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九十九は男の絶滅を祈る  作者: 英知 圭
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作戦成功と次の悪意。



山下との言い合いから1週間ほどたった。


いまだに嫌がらせは尽きないが、数は格段に減っていた。

その理由は…



「な、に、これ!」


山下といつも通り登校し、靴を履き替えようとして違和感に気づいた。

九十九の下駄箱に大量の画びょうが山のように積まれている。しかも名前の書いてある場所に画びょうを刺さるだけ刺さしてあるところに執念を感じる。


「どこの画びょうを持ってきたんだろう。」

「九十九。そこじゃないから。」

「とにかく画びょうが入ってた箱ないかな。集めて職員室にでも持って行こうか。」


ゴミ箱などを周囲を探すが見つからず、仕方ないのでコンビニのビニール袋に入れることにする。


九十九は最近、上履きは家に持って帰っているし、靴は教室まで持って行っているので下駄箱を使用していない。そのままにしていてもいいのだがあまりにもインパクトが大きく先生にイジメられていると思われては面倒だった。


「あ、九十九は触らないで。危ないから。」

「ふふ、このくらい大丈夫だよ。」

「ダメ。傷1つでも付いたら俺が後悔するからやめて。」


そう言って山下は画びょうの山を両手ですくい九十九が広げているビニール袋に入れていく。


「あ、何?紙?」


大量の画びょうの中から小さなメモが出てきたので確認すると『ブス!消えろ!』と書いてあった。


「…はぁ?」


山下の声が一段低くなる。


(あぁ…山下くんのスイッチが入ってしまった。)


山下は九十九が『ブス』と言われるととても怒る。というか瞬時にキレる。

前に「あんなこと言われて何でそんなに飄々してるの!」と言われ「いや、だってブスだもん。」と肯定すると「はぁ?ブスじゃないし!!」と、九十九すら怒られた。


こうなった場合、彼をなだめるのが面倒くさい。


「ちょっとそれちょうだい。」


山下はそう言って先ほどの紙を手に取りニヤリと笑う。それを見た九十九はゾワゾワと全身が震えた。


「ダメ!それは私がもらった手紙だから。」

「九十九。手紙じゃなくて嫌がらせだから。」

「何に使うの?指紋?指紋でも取るの?」

「取れないよ。科捜研じゃないんだから。」

「それでもダメ、返して。」

「やだ。」


ツン、とそっぽを向く山下に悔しくなる。

こうなったら奥の手を使うしかない、と九十九はため息をついた。


「………どうしたら返してくれる?」


九十九は体をグイッと山下に近づけ、彼の顔を覗き込むように見つめる。


「え、九十九?」

「それ、返して欲しい。山下くんはそんな意地悪しないよね?」


ぴったりと山下の体にくっつき、顔だけ上を見上げ彼と目を合わせる。

頬が引きつってしまいそうになるのを気合いで止める。


「………う、……つ、九十九……」

「………どうしたら返してくれるの?」

「……つ、九十九が……ギュッ……て…してくれたら……」

「ギュウね。」


そのまま両手を山下の背中に回して抱きしめる。


「やっばい!マジ可愛い!」

「ふふ、…………………山下くん。紙、返して。」



これは、九十九がしたくてしてることではない。

応援者(土間)の案だ。


数日前、彼は言った。


「お前、嫌がらせをされた場合はその場でイチャイチャしろ。」

「………は?」

「嫌がらせした奴が悔しがるくらいのイチャイチャだ。山下のキレ方を見てヤバイ時は特に大げさにしろ。」

「…………なぜ。」

「俺が怪我をしないためだよ!!」


そう言って土間は包帯を巻いた腕を九十九に見せた。

あの言い合い後、再度、山下がぶち切れる事件が発生し、一生懸命とめた土間と津々見が負傷した。

九十九は申し訳なく頭を下げる。


「いいか?嫌がらせをしたらした分、目の前でイチャイチャされるっつーの定着させるんだよ。そしたら嫌がらせは減るだろ。」

「……なるほど。」

「だから、日頃のイチャイチャはなしだ。登校時の手を繋ぐのはいいとして校内のイチャイチャは禁止!その分、嫌がらせされた時にあいつが戦意喪失するくらいのヤバイの見せてやれ。」

「………ゔ……」

「お前の頑張りに俺らの平穏がかかっている。」

「…………………………ハイ。」


そう答えるしかなかった。

しかし、確かに初めは恥ずかしさと周りの憎悪オーラがひどかったが、いま現在、その効果は確実に出ている。

本当に回数が減ったし、嫌がらせがあってイチャイチャしていると「誰だよ嫌がらせやった奴は。」と逆にした方に文句が行っている。


(いよいよ土間さまと言うべきか…)


そんなことを考えているとデレデレと顔を緩めた山下が顔を近づけてきた。


「…九十九、可愛い。」


(………よし、今日も平和に過ごそう!)


