最愛の彼女について。〜俺と九十九の差〜
「九十九。お昼どこで食べる?」
昼休みのチャイムがなり、いつもなら2人並んで旧校舎裏に行くのだが、今日は生憎の雨模様だ。旧校舎裏にはベンチがあるだけで屋根はない。
いっそ今までお昼に雨が降ることがなかったのが奇跡のようだ。
「教室で食べる?」
「え!ヤダよ!イチャイチャできないじゃん!」
「……ソダネ。」
「そうだよ!何のために学校きてると思ってんの!って話じゃん!」
「……勉強のためと思ってたけど違ったかぁ。」
そっと九十九から目をそらされる。
「九十九。あの、ちょっと場所の提案してもいい?」
「うん。どこ?」
山下はニッコリと笑って九十九の手を取り歩き出した。
「……茶室?」
「そう!」
手を引いて九十九を連れてきた場所は以前、お茶会の時に着替えをした茶室だ。
山下は借りていた鍵を使い茶室に入る。
「鍵…茶道部の人にかりたの?」
「ううん。上原先生に彼女と過ごすから茶室かしてって言ったらかしてくれた。上原先生って茶道部の顧問だから。」
「え!!彼女と過ごすって言ったの!?」
「うん。そうだよ。」
九十九は驚き口をポカンと開けていた。
そんな顔すら可愛い。
山下が上原にお願いをしに行ったのは3限目が終わり、このまま雨は止まないと確信してからだ。
「彼女と過ごしたいので茶室の鍵かして下さい。」と言うと上原は驚愕の顔をし「ついに彼女が出来てしまった!」と少し落ち込んでいた。
それ、どういう意味だろう(イラッ)と思ったが頼む側なので強くは出れない。
「彼女とあまり(イチャイチャして)過ごせないから雨の日だけ茶室をかして(2人でイチャイチャベタベタさせて)下さい。」
「……は!!……そうか。秘密にしてるのか……そうだな!他の子の目もあるし、会うこと自体が大変なんだな。わかった。ほら。」
…ん?なんか勘違いしてる?まぁいっか。都合がいいし。と、それっぽい表情だけして言及を避け、曖昧に頷いて鍵を受け取った。
「ただし、不純異性行遊はダメだ。」
「…………それってどこまでですか?キスまでですか?」
「キスはダメだ。」
「…………。わかりました。そんなことしません。鍵、ありがとうございます。」
そんなこんなで手に入れた茶室の鍵だった。
とりあえず、まず先に茶室に入ってきた九十九をギュッと抱きしめる。
「山下くん、お弁当食べよう。」
「ん、ちょっとだけ。」
午前中はずっとイライラしてた。教科が変わるたびに触るチェーンも、ずっと九十九の胸ポケットに存在し続ける防犯ブザーも山下の不安と不満を増長させるのに一役いや、十役ほど買っていた。
「あ、そうだ。九十九、ちょっと防犯ブザーかして。」
「え?鈴木くんからもらった…コレ?」
九十九が頭を傾けてつつ、胸ポケットから防犯ブザーを出した。山下はそれを受け取り、2m先くらいに投げ捨てる。
「ちょっ!山下くん!」
驚いた九十九は慌てて拾いに行こうとするのを山下が腕に力を入れて止めた。
「だめ。ここに2人でいるときは持つの禁止。」
「あんな投げ方したらなくしちゃうよ!」
「なくしたら俺が新しいの買うし。俺と2人きりでいるときくらい、他の男からもらったものを身につけないで。」
何か言いかけていた九十九の口がキュッと閉じられる。やっと山下の言っている意味を理解したのか顔が徐々に赤くなっていく。
「他の男からって……鈴木くんだよ?」
九十九にとって鈴木がどの位置にいるのか山下にはわからないが、少なくとも山下にとって鈴木は脅威で津々見は驚異だ。
「……鈴木が女の子だったらギリギリ許してあげる。鈴木は女の子?」
「お…男の子……」
「じゃーダメだね。」
ニッコリと九十九に笑って見せると、彼女は目を少しの間さまよわせたあと小さくため息をついた。
「わかった。2人のときは外すから。でも投げるのはやめてね。」
「ん、」
その後しばらく抱き合っていたが、お弁当を食べようと九十九を放すと顔を真っ赤にしてた。それがすごく可愛くてまた抱きしめたら「いい加減にして。」と怒られた。
とにかく茶室の居心地は最高で、2人でゴロゴロと畳に寝転んで近い距離で他愛ない話をして笑いあった。
幸せ過ぎる。
「私、お手洗い行って教室に戻るね。山下くん先に行ってて。」
そう言って九十九は教室近くのお手洗いに行った。
「……………いや、おかしくねぇ?」
あれからすでに10分近く経過している。さっき予鈴も鳴ってしまった。
女の子は色々と時間がかかるというけど、九十九は化粧をしているわけでもないし、これはちょっと長過ぎる。
山下は女子トイレの前に立ってみた。
廊下を通る生徒から少し不審な目で見られるが、そんなことはどうでもいい。
それより中から聞こえる少し争ったような声の方が気になる。
山下はスッと心が冷めていくのがわかる。
「九十九いる?いるなら10秒数えるうちに出てきて。出てこないなら俺、トイレに入るから。」
大きめの声でそう言うと、中で九十九以外の女子の焦ったような声が聞こえてくる。
「いーち、…にーい、…」
数えていくと『8』を数え終わったくらいに4人の女子が俯きながら走ってトイレからに逃げて行った。
