最愛の彼女について。〜敵とハグ〜
「彼女達は私だから。」
そう九十九は言った。
その意味を考えてみるけどまったくわからない。
あの子らが九十九のわけがない。
だって九十九はこんなに可愛いし、
こんなに優しいし、
こんなに強くて努力家で、
とにかく一緒にしないでほしい。いくら九十九本人でも、そこは一緒にされたくない。
「…それ、どういう意味?」
そんな風に思っていたからだろう。多分その言葉はとてもトゲトゲしい。
「…………。付き合う前……あ、罰ゲームのときにね。ミオさんと仲良くする山下くんを見て、山下くんはミオさんのこと好きなんだろうなぁって思ってたの。」
「そんなわけない。」
「あ、うん。わかってる。もう、わかってるんだけどね。その時はそう思ってたの。」
九十九が次第に顔を赤くしながら俯いた。その顔を見たくて山下は九十九の頬を手をやり、上を向くよう促す。
「罰ゲームが終わったら、多分2人は付き合うんだろうなぁって。そう思ったらすごくつらくて。いっぱい泣いたよ。」
「泣いたの?…九十九が?」
「うん。ミオさんのことは、そうじゃないって知ったけど私はネガティブだから、やっぱり色んな想像をしたよ。山下くんに彼女が出来たら…ってよく考えてた。」
「俺が九十九以外なんて有り得ない。」
「あ、うん。あの、ありがとう………。えっとね。でもその時は、そんなこと想像もしてなくて。…………多分、私は山下くんが違う子と付き合うようになったら、イジメまではしないだろうけど冷たい言葉や態度をしてしまうんだろうなぁって思ったよ。」
「………。」
「山下くんのこと好きだったら好きな分だけツライんだよ。山下くんが自分じゃない子と一緒にいるのがツラくてドロドロした気持ちが溜まっていって、つい八つ当たりしてしまう気持ちはわかるから。」
「つらかったら、九十九に八つ当たりしていいの?俺の彼女になる子はそういう運命にあるってこと?」
「ち、違うよ!」
「俺はそんなの許せない。それに大切な子を自分の手で守りたい。九十九が嫌がらせを受けて、でもそれは九十九自身が解決するから見守る…って、そんなの無理だよね?いっそそんな奴、彼氏でいる資格ないよね?」
「山下くん…」
「俺は九十九に手を出す奴は許さない。男でも、女でも。」
「…うん。ありがとう。その気持ちは嬉しいよ。」
「じゃーなんで止めるの!?」
「だって、それが私だったら立ち直れない。好きな人にそんな風に責められたら生きるのツラくなるよ。」
「あの子らは九十九じゃない!」
「ううん。私なの。だって気持ちがわかるんだもん。同じ状況になったら同じことをする。彼女達は未来の私だよ。」
「同じ状況なんてならない!九十九は俺の彼女でしょ?」
「でも、来年は付き合ってない予定でしょ?」
「……は?………はぁあぁ?…何ソレ!どういう意味で言ってんの?」
何度も九十九から「好きな人」と言われて、少しだけ落ち着いてきた怒りが再沸騰する。
「………。だってこの前、来年は誕生日を一緒に過ごせないって言ってた。来年は山下の中でお別れしている予定なんでしょ?」
「……な、違う!違うよ!」
「うわぁ〜。ナニそれサイテー。」
2人の白熱した言い合いに教室から廊下に出て来たたくさんの生徒が注目している中、少し近くで見守ってした津々見がそう言ってきた。
「うっさい!黙っとけ。」
先ほどと同じ顔、声で津々見を脅すも、先ほどと違い余裕のある顔で外国人のように肩をすくめている。
その姿がさらにイラつきを増長させる。
「違うよ。そう意味で言ったんじゃない。またケンカしたらイヤだなって、九十九に嫌われたくないなって、そう思っただけだよ!」
「…………つまり、彼女達と同じ立場になる可能性があるかもってことでしょ?」
「ち!違うよ!ならないよ!九十九は俺の大切な人だから!九十九は俺の女神だから!」
ピクリと九十九の眉が動いた。
表情が少しだけ強張り、ツライような、怒ったような、複雑な顔になったのに気付いて山下は焦る。
「………私は女神じゃない……」
案の定、声が先ほどより低い。
「違う、そうじゃなくて、俺は九十九と絶対、別れる気はないから。……それに九十九に対する嫌がらせも許さないし、あの子達に仕返しするのもやめるつもりもない。」
「山下くん。」
今までの口論がまるでムダだったかのように振り出しに戻る。
だって、山下には九十九の言っていることが理解できないのだから。
もともと九十九とは考え方が違う。
多分、自分が常識とは違うのだろうと山下は思っているが、九十九の考えを受け入れることは出来ない。
そんな頑なな態度の山下に、九十九はため息をつく。
呆れられたのか、嫌われてはないか、と九十九の表情が気になって、いつものように覗き込みたくなったが、自分の信念も曲げられないので、そこはぐっと堪えてそっぽを向いていると、九十九がパッと顔を上げて山下の顔を覗き込んできた。
クソ可愛い!