そう気合いを入れるのだった。






そして、

そんなこんなで付き合い始めて1ヶ月が過ぎた。


その頃には嫌がらせもほぼなくなっていた。

もちろん女子の尖った目線や非難の言葉はあるのだが、以前のように表立った嫌がらせはない。


九十九はある一定の警戒をしながらも、以前より少しだけ楽に生活をしていた。


「ねぇ、九十九。次の日曜日はどこか出かけない?」

「え、山下くんバイトは?」

「日曜日なら休んでいいって。」

「そうなんだ。わぁ!出かけたい!」


パッと花が咲いたように笑う九十九に山下は微笑んだ。


本当は、

「ねぇ!1ヶ月もデートしてないんだけど!付き合い始めた恋人が!1ヶ月も!大体、本人の意思を無視して土日は絶対勤務なんてソレ違法だから!労働基準法違反だから!」

「うるせーなぁ。1ヶ月くらいデートしなくても毎日会ったんだろ!」

「オサムさんみたいなおっさんとティーンの1ヶ月を一緒にしないで!!」

「はぁ!?」


さんざん口論したのち「まぁでも確かに可哀想ですよ。」と、良一の天の一言で休みをもぎ取ったのだ。


山下はそんなことなどおくびにも出さず、目の前の可愛い笑顔に癒される。


「どこに行こっか。あまり遠くは無理かもだけど、この前は電車にも乗れたし少し離れてても大丈夫なはず!」

「そうだね。いつも九十九の家だったから、2人になれるとこがいいな。」

「ふふ、そんなこと言ったらお父さんが心配して付いてきちゃうよ。」

「それ、本当に困るから。いつも則文さんは離れろ離れろってうるさいんだよー。」

「ふふ、」


これまでの1ヶ月は山下が土日に休みを取れないこともありずっとおうちデートだった。

学校が終わり、そのまま九十九の家に上がり込み、ベタベタしてると則文が帰って来て「離れなさい。」と割り込んでくる。そのまま夕飯を食べて山下は帰る。

または、山下がどうしても会いたいとわがままを言って土日のバイト前に九十九家へお邪魔して一通り九十九を補充したのちお昼を食べてバイトに行く。

という罰ゲームカップル時代と大差のない生活をしていた。


「ごめんね。俺のバイトのせいでなかなかデートできなくて。」


山下が申し訳なさそうに眉を八の字に下げる。


「ふふ、私は山下くんが家に来てくれるだけでも嬉しいよ?それにもともと出不精だし、1人じゃー出かけられないから。」

「俺はおうちデートじゃなくて2人きりがいい!」


山下のキッパリとした発言についつい顔が緩んでしまう。


「おい、イチャイチャすんな。」


2人の空気を壊すような低い声が上から聞こえて来た。


「土間!してないよ。ただ話してただけだろ。」

「空気がイチャイチャしてる。やめろ。キモい。」

「空気のことまで知らないし!」

「はいはい。山下、今日日直だろ。先生が教材運べって言ってたぞ。」

「えー。土間がやったらいいじゃん!」

「あほか。誰がやるか。さっさと行け。」


山下がしぶしぶ教室から出て行った。

彼が見えなくなると、目線を九十九に変える。


「おい、九十九。ちょっと来い。」

「………何?」


土間がこの無表情に近い顔をする時はあまりいいことを言わない。九十九は少しだけ覚悟を決めて土間に呼ばれた教室端まで行った。


「お前、この学校のサイトとか見るか?」


九十九はその言葉に首を振るも、なんとなく彼の言いたいことがわかった。


「………何か書かれてる?」

「……あぁ。…まぁお前がそういうの見ねーんならそれでいい。俺もこの前ほかの奴に聞いて初めて見たぐらいだし。ただ山下にバレると面倒だから。お前だけには言っとく。」

「………わかった。」


学校のサイトに堂々と生徒の悪評を書いているわけがない。つまり裏サイトというやつか、と九十九は考えた。

それならテレビやネットなどをほとんど見ない山下にバレることも少ないと少しホッとする。


そういうことに疎い九十九にとって土間の情報はとても助かっていた。


「………ありがとう。」


そういうと土間は少しだけ眉間にしわを寄せ、目をそらす。


「とにかく、表立って何もできない分、陰でコソコソし出してる。気を付けとけ。」


九十九は素直に頷くと、土間は早々に離れて行った。




土間が九十九を教室の端に呼んだのを見た津々見は内心、また何か起きそうだな、と2人の姿を自席で眺めていた。


「九十九さんって、だいぶ表情ゆたかになったよね。最近よく喋るようになったし。」

「…黒賀?」


突然、津々見はクラスの女子、黒賀信子に話しかけられ驚く。

彼女はクラスで目立つタイプではない。まぁ大人しいというわけでもないのだが。どちらかというと騒ぎが起きても黙って状況を見守り分析して後々、意見を言ってくるタイプだ。

正直、猪突猛進で考えたことをすぐ口にする津々見は苦手に思っていた。


「そうだな。まだ何人かしか喋んねーけどな。」


九十九は前髪を切ってから感情が読みやすくなった。それに確かに以前よりコロコロと表情を変えるし、言葉を発しなくても目を合わせ意思の疎通をはかろうとするようなった。


「コロコロ変わる表情が可愛いよね。」

「……?……まぁそうか?……前よりかは?」

「そうだよ。それに元々、九十九さんって中学時代はすごくモテてたんだよ?多分モテランク5位内には入ってたよ。」

「げ、マジか。」

「あはは。確かに驚くよね。」

「……黒賀はあいつと同中だったのか?」

「ううん。噂に聞いただけ。」

「………ふーん。」

「あ、ごめんね。話長くしちゃって。じゃ。」


そう言って黒賀は津々見から離れて行った。

チラリと目を動かせば席に戻ってきた九十九と目が合う。彼女は「何?」と瞳で訴えてくるが、津々見は「いや、」とすぐに目をそらした。


「あ〜〜〜。しゃーしいなぁ。」


津々見はボソリと呟くのだった。




読んでいただきありがとうございます。


あ〜〜〜。

これから、イチャイチャラブラブが減って行く予定です。

寂しいよう。2人のラブラブが楽しみで書いてるのに。

皆さんどうかイチャイチャがなくても見捨てないで。


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