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九十九は男の絶滅を祈る  作者: 英知 圭
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幸せと反動。


ガツンと足が何かに引っかかり、九十九は前方へよろめく。


「わっ!」

「九十九!」


そのまま前にこけそうになったのを山下がすかさず手を差し伸べて支え、そしてそのままギュッと抱きしめられる。


「大丈夫?足くじいてない?」

「あ、ありがとう。山下くん。」


山下へ九十九は動揺しながらもお礼をのべると彼はニコリと微笑んでくれる。


「ご、ごめんなさい!私、人が通っているの気づかなくて!」


どうやら廊下脇で話をしていた女子生徒の足に引っかかり転倒しそうになったようだ。彼女の言葉に九十九は首を振り頭を少し下げ、その場を通り過ぎようとすると、


「その顔程度でよく勇也の隣にいられるよね。」


ボソリと小さな声が聞こえてきて、九十九は心臓をキュッと締められたように驚く。


(あ!ダメだよ!そんなこと言っちゃー!!だって)


「え?そういう君の顔はどの程度なの?」


九十九が驚いていた瞬間に山下からの冷たい言葉がすかさず降ってくる。それを聞いた女の子はサッと顔色を悪くした。


(変なとこで地獄耳なんだからーーー!!)


「や、山下くん!いいから。行こう。」

「ん?よくないよね?…ねぇこんな可愛い九十九のこと『その顔程度』って言うんだから自分はどの程度だって言ってるの?さっきの言葉どう意味で言ったの?」

「や、山下くん!」


山下との交際が学校生徒に伝わって4日後ほどし、ショックから立ち直った女の子達からの嫌がらせが少しずつ始まり出した。

学校では山下とほとんどの行動を共にしているのでこういった事態がときどき発生する。

そうなったときは地味にキレた山下を抑え、女の子を逃すことが九十九の仕事になっていた。


目の前にいる女の子は真っ青になり、言葉を詰まらせている。それはそうだろう。彼から『どの程度の顔』と聞かれて反論できるのは国宝級イケメン、または国宝級美女くらいしかいない。


「ね、早く行こう。」


山下から片手で抱き寄せられていた九十九は、彼女をかばうように山下の目の前に体を動かす。

女の子から九十九に視線を変えた山下は少し嬉しそうな顔をした。


「近くの席がいいな。ね?」


そう言いながら目的の移動教室の方へ方向転換するように彼を引っ張る。

山下は九十九を見て顔を緩めた後、ふと思い出したかのように先ほどの女の子の方へ視線を戻し何かを言おうとした、


「おい、適切な距離!」


後ろから大きな声がし、振り返ると土間がイラっとした表情で近くにやってきた。


「ちょ!違うし!九十九がこけかけたのを支えただけだし!」

「うるせーよ。どうせ、ラッキー!堂々と触れる絶好のチャンス♫とか思ってんだろ。」

「はぁ?そんなこと思ってないし!」


一通りギャーギャーと騒いだ後、土間が山下の首根っこを掴んで歩き出した。

九十九はチラリと先ほど足を引っかけてきた女の子の方を見るとすでに逃げた後だったことにホッとし、山下の方を見る。すると土間と目が合いすぐにそらされる。


(アシストありがとうございます。)


