に今日の日直は誰だ?HR始める前に少し頼みたいんだが。」


そう生徒を見渡し上原先生が聞いてきた。


「あ、九十九、行ってきて。」

「え?」

「日直の代わりに上原先生のお手伝いしてきて。」

「え!」


日頃から九十九を1人で行動させないようにする山下にそんなことを言われたことに驚き、高旗と黒賀にまだ何か言うつもりなのかと警戒する。

そんな九十九に山下は苦笑いで返した。


「大丈夫。もうヒドイこと言わないよ。だからお願い。」


そう言う山下を怪訝な表情で見るも、山下が折れる気配はない。仕方なく上原の後ろをついて教室を出ようとすると「九十九さん。僕も手伝うよ。」と鈴木が一緒に来てくれた。


その後すぐに教室に戻りみんなの様子を伺うと、意外とスッキリとした表情をしていた。


「ねぇ…あの後……」


自分の席に着き、隣の津々見に聞いてみると「あいつがみんなに謝って終わり」と言っていた。

どうやら山下はだいぶキツイ言い方をしたことをみんなに謝ったらしい。

とにかく、みんなが普段通り……とまではいかないが普段に近い状態に戻ってよかったと心からホッとした。




読んでいただきありがとうございます。


あんな途中で切ってすみません。


でも、前回と今回のお話は読んでいて「それってどうなの?」って思う人がいるかもしれないですが、あえて言わせてもらうと、これは山下くんの言動なので!…です。

ざまぁをしたいわけではなく、彼はただ、九十九がイジメられた→悪いことしたら謝って!と単純に思う人です。やり方がアレですが。^_^ ;


嫌わないで…笑


そういえば、九十九が『ヤマト』という固有名詞が発作誘発ワードだったことをウッカリ忘れてました。

すみません。どこかで帳尻あわせます。笑

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