「わかった。じゃーそれでいいよ。山下くんはその子達を許さない。私はその子達を守る。その子達はそれをわかってて私に嫌がらせをする。もうそれでいいよ。」
その発言に山下を含めそこにいて見守っていた生徒すらギョッとする。
「えぇ!!いいの?」
「いい、というか仕方ないよね。山下くんは怒るし、その子達は嫌がらせをやめないし、私はついその子達に同情しちゃうし。あ、でもこれは許せないって思うことには私も同情できないし守らないつもりなんで。」
九十九はケロリとした顔で、集まっていた生徒に向かってそう言った。
「この話は終わり、教室もどろう。」
チャイムはずっと前に鳴っている。集まった生徒の中に先生も混じって様子を伺っていたのは視界の端でとらえていた。
九十九は近くで見守っていた土間と津々見に頭を下げて「ごめん、大丈夫?」と聞いていた。
「つーか、あの時のお前の顔。自分の彼氏が殺人鬼かのごとく止めるって!マジうけるんだけど。」
「…必死で。」
「いや、俺らも大概、必死な顔してたけどな。」
そんな風に3人並び教室の方へ体を向ける。
「ちょっと待って!!」
「………何だよ。まだなんかあんのかよ。」
3人が振り返り、機嫌悪そうな土間が話しかけてきた。
「あるよ!九十九があの子達を守るのもすごく不満あるけど、それよりお前らだよ!」
「あぁ!?」
「何で九十九はこいつらを頼るの?普通、最初に頼るべきは俺でしょ?それなのに、毎回毎回、土間や津々見に目配せしてんのが腹が立つ!」
「あ、なんだ。気付いてたんだ。」
「気付くよ!」
山下が嫌がらせに対して怒ったときに土間が現れ、強引に連れて行かれるときがある。
その時2人が目を合わせ、意思疎通を図っているのを見てまるで深い信頼関係を築いているようで毎回イラついていた。
九十九が困ったときは1番に頼りにしてほしい。九十九が嬉しいと思ったときに1番に知らせてほしい。そう思うのは当たり前だ。
「だってお前は敵じゃん。」
「はぁあぁ?」
「だってそうだろ?嫌がらせをした子を怒る山下、嫌がらせをした子を守りたい九十九。つまりその時は敵同士だろ。」
「……ゔ…。」
「俺らは面倒なことが起こるのを避けたいから九十九に協力してんだよ。いわば応援者だ。そんでお前は敵。支持者が応援者に頼るのは当たり前だし、俺らが仲良くすんのも当たり前だ。敵を協力して倒さなきゃーなんねーから。」
土間が九十九の肩に腕を置く。
それを見た山下は怒りをあらわにした。
「九十九に触らないで。」
「そう思うんなら少し考えた行動しろよ。」
はっ!と鼻で笑い、土間は教室の方へ歩いていく。
山下はギリッと歯をくいしばった。
土間は暗に自分達が九十九と仲良くしてほしくないなら怒ることや仕返しすることをやめろと言っている。
それが出来たならこんな騒ぎにはなってないし、そんなことも出来ない彼氏にはなりたくもない。
「九十九!」
「ん?」
「ハグは?」
九十九も土間も津々見も教室に戻ろうとした全ての生徒も先生すら「え?」と振り返る。
「ハグしようってさっき言った!」
「えーっと……授業はじまってるし、後で…」
「後はしない、今しないともうしないって九十九が言った!」
「…………今、ここで?」
「今ここで!」
山下は沸き起こる不安や不満や怒りなどをどうしても処理出来なかった。
唯一、それらを無くしてくれる存在は九十九だ。
それだけは確信している。
だから、
「先生。10分間、授業遅れます。」
「いや、………はい。」
馬鹿なことを言ってないで教室に入りなさい。と、言うことのできないオーラを発しながら山下は絶対零度の微笑みを全ての人に向けた。
全員が教室に入り、先生の声が聞こえ出す。静かな廊下にガラス越しの声が響いた。
山下は教室側の壁に背中を預け、九十九に向かい手を広げる。
「ん、」
九十九はそれを見て、少し戸惑ったあと、少しずつ近寄ってきて山下の胸に体を預けた。
「…………。」
「…………。」
ギュウと抱きしめるがまだ、不安がなくならない。
「………九十九……好きだよ。」
その言葉に甘さはなく懺悔のような音がする。
「……山下くん……私は……山下くんがあの子達に対して怒ってくれること自体は嬉しいよ?」
「え?」
「だって、それって私のことを大切にしてくれてるってことでしょ?」
「そ、そうだよ。九十九のことすごく大切。」
「うん。ありがとう。嬉しい。」
九十九に想いが伝わっていたことにジワリと心が満たされる。
「私が彼女達に同情してしまうのは気持ちがわかることもあるけど、山下くんに大切にされてるって心に余裕があるからなの。」
「え、」
「私は優しくなんてないよ、山下くん。……彼女達を同情して守ることで彼女達に、私は山下くんに大切にされてるって見せびらかしてるんだよ。そんなひどい仕返しをしてるの。」
「九十九。」
「だから、そういう意味で大丈夫なの。………幻滅した?」
「しないよ。九十九のそういう強いとこも好き。」
「嬉しい。私も。」
少し体を離し、山下は九十九の顔を両手で覆って右目にキスをした。九十九は驚いて目を丸くしたあと真っ赤になった。
可愛くてさらにキスをしようと顔を寄せると手で口を押さえられる。
「ダメ。ハグって言ったでしょ。」
「ふふ、やばい。可愛い。好き。」
ギュッと抱きしめながら頭やこめかみ、抱きしめたまま届く範囲にキスをする。止めようとしてきた九十九の手にもキスすると止められなくなった。
10分間。
山下が癒されるには十分な時間だった。
読んでいただきありがとうございます。
前話を変なとこで切っちゃったので急ぎました。
ふー。
しかも思い描いていた内容と少し変わっちゃいました。このキャラ達、脳内で自由に生きてるから。まぁ仲直りしたならいっか。