こうした出来事がときどきおこる中で土間が割り込んでくる場面がチラホラと見られる。

なんていいタイミング!と最初は思っていたが、どうやら故意にしてくれていることが薄々わかった。

堂々とありがとうとは言えないので、目があった時に目礼をすると、フンと目をそらされていた。

山下は九十九のことで怒り出すと九十九でも手がつけられないことがある。そんな時に強引に引っ張ってくれる土間の存在はとても助かっていた。



「はぁ〜〜!何なの?土間って!いつもいきなり出てきて離れろ離れろって!九十九のこと好きなの?」

「ふふ、それはないでしょ。」

「じゃなきゃー何なの?監視してんの?ずっと?絶対、自分に彼女いないからヤキモチ妬いてんだ!人の幸せを祝えない奴なんだよ!」

「山下くん、苦しいから。」


ギュウギュウと力いっぱい抱きしめられ、九十九は山下の腕をパタパタと叩いた。


「はぁ。九十九、可愛い。」


一度、腕を緩めた山下が九十九の顔を見て、再度ギュウ〜と抱きしめてきた。


苦しいと思いながらも九十九は頬を緩めながら山下の首元に頭を擦りよせた。


思い返せば4日前のこと。



「昼休みの2人しかいない場所ならどんなにイチャイチャベタベタしてもいいって土間に言われた!」


と、山下が真面目な顔して言ってきた。

しかも両手を広げて。


「いや、ご飯たべるから。」

「俺が食べさせてあげる。」

「絶対イヤ。」


即答すると山下がショックを受けた顔をする。


「………朝も…九十九は土間の後ろに隠れた。九十九は俺じゃなくて土間の味方するの?」

「み、味方って訳じゃないけど、皆の前でイチャイチャは恥ずかしいよ。」

「何で?周りなんか関係ないし。恥ずかしいって何が?」

「私は周りの目を気にしちゃうよ。恥ずかしいと赤くなっちゃうし、そんなの姿は見られたくないよ。」


もともと山下とは価値観が違う。

九十九が周りの目を気にしてビクビク過ごしてきた日々と違い、彼はいつでも周りから見られる立場にいたからなのだろう、どんなに周りから視線を向けられようが気にした素振りをまったく見せない。


しかしそれは彼のせいではなく、彼を取り巻いた環境のせいで、それが悪いことではない。

そう思うと「何で皆が見てるのにそんなことするのー!」と怒り出したい気持ちがスンと消えてしまった。

価値観の違いは仕方がない。諦めるというか、折り合いをつけるしかないのだとわかった。


九十九の思いを丁寧に説明して、山下の気持ちも聞いて、譲れるところと譲れないところを折り合いを付けていく。

そんなことをし出すと何だか初々しいカップルというより熟練夫婦のようだと少し思ってしまったが、山下と仲良く一緒にいるためだと頭を振り、思い直す。


「山下くんから食べさせられると恥ずかし過ぎて味がしないと思う。そんな美味しくないご飯は食べたくないです。」

「………はい。」

「イチャイチャはお弁当を食べてからにして下さい。あ、でも急かされても困るので30分からにした下さい。」

「………はい。」


九十九の淡々とした言葉に、怒ったのかなと不安気な表情をみせていた山下だったが30分後にはそんな仮面を取っ払い自己主張を思いっきりしていた。


「九十九をギュウって抱きしめていたい!でも顔も見たい!だから膝に座って!」

「イヤだよ!恥ずかしいよ!」

「九十九、正面からもイヤって言ったじゃん!」

「山下くんに乗るのはムリ!」


言った後、自分の言葉の内容に羞恥した。

何を言ってるんだ私は…と俯いていると山下は気にした風もなく「乗らなきゃいいの?」と聞き返してきたので頷く。


結果、山下の膝の上ではなく、足の間に横向きに座ることで折り合いがついた。というか、これ以上は山下が聞いてくれなかった。


そんなこんなで食後は4日連続してこの体勢でいる。そのまま定着するのだろうか、そう懸念するも少し慣れてしまい、羞恥より安心や幸せを感じ始めてきてしまっている自分がいる。


まだ少し寒い空気の中、暖かい体温に包まれた九十九はまぶたが重くなるのを感じた。

それに気づいた山下が頭の上でフッと微笑むのがわかる。

ソッと頭を撫でられ、肩を撫でられ、頬を包むように撫でられる。つい、ふふ、と笑ってしまうもそれ以上反応する力は残ってなくそのまま意識を手放してしまった。


キーンコーンカーンコーン


チャイムの音に驚きハッと目を覚ますと、目の前にある山下のつり目の瞳も同じように驚いた顔をしていた。

2人で抱き合ったまま寝ていたようで予鈴で目が覚めたことにすぐに気付き、慌てて教室に走る。


なんとか先生が来る前に席に着くことができ、九十九はホッとすると同時に机にうなだれた。


「はぁーはぁー。キツイ…。」


寝起きに裏校舎からのダッシュはインドア派な九十九にはキツイ。

なかなか戻らない呼吸と心拍数に苦しみながらも山下の方を見ると、ケロリとした顔でこちらを見ている彼と目があった。


ふんわり笑う山下の表情は誰が見てもご機嫌だとわかる。


(なんて幸せなんだろう。)


好きな人がこんなにも愛情いっぱいに接してくれる。こんな状況が幸せじゃなくてなんだろう。


しかし、山下から告白された時のようにフワフワとした気持ちにはとてもなれなかった。


根っからのネガティブな思考はそうそうなおることはない。

幸せなことがあればその反動が来るはずとつい身構えてしまうのだ。幸せが大きければ大きいほど反動も大きいはずだ、と。


(山下くんとの幸せはいつまで続くのかな。できれば反動がどんなに大きくても、どんなに長く続いてもいいから山下くんとずっといたいな。)


九十九はソッと祈るのだった。





読んでいただきありがとうございます。


そういえば、今まで1ヶ月を1日1日書いてきましたが(とか言って本当はうっかり1日足りないんですが)

このたび初めて4日飛び越えました。

どうでもいいがな。笑


もどかしい時間が少しだけスピードアップするはずです。…多分。

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