「九十九?」
山下が女子トイレに入ろうとすると、九十九がヒョコっとトイレから顔を出してきた。
髪がグシャグシャに乱れていてアゴ付近に3cm程のミミズ腫れが目に入った。
それを見た瞬間カッと一気に体が熱くなる。
「あいつら…」
さっきの女子を追いかけようとした瞬間に九十九から抱きつくようにして止められる。
「だ、大丈夫!たいしたことされてないよ!ケガもしてないから!やめて!山下くん!」
「アゴにケガしてる。あいつら絶対、許さない。」
九十九は全力で止めているつもりだが頭に血が上っている山下から軽々と体を離される。
「本当にやめて!あ!」
山下が九十九を剥がし走り出した先に土間と津々見が談笑しながら歩いているのが見えた。
「止めて!2人とも山下くんを止めて!」
ギョッとした表情の2人の間を走り抜けようとしたとこで2人同時にタックルされるように止められた。
しかし、山下はそれを押しのけて前に進んで行く。
「マジか!ちょ!落ち着け山下!」
「いてててて!やめろ!止まれって!」
土間と津々見は必死で山下の手や足に絡みつく。
ピタリと山下が前進していた足を止めので「やっと落ち着いたか?」と顔を上げて山下の顔を見た瞬間、全ての機能が一時停止するように動かなくなった。
「邪魔すんな。」
地を這うような声が降ってきて無意識に力を緩めてしまった2人の手をはらいのけ山下が進み出す。
「ダメ!」
「九十九。」
土間と津々見が悪戦苦闘した間に九十九は山下の前に出て両手を広げて廊下を塞ぐ。
「どいて。」
「イヤだ。」
「あいつら絶対、許さない。」
「本当に私は大丈夫。山下くんが来てくれたから。だから本当にいいの。」
「俺はよくない。あいつらに仕返ししないと気が済まない。」
「仕返しなら私がした。髪を引っ張られたから、それ以上に引っ張り返してやった。自分で仕返ししたから山下くんはしなくていい。」
その言葉を聞いて山下は眉をひそめた。
そう言われると、山下が彼女達に仕返しする理由は私憤だと言われているようだ。それでも山下は感情を止めることが出来ず、九十九の手を押しのけ進もうとした。
「山下くん。ハグしよう。大丈夫だから。ね?」
「………後でいい。今は…」
「後ではしない。今しないならもうしない。」
ぐっ、と喉がなった。
そんなの無茶苦茶だ。卑怯な脅迫だ。
どうにか自分を止めるためだけの言葉だとわかっているけど、そんな言葉、無視できるわけない。
歯を食いしばりコブシを握りしめてその場にとどまると、九十九がホッとした顔で目の前に寄ってきた。
少し悔しくて目を合わせないでいると、小さな声が聞こえた。
「ずるい言い方してごめんなさい。」
「………。」
「山下くんがすごく心配してくれてるのわかってる。でもこれは私の戦いだから、私と彼女たちでやり合うからいいの。」
九十九の言葉に押し込めていたものがプツリと切れたような気がした。
「意味がわかんない。もともと九十九に嫌がらせをしているのは俺のことを好きだって言ってくれた子だよね?じゃー九十九だけの戦いじゃーないよね?俺のせいなんだから。俺がどうにかしなきゃーいけないことだよね?」
「違うよ。山下くんのせいじゃない。山下くんが動いてくれても彼女達は私自身が山下くんに見合わないと思ってるから嫌がらせはなくならないよ。だから私が戦う必要があるの。」
「は?それこそ意味がわかんない。大体、俺に見合うか見合わないかは俺が決めることでそいつらが決めることじゃーないよね?」
「そうだね。それはその通りだよ。でも、感情ってそういうものだよね?どうしても自分の心の中だけじゃー消化できないものがあって、つい八つ当たりしたり妬んでしまうことあるよね?」
九十九の言っていることが抽象的すぎて理解できない。
でも、九十九が嫌がらせをしてきた女子のこと庇おうとしているのはわかる。
それが無償にイライラさせる。
山下の中で大切な人はごく少数しかいない。
その少数の中の大切な大切な女の子が九十九だ。この身に変えてでも絶対に守ると決めている。
でも彼女には守るべき人が多くいるようだ。自分のことをいじめるような子でも、名前を知らないような子でも幅広く彼女は守っている。
しかも、山下から。
もしかして俺の存在もその浅くて広い一部にいるのだろうか。名前も知らない女子たちと同程度の場所にいるのではないのか。
だって九十九は俺から彼女達を守ってるのだから。
そんな風に考えてしまいイライラが増す。
「わからない。九十九はなんでそんなにそいつらを庇うの?前もそうだった。叩かれて噴水に落とされたときも『大丈夫』『彼女達が可哀想』って。…何が大丈夫なの?彼女達のどこが可哀想?」
ついイライラした口調で九十九に問いただしてしまう。
そんな山下の態度や口調に少し肩を震わせた九十九が一度うつむいて、何かを決心したかのよう山下の顔を見上げる。
「彼女達は私だから。」
読んでいただきありがとうございます。
ホクホク幸せからの急激展開。
どこで切ればいいのかわからなくて、へんなとこで終わってしまった